3. この国には聖女様がいます
やっと3話になりました。
「ところでルイ様、えすててぃしゃんとは何なのですか?」
紅茶ポットを手にしたシューレットさんに尋ねられました。そうですよね。この世界には無い言葉なんですね。お互い色々と聞きたいことがありますから、一つづつ片付けていかないとですね。
ニッコリ微笑みながら、優雅な手つきでお替りの紅茶を注いでくれます。ポットを置いて一呼吸したシューレットさんにありがとうございます、と言って説明をします。
「エステティシャンというのは、美容技術を持った技師のことです。傷んだお肌や髪を美しくします。そして身体の中から綺麗になるような指導や技術を施すのです。私の仕事は、女性たちを美しくすることなんです!まあ、たまに男性もいらっしゃいますけど」
シューレットさんは、頷きながら私の話を聞いてくれています。
「それで、そのエステティシャンのコンクール、えっと技術を競う大会がありまして、優勝したのが私なんです」
「そうなのですか。ルイ様は高い技術をお持ちなのですね。ぜひ一度、その技術を見せて頂きたいです。ところで、ルイ様のお持物の、これはいったい何なのですか?」
ツンとトロフィーを突っつきました。この世界にはトロフィーが無いのかしら?もともと西洋のものと思っていたけど、やっぱり世界が違うから無いのかな。
「これは、優勝者が貰える ≪印≫ですかね。勝利を称える証とでもいいますか」
ずっと黙って聞いていたユージンさんが、ホーッと感心したようにトロフィーを眺めました。金色のトロフィーの一番上には、女神像のような飾りが付いていてオブジェとしても飾って置ける趣味の良いものです。さすが、世界随一の美容企業≪sibelle/シベル≫です。さすがおふらんす製ですわね。オホホ。
「その・・・ルイ様の着ていらっしゃる・・・ドレス?はあちらの世界では皆さん着ていらっしゃるものなのですか?」
シューレットさんが目を逸らして少し頬を染めてています。なぜに?
「ああ、これは会社の制服ですね。出場者はみな同じ制服を着ていましたけど、何か変ですか?」
椅子から立ち上がって、自分の格好を見廻しました。白地に半そでのワンピースです。襟元、折り返しの袖、Aラインの裾に紺色のラインが入っています。着丈は、自分の身長や好みに合わせて多少の長さの違いがありますが、すっきりした美しいシルエットで私はとっても気に入っています。因みに私は膝が見えるか見えないかのギリギリにしてあります。その長さが一番上品に見えるからです!。
「あの、こちらの世界では、女性が足を見せる習慣が無いもですから・・・・目のやり場に困ってしまいまして・・・」
シューレットさんは、頬を赤くしたまま肩を竦めてしまいました。そ、そうなんですね!?するとこちらの世界は女性は足の見えないドレスですか。もしかして、コルセットなんかもあったりして。
そういえば、さっきユージンさんに姫抱っこされたときも赤くなっていたけど、そういうことですか?彼らからしたら、あられもない姿の女性に見えたということですか。赤くなっているシューレットさんの隣を見ると、ユージンさんも赤い顔で、(先程は、失礼しました。)と小さな声で謝られました。
「すみません。随分はしたない格好に見えましたよね。でも、洋服がこれしかなくてですね。というか、私は着の身着のままでこちらに来てしまったので、今身に着けている物とトロフィー、それからこのキャリーケースしか持っていないんです」
両手を広げて二人にアピールします。とっても心もとない状況ですし。
「それは大丈夫です。とにかく、聖女様に不自由な生活はさせません。ご安心なさって下さい」
目の前のキラキラしいイケメンSは花が舞うような笑顔で言った。
ここはエルグランド王国と言って、この世界では一番大きな国だ。南側には大海を望み、北側には高い山脈を背負っている。豊かな資源を持ち、産業も農業も盛んな豊かな国だという。
今は国政も安定していて国の内外に大きな問題はない。しかし、以前はそうでもなかったらしい。今の聖女様が召喚される前は、長く聖女が不在だったため国は荒れて、災害や疫病、魔族の反乱なども起きていたそうだ。
そうなのよ。この世界には魔族がいるのよ!それも良い魔族と悪い魔族がいるらしい!聖女はそれら厄災すべてを鎮静化できる聖なる力をもっている。
随分前の聖女様は、荒れた国を救うために聖なる力を使い過ぎてしまい、次代の聖女の召喚が叶わなくなってしまったという。責任を感じた聖女様は自らの力が溜まるまで、聖なる棺に横たわり長い間眠った。 そして、枯渇するまで聖なる力を国ために使い、眠り続ける聖女を守るために聖騎士団が設立されたという。
聖女は聖女の力をもって召喚が可能になる。聖女は自らの聖なる力を使って次代の聖女を召喚するのだという。
つまり、次代の聖女が現れることは、現在の聖女の最期が近いことを示す。
「あの、先代の聖女様、パトリシア様というのは・・・」
二人にとっては、言いづらいことだと思うが、聞かずにはいられなかった。
「お会いになりますか?」
シューレットさんの静かな声が部屋に響いた。ユージンさんも真剣な表情で私を見ている。
「もし、お会いできるなら、会いたいです」
私をこの世界に呼んだという聖女パトリシア様に会いたい。できることならなぜ、私なのか聞きたい。
「お願いします。会わせて下さい」
私は二人に深々と頭を下げてお願いした。
**********
神殿の中をシューレットさん、私、ユージンさんの順に歩く。
私達が先程までいた部屋から随分奥まで来た感じがする。静かな回廊の先には、大きな扉があり白いストールを巻いた騎士が二名立っていた。この人たちも聖騎士なのか。扉の前で、騎士たちに目配せをすると彼らはゆっくりと扉を開けてくれた。
「ここに、聖女パトリシア様がいらっしゃいます」
広い部屋は、白いカーテンで幾重にも遮られて中がどうなっているのか、ここからでは見ることができない。ドキドキしながら、カーテンに手を掛けると、
『・・・ルイ・・・』、
と、心の中というか、頭の中というか、とにかく声でない声が聞こえた。
思わず、カーテンに添えていた手を放してしまった。固まってしまった私の肩に、ユージンさんがそっと手を添えて小さな声で言った。
「大丈夫です。どうぞ、お進みになって下さい」
沢山のカーテンをめくっていくと、やっと薄い紗のようなカーテンが現れた。そしてその向こうに大きな天蓋付の寝台がうっすらと見えた。
『こちらに来て、顔を見せて・・・』
今度ははっきりと頭に響いた。私は意を決して紗のカーテンを開け寝台に恐る恐る近づいた。
白いシーツに白い髪の女性が横たわっている。随分お年を召した方に見えるが、上品な顔立ちで多分お若いころは大層な美人だったと思われる。
『いらっしゃい。ルイ』
彼女はうっすらと目を開けた。美しいグリーンの瞳。グリーンの瞳は神秘のアースアイだ。一度見れば忘れられない印象的な瞳。
「貴方は、プレゼンターの女優さん!?」
思わず尋ねた私に、フフフと微笑むとその白い手を差し出してきた。思わずその手を握ると、温かさが伝わってきた。そう、今は温かい。でも生気を感じるにはあまりにも儚い温かさだった。
「聖女、パトリシア様ですね? 私、ルイ・タカトウと申します」
緊張しながら膝をついて顔を近づける。
『・・・待っていたわ・・・』
聖女パトリシア様は、にっこりと微笑んだ。
誤字脱字はまとめて修正します。
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別のお話、妖精姫である私の婚約者・・・(長いので省略!)の更新しました。