8. 一日が終わり、また始まる
夢のような(夢だけど)
キャリーケース欲しい。
全女子の憧れですよね。
はい?奇跡とな?
ゆっくりと湯船に浸かりながら、侍女さん達が盛り上がっているのを聞いていた。確かに、最初に入浴した時もお湯の香りに気が付いたけど・・・。
「とにかく奇跡の事は置いといて、ルイ様、寝台にどうぞ。慣れないコルセットやドレスでお疲れでしょう?マッサージをしますわ」
きゃいきゃいと奇跡だとか、魔法だとか言い合っていたが、あの真珠のピンを貸してくれた侍女さんがハッと気づいたように声を上げた。相当私がぼんやりしていたようだ。
「ルイ様、肩回りのマッサージからしていきますね」
彼女に促されて寝台に寝そべると、温められたオイルを垂らされた。掌を使った丁度良い力加減にうっとりとして思わず眠りそうになった。イケナイ。このままだと眠ってしまう。どうしよう・・・
「あの、皆さんのお名前を教えて下さいませんか?」
そうだ!名前。侍女さん達の名前を聞こう。だって、失礼だよね?いつまでも侍女さん呼びじゃね。
「ああ!大変失礼しました。私はルイ様の部屋付侍女のマヤといいます。それから、おみ足の方をマッサージしているのが、ミカ。お着替えの準備をしているのがカレンですわ」
「皆さんが私の侍女さんですか・・・」
「はい。でもルイ様の部屋付侍女は全員で5名います。交代でお仕えしますので、今は居ないジルとダリアも先の入浴の時にお会いしております」
「5人もいるの?私一人に?」
「少ないくらいですわ!聖女様のお世話ですもの!もっといても良い位ですが、シューゼット様から最初から沢山の人に囲まれるとルイ様がお疲れになるだろうから、最小限でまず慣れて頂いた方がよいだろうと」
「そう・・・ですか。確かに沢山の方にお世話されるというのも・・・慣れていませんね」
「という訳で、何かございましたら直ぐにおっしゃってくださいな。私達はルイ様にお仕えできるのを誇りに思っていますので!誠心誠意努めさせて頂きます」
マヤさんが元気な声でそう言ってくれた。他の二人も同意してくれている。心細かった気持ちに小さい明かりが灯ったように温かくなった。
「ありがとう。みんな・・・、これからよろしくお願いします」
寝台にうつぶせになっていながら、私は涙が零れるのを止められなかった。
マッサージを受けて、髪も洗い、じっくりと温まってようやくお風呂から上がった。身体が軽くなったのが判る。マヤさんとミカさんも結構いい技術持ってると思う。さすが神殿勤務の聖女様付侍女さんだ。感心しながらキャリーケースから取り出したエッセンスをこの世界のオイルに垂らして使ってみた。
「ルイ様。すっごくいい香りがしますね?それにしっとりサラサラの手触りですわ」
また魔石を使ったブラシ、温風ブラシを使って乾かしながらブラッシングしてくれる。マヤさんは私の髪に指を通しながらそう言ってくれる。
「ラベンダーを主にしたヘアエッセンスというのを混ぜてみました。このオイルはとっても良いオイルなので香り付け程度にですけど」
「そうなんですね?ルイ様はとってもお詳しいのですね!私達も勉強させていただきますわ」
「そうですね。私にもこの世界の事色々教えて下さい」
「はい!」
侍女さん達は私を囲んで、にっこりと微笑んでくれた。
それから、私はネグリジェ?のような寝間着に着替え、またまた美容部員の様に皆に説明しながら夜のスキンケアをした。今日1日で色々あり過ぎた。天蓋付のベッドに、ぱふんとダイブして天井を見上げた。
「それでは、ルイ様、お休みなさいませ。御用がございましたら、寝台の脇にあるその紐を引っ張て下さい。控えの間にいる私が今夜の当直ですので、すぐに参ります」
マヤさんが魔石ランプ?をサイドテーブルに置くと軽く傘の部分を一撫でして明かりを落とした。そうか。マヤさんが近くにいてくれるんだ。それは心強い。
「ありがとう。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさいませ」
眠れるか心配だったけど、さすが私。どこでも寝られる図太パワーが発揮され、すぐに意識を放り投げてしまった。
「ルイ様。おはようございます」
カーテンが開けられる音に目が覚めた。見慣れない白い部屋。身体を包む大きくて柔らかなベッド。窓辺から差し込む朝日のきらめき・・・
「ゆ、夢じゃなかった」
「ルイ様?お目覚めですか?」
「おはようございます・・・えっと、ジルさん?」
「えっ!?ルイ様、私の名前を憶えて下さったのですか?」
昨日教えて貰ったことを伝えると、ジルさんは嬉しそうに笑った。やっぱり、名前を呼んで貰うっていいよね。とは言っても、やっぱり夢じゃなかったんだ。一晩寝たら元の世界にいるなんて、淡い期待をしていたけど。本当に異世界に来てしまったんだ。
「・・・・・・」
「ルイ様?」
「ああ。ごめんなさい。起きました!大丈夫です。バッチリ目が覚めてます!」
ジルさんは、一瞬心配そうな顔をしたけど、私の返事に安心したように微笑んだ。
「ルイ様、まずは湯あみをしましょう。それからお着替えをしてから、朝食を頂きましょう。今日から弔いの儀が始まりますので早めに準備を致しますね」
そうだった。今日から3日間のお葬式が始まるんだった。弔いの儀というのか。そう言えば王子様が喪主?になるんだっけ。
「おはようございます。ルイ様。湯あみの準備ができましたのでどうぞ」
「あっ。ダリアさん。おはよう」
「!」
お風呂の準備をしてくれたのはダリアさんだった。やっぱり、彼女にも感激されてしまった。3人でワヤワヤしながら浴室に行く。そして、キャリーケースをまた3人がかりでテーブルの上に置いていつでも使えるようにしておいた。
「あらっ?いい香りですね。とっても爽やかですぅ」
ダリアさんがクンっと鼻を鳴らした。本当だ。今朝のお湯の香りは柑橘系の爽やかな香りだ。ダリアさんもバスオイルは入れていないという。やっぱり、これって普通じゃない。どういうことだろう?
「昨夜のお湯も、良い香りがしたって日誌に書いてありました。奇跡ですぅ。これはルイ様の奇跡ですわ」
ダリアさんは興奮しながら私の髪を洗い、お嫌いでなければ?と聞かれながら柑橘系のオイルを髪に少し揉み込んだ。辺り一面に広がった、爽やかな甘酸っぱい良い香りで気分が一気に晴れ上がった。
「いい香りですね。ありがとう」
いいえ。とにっこり笑うと髪を乾かしてくれた。おお!この柑橘系オイルは良い具合にしっとりサラサラになる。この世界にも色々な種類があるんだなと感心してしまった。
バスローブを着て、朝のスキンケアをしようと、キャリーケースの中のメイクボックスを引っ張り出した。それから、基礎化粧品も一式。
「おや?あれっ?」
「どうしました、ルイ様?」
私の声に、ジルさんとダリアさんが片づけの手を止めて近寄ってきた。
「あのね、これ昨日使ったのよ。これとこれも。でも、今見たら使ってないことになっているの」
「使ってないこと?」
一回分の目盛りが判るようになっている化粧水の瓶は、どう見ても減っていない。2回分は使用しているのに。それに、クリームにもスパテラの跡も付いていない。ファンデーションとアイシャドウや口紅にも使用した痕跡が無い。つまり、みんな新品に戻っている。
「使った分が、自然に補充されている?ってこと?」
もしかして、このキャリーケースに収納しておけば使用した分が補充されて元の新品になるってこと?
「マジか?そうだったら、凄い!ずっと使えるってことよね?」
一人で考えあぐねていると、二人が心配そうな顔で見つめていることに気が付いた。
「ああ。大丈夫です。早く支度をしますね。ところで今日は、何を着ればいいんでしょうか?」
「今日と明日は黒の弔いのドレスになります。そして3日目は聖女の白い式服になります」
ジルさんが、黒いドレスを見せてくれた。襟の詰まった長袖のシンプルな黒いドレスだ。手触りは最高級の絹地だろう。厚手の布地は張りがあって綺麗なラインが出そうだ。
「ルイ様、髪は少し上の方でアップにしますね。その方が奇麗な首のラインが映えますから」
「お任せします」
ジルさんが、手際よく髪を結ってくれる。前髪は横分けにして斜めに額に被るようにして、高い位置で夜会巻きを作る。スッキリと品良くシネマの女優のようだ。自分でもびっくりする。
「さて、メイクは」
ここからは、また美容部員になった。ジルさんとダリアさんが目をランランと輝かせて鏡越しに見ている。ちょっと緊張するけど。
「ファンデーションは丁寧に濃くしないで、アイシャドウはパールの入っていないブラウンとパープルを品良く暈かして。眉とアイラインは自然に。口紅は肌色に合った、朱色に近い赤を。睫毛はウオータープルーフの落ちないタイプで・・・と。チークは顔色を整える位にします」
「「おお~」」
二人がパチパチと拍手をしながら、鏡の向こうで感心したように見ている。どうかな?と振り向くと、コクコクと頷きながらじっくりと見られた。
「ルイ様!とってもお綺麗です!まるで異国の貴婦人のようですわ!!」
二人に褒められて、恥ずかしい気持ち半分、嬉しい気持ち半分のまま、ドレスに着替える。忘れてた。このタイプのドレスは、やっぱりコルセットをしなくちゃいけない。
「さあ、ルイ様。少しだけ締めますわよ!」
覚悟を決めて初コルセットに臨んだけど、不幸中の幸いだった。大会に出るため多少無理していたせいか、ウェストが細くなっていた!!まあ、この世界の標準には届きませんけど?良いんです!!
ドレスを着るまでが大変で、コルセットまでしてしまえばあとは簡単とは言わないけど苦労することはない。黒曜石のイヤリングだけを付けて完成。
「「「お疲れさまでした~」」」
3人でお互いを労った。もしかして、これからずっとこんな感じになるのかな?大丈夫か?私!?
ようやく着替えが終わり、応接間に戻ってきた。直ぐにジルさんが冷たいレモン水を用意してくれた。スッキリ爽やか。身体の隅々に行き渡る感じがする。
「おいしい~!」
一気に飲んじゃった。と、その時。部屋の扉がノックされた。
「ルイ様。おはようございます」
返事をすると、直ぐに扉が開いた。シューレットさんとその後ろからユージンさんだ。
「おはようございます。昨夜は良くお休みになれましたか?」
ああ。朝から何てキラキラしい!朝日を浴びて紫色のおかっぱ頭が眩く輝いて大変お美しゅうございます。後ろの騎士サマも何て凛々しいノデショウカ?現実離れした二人の姿に、一瞬意識を飛ばしてしまいましたよ。
「ハイ。ヨクネムレマシタヨ?」
いつか、この風景にも慣れることができるんでしょうか・・・?ガンバレ!私!!
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頑張るパワーを下さいませ。
初めての聖女&職業物です。
キャラは美形多めでいきます!
別話「妖精姫である・・・」の誘拐編が完結しました。
これから番外編をちょこっと投稿していきます。
宜しければ、そちらもお楽しみくださいませ。
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