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私は今、ビルの屋上にいる。
ローファーを脱いで、しっかり揃えてローファーの下には手紙を置いた。
一般的に遺書っていうやつを書いてみた。
そこに私のことをいじめた奴の名前と、内容を一時も漏らさず書いてやった。
これをみて、あいつらは苦しめばいいんだ。
準備ができれば、私はフェンスのない屋上に立ちすくむ。
もう死ぬんだ。
あと一歩踏み出せば偽善者の集まりから解放されるんだ。
自殺に必要なのは、少しの覚悟と恐怖心に打ち勝つ精神力。
それと、この小さいようで大きい一歩を踏み出す勇気だ。
私は今、それを使い果たす。
今思えば、短い人生だったのかもしれない。
私は今高校2年生で、やりたいことおもこの先挑戦してみたいこともたくさんあった。
友達っていうやつを作って、ボーリングとか夏には海とか行ってみたかった。
でも、もういいんだ。
もう全部どうでもいい。
私は一刻も早くここから飛び降りて自由になるんだから。
私はそう思うと、意を決してついに一歩を踏み出そうとした。
「ねえ、あんた死ぬの?」
「え?」
突然後ろから声が聞こえて、驚いた私は後ろにひっくり返る。
一回覚悟をしたその足は、ガクガクと震えだし、一気に恐怖が体中を襲う。
「...なに?」
震える自分の体を押さえて、声のした方を振り返るとそこには、私と同じくらいの茶髪の女がこっちをみて座っている。
「いや?別に何もないけど、なんか死のうとしてるからさ。」
そういいながら、その女は私に近づいてくる。
「だったら何?あんたには関係ないでしょ。こっちにこないで。」
私は冷たくそう言い放つと、近づいてくる女から逃れようと体を後ろに引っ張るが、さっき勇気を使い果たしたせいで体が言うことを聞かず、ただただ震えているだけだった。
そう考えている間にも、女は私の前に立っていて、私を見下ろす。
私は俯いていることしかできずにいた。
するとすっと私の視界に手が入る。
私はとっさに顔を上げると、目の前の女はさっきまでポッケに突っ込んでいた手を私の方に差し出していた。
「な、に?」
私はその手を取ることができずにいると、その女は笑いながら言う。
「なんで死のうとしてんのさ、こんなにいい天気の日に!」
明るい声でそう言うと、目の前に出された手は私の手を握って、思いっきり引っ張る。
「いた、痛い!」
私の手を握るこの女の力はすごく強くて、その痛みに私の顔は少し歪んだ。
私が痛いと叫ぶとその女は私を起き上がらせた後こう言う。
「あぁ、ごめんね?痛かった?でも、あんたからしたら、こんな痛みどうってことないでしょ?今から死のうとしてたんだもんね!」
そういって私のことを立たせると、その女は、私が飛び降りようとしていた屋上の端に足を投げ出し座り、隣をポンポンと手でたたいて言う。
「座んなよ!ここ。」
「なんで?」
私がそういうと、その女が続ける。
「いいじゃん、話聞かせてよ?」
「あんたには関係ない。」
「うん、だから聞いてるんだよ。」
「は?」
この女が何言ってるのか私には理解できずに、クエスチョンマークが頭に浮かぶ。
そんな私を置き去りにして女は続ける。
「だーかーら、関係ない私にだったら、あんたが何で死のうとしてるのか話しても別にいいじゃん。」
「なんであんたに話さないといけないの?」
「あんた死ぬんでしょ?だったら別に最後くらい死ぬ理由を私に話して死んでも別によくない?」
逆にすっきりするかもよ?と目の前の女は私に笑いかけると、また自分の隣をぽんぽんと叩く。
最初は話す義理なんてないから話したくなかったけど、結構しつこいこの女に負けて、女と少し距離を開けて座った。