7. 弔いの夜はお静かに
ゆっくり更新します。
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神殿の廊下は蒼白い照明が点灯して、歩みが進む前方の光が進む速さに呼応するかのように大きく膨らむ。
「不思議な照明ですね・・・?」
何とは無しに声が出た。静かな廊下には私達の足音しか響いていなかったので、思いのほか大きく聞こえた。
「ええ。この神殿の松明は本物の炎ですが、それ以外の照明は魔法石で明るくしています。大小、色も場所や用途に合わせて使われています」
「ほぉぉ。マホウセキですか・・・」
「今夜は、先代の聖女様の弔いの夜ですから、普段より明かりは落としてあります」
「・・・そうなんですね・・・」
そうだ。パトリシア様がお亡くなりになったから、日本で言えば、お通夜の前日になるということか。
弔いの夜。というんだ。
パトリシア様の事を思い出し、鼻の奥がツンとした。
大きな扉の前に来ると、シューゼットさんが指も触れずに開けた。多分、これも自動ドアということじゃなく、魔法なのかもしれない。
「さあ、ルイ様どうぞお入りください」
そこには、10名くらいが座れる大きな円卓があった。カトラリーのセットが一組だけ置かれている。いや、もしやここで1人で食事をしろと?それは、ちょっと・・・・
「こちらのお席にお掛け下さい」
やっぱり。カトラリーセットがされている席に通された。いやいや、初めて異世界の食事を食べるんですよ?マナーも味も判りませんけど?
「あ、あの、ここで1人で食事というのは・・・お二人は召し上がったのですか?」
二人は顔を見合わせると、(ああ!)と声を上げました。
「そうですね。ルイ様、もしよろしければ、私達もここでご一緒させて頂いて宜しいでしょうか?」
察しの良い人達で良かった。
「はい。お願いします。ちょっと、一人というのは心細いですし、色々伺いたいこともありまして・・」
「そうですね。そうしましょう」
シューゼットさんはそう言って、近くにいた女給さん?に食事を二人分用意するよう指示した。ユージンさんが隣の部屋から椅子を二客軽々と持ってくると、いいバランスで配置する。遠くも無く、近すぎずいい距離感だ。
女給さん達がテーブルセッティングしてくれている間、私達は窓際に寄って外を見ていた。神殿の外には沢山の松明が掲げられている。
「今夜は、パトリシア様を想い王都中が静かです。弔いの夜は、静かに故人を偲びますので」
「パトリシア様はあのお部屋に?」
「ええ。一晩自室で過ごされて、明日の朝に神殿中央に安置されます。それから3日間ご葬儀が行われます」
「3日間のご葬儀?」
「ええ。聖女様のご葬儀は、この神殿を開放し国王が執り行います。しかし、現在の国王陛下は体調がすぐれないので、第一王子のグレアム様が代行するでしょう」
「王子様ですか・・・」
いるのか。この世界に王子様が。
「私も参列できますか?なにか、お手伝い出来ることがありますか?」
パトリシア様をお見送りしたい。私の過去を唯一知っていた同胞・・・先輩・・・だから。
用意ができたらしいテーブルに促されて、窓際から離れて席に着く。さすが、ユージンさんが卒なく椅子を引いてくれる。こんなこと高級レストランでしかやって貰ったことないよ。
「まずは、食事をして、葬儀の打ち合わせはその後にしましょう。ルイ様のお口に合えば良いのですが」
シューゼットさんはそう言って、給仕に合図をした。
食事は、目の前で盛り分けたり、盛り付けされた皿が運ばれてきたりと、少し変わっていたが種類的にはフルコースだった。まず、数種類のチーズと野菜オードブル。黄金色に澄んだコンソメスープ、見たことも無い野菜を使ったサラダに、エビとサーモンのテリーヌ、フィレ肉のローストにレモンのシャーベット。デザートにチョコレートとベリーのケーキだった。ほとんどの物が元の世界と変わらないように思えた。そりゃあ、幾つかは見たこと無い物もあったけど、味はどこか知っている味だった。普通に美味しくて残さず食べられた。因みに、この世界もナイフにフォーク、スプーンで食べてたので、まじまじと見ていたら、この習慣も何代か前の聖女様から伝えられたものだという。そうなんだ。ある程度はこの世界に干渉することもアリなんだ。
食事を終えて元居た部屋に戻って来ると、待っていた侍女さんがお茶を淹れてくれる。香りのいいハーブティーは心が穏やかになる。カモミールかな?
一息ついた私は、シューゼットさんに話の続きを促すように見つめた。
「ルイ様には、パトリシア様の最期のお見送りをして頂きます」
「最後のお見送り・・・ですか?」
「はい。次代の聖女として、棺に花を満たして頂きたいのです」
「私ができる事なら。やらせて頂きます」
「大丈夫です。棺を閉じる前に籠の花を入れて頂ければ良いのです。パトリシア様のお好きだった白薔薇をご用意しますので」
「わかりました。よろしくお願いします」
二人に向かって頭を下げる。この二人からの情報が、今の私には全てだ。そして、私にできる事があればやらせて欲しい。何もしないではいられない。身の置き場が無いのだ。
「それでは、明日、お迎えに上がります。準備は侍女たちにお任せいただけれ大丈夫です。お疲れでしょうから、今日はもうお休みください」
シューゼットさんがにっこりと微笑み席を立つと、ユージンさんと共に扉の前で振り向いた。
「ルイ様。私達が貴方をお守りしますのでご安心ください。それでは、また明日」
二人は静かに出て行った。
「なんか・・・すっごく疲れた・・・」
私はどっかりとソファに座ると、少しだけ目を瞑った。
「ルイ様。お疲れでしょうけれど、お休みになる準備を致しましょう。直ぐ湯あみができますが、いかがいたしましょうか?」
遠慮がちに声が掛けられ、ハッとして目を開けた。一瞬寝てしまったようだ。でもお風呂に入って身体を解したいと思った。着慣れないドレスとヒールに肩と足が張っている感じがする。
「はい。お風呂入りたいです!」
侍女さんに案内されて更衣室でドレスを脱ぎ髪を梳く。メイクを落とすのにはこの世界の物では足りないかもしれない。またキャリーケースの出番だ。また、3人がかりでテーブルの上に置いてパクンと開ける。最高級品のシリーズがずらっと揃っている。
「ええっと、クレンジングは・・・」
丁寧に顔にクリームを載せてマッサージをするように伸ばしていく。鏡越しに侍女さん達の好奇心でランランと輝く目が見える。私は、商品説明するデパートの美容部員のように説明しながら化粧を落としていく。
クレンジングローションでさっぱりして、ようやく湯船に入る。あっ。ロータスリリーの香りがする。あれ?この部屋に入った時には香りしなかったよね?
「やっぱりですわ」
侍女さんの一人が言った。何が?と皆の目が彼女に注がれた。あの、髪飾りにパールのピンを渡してくれた彼女だ。
「あのですね!ルイ様がお湯に入られると、お湯が良い香りになるんです!!」
『はあっ!?』
皆の目が点になった。どゆこと?
「お着替え前に湯あみされた時も、お湯が良い香りに変わりました。あの時も担当のジルはまだオイルを入れていなかったんです。それに今も私が、入れる前にこんな良い香りがしています」
彼女はそう言ってそのお湯を掬って鼻を近づけた。私達も連れて鼻を近づけてお湯の香りを嗅いだ。そうだ。やっぱり私の好きなロータスリリーの香りだ。
『これは、ルイ様の起こされた奇跡ですわ!!』
侍女さん達が顔を輝かせて私を見た。
なんなのコレ?どゆこと?
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