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1. エステティシャンは異世界に

職業物の異世界ストーリーです。

「RUI TAKATOU!」(ルイ タカトウ!)


 大きな声で呼ばれ、眩しいスポットライトに照らされた。私は大歓声を聞きながら、笑顔で溢れる涙を拭った。




 私、高遠瑠衣は27歳。今、人生最高のステージにいる。

 2年に一度行われる世界最大の美容グループ≪si belle/シベル≫が主催するエステティシャンのコンクールで、最優秀の称号を貰ったのだ!!



 国際大会は、フランスはパリのお城の様な本店で行われる。各国から何回もの予選を経て選出された代表エステティシャンが30名で臨む最終決戦は、テレビ中継もされるという、大規模で華やかな大会だ。

 毎回大会に花を添える映画女優やトップモデル、企業トップの奥様方や各国の王室関係者もご招待されている。世界中のVIPが集結するこの一大イベントは、美容界で一番権威があると言われている。


 確かに機械に頼ることもあるけれど、やっぱり私は≪手≫と≪自然素材≫に拘りたい。美容師の資格に栄養学、薬草学等、美容に関するあらゆることを勉強しながら、手による技術の習熟に寝る暇を惜しんで練習もした。


 友人には、エステティシャンが目の下にクマを作っている。と冷やかされたが、その練習の甲斐があって、今日私はこのステージの中央に立っている。プレゼンターである本店のロマンスグレーの会長さんから、大きな金色のトロフィーと大きなキャリーケースのエステ&メイクBOXを受け取る。


にっこり笑って「Merci!!」



(やった! 開業資金ゲット!)


 実はこの大会で優勝すると、2年後には開業の許可と開業資金の援助を得て独立できる。そりゃ、何時でも勝手に辞めて開業することはできるけれど、この業界は確かな技術とそれを証明するもの、そして人脈が大事。

 技術があっても、証明するのは難しい。大事な体をちょっとやそっとじゃ任せて貰ないから。信頼置けるお店で、店を信用してからでないと一エステティシャンに接客を任されるまでにはならない。


 私が勤務している店は、過去にも世界大会に出場した先輩が何人もいた為、従業員皆の意識は高い。受付から技術者まで、礼節、接遇は徹底的に仕込まれる。これは、どんな高位の方の接客を任されるか分からないから。そういえば、昔うちの店の受付担当は礼儀見習いもできると言われていたとか・・・・。


 実家が、美容室をやっていて祖母と母が切り盛りしていた。シャンプーやパーマ液の匂い。髪を切ったり、染めたり、パーマをかけたりする母達は魔法使いのようだった。成人式の日には、祖母が着付けをして母が髪とメイク、見慣れた近所のお姉さん達が綺麗な女性になるのを目の前で見ていた。幼いころから美容室を継ぐと決めて美容師の資格も取った。

 するともっと欲が出た。もっともっと、もーっと綺麗にしたいと。

 そして、エステティシャンを目指してこの店で働きだした。人の倍はとまではいかないけど、随分頑張ったと思う。6年前のことだ。



副賞のゴールデンパールのネックレスをハリウッドスターである女優から首に掛けて貰う。大珠のそれは、見たこともないような大きさで、虹色の干渉色が浮かんでいる。これだけでも幾らになるだろう。自分では絶対に買えないよね。

 プレゼンターである女優は、艶やかな赤い爪でネックレスをひと撫でする。有名な女優であることは間違いないはずだが、どうしても名前が思い出せない。真っ赤な赤毛に深いグリーンのアースアイが印象的な物凄い美人なのに。


 誰だっけ? うーん。お・も・い・だ・せ・な・い。




『ルイ。待っているわ』


 女優は赤い唇を薄く開けてこう言った。えっ日本語!?と思ったと同時に会場の照明が落ちた。あちこちから悲鳴が上がった。


「何!?、停電!?」


 驚いて立ちすくんだその瞬間、足元が崩れるような妙な感覚がした。吸い込まれてる!?


「う、うそ!?」


 じょ、冗談じゃないわ!私は咄嗟にトロフィーとキャリーケースを抱えた。砂浜で波が砂を攫うときの妙な浮遊感と同じだ。くーっと引っ張られる感覚に意識も引っ張らられる。


「なんなの・・・よ・・・」とつぶやき、私はついに意識を手放した。





**********





「う・・・うんん」


 何だか重いものの下敷きになっている気がする。


「お、重い・・・」


 はっと目が覚めた。私は冷たい石の床の上で寝ていた。重かったのはキャリーケースが背中に載っていたためで、トロフィーはすぐ近くに転がっていた。キャリーケースを押しのけて私は、慌ててトロフィーを拾うとふーっと息を吹きかけ埃を払った。


「ここ・・・どこ? 会場は?」


 ゆっくりと立ち上がり、周りを見回す。床は大理石が敷き詰められたようだった。そして大理石の飾りのついた優美な柱がずーと奥のほうまで並んでいる。会場ってこんな造りだったかしら?ロココっていた城だと思ったけど。


「何か、神殿みたい・・・」


 直接光は入ってこない広間のような空間。直ぐ上の天井と付近の壁に薄青い光が灯っている。


「LED電球かな。地下なのかしら」


「地震とかだったのかな~?何でこんな所にいるんだろう。とにかく、ホールに戻らないと」


 よいっしょ。とトロフィー抱え、キャリーケースを引きながら歩きだした。


 シンとした神殿?の中を電灯に沿って歩く。人感センサーのようで歩くとその先の電灯が灯った。カラカラとキャリーケースを引いていくと暫くして大きな扉の前に着いた。


「ここからホールに行けるかしら。開くかな?」


トロフィーとキャリーケースを床の上に置くと力いっぱい扉を開いた。




**********




 眩しい!目が潰れそうです!


「何者だ!」


 眩しさに目が慣れるまで数秒かかった。その間に私の首筋にヒヤッと冷たい感触の物が押し当てられる。何なのかしら。ようやく目が慣れて瞼をぱちぱちしながら部屋の中を見た。


「何者だ。どこから来た」


 首にナイフ?を当てられ、後ろ手に捕らえられている。危ないわよ。そして目の前の状況もとっても危ない感じがする。白ローブの集団が一斉にこちらを見ている。何よ?この危なすぎる集団は!?


「あの・・・私は今日の世界大会で優勝したルイ・タカトウといいます。優勝セレモニーの最中にこっちに落ちた(?)みたいなのですぐに戻りたいんですけど・・・ホールはどちらですか?」


「セカイタイカイ? ユウショウシャ? ルイ・タカトウ?」


「はい。エステティシャンの世界大会です」


「えすててぃしゃん? 何を言っているんだ?」


「ですから、今日、エステティシャンの世界大会があって優勝したのが私なんです。それから、何の冗談か分かりませんが、これは止めて下さい」


 首に当てられていたナイフ?を手で払いました。まったく幾らおもちゃでも危ないでしょうに。


「ユージン。彼女の首元を見て見ろ」


 白ローブの中心辺りにいた小柄な白ローブが私の前まで滑るように近づいてきました。そして、後ろにいる人に声を掛けました。


「はい」


 ユージンさん?は、私の首回りを覗き込みました。すると白ローブの隙間から金髪がサラリと零れました。外人さんだ。と思っているとはたと気づいたことがありました。あれ?もしかしてずっと日本語で話をしている?


 その場にいる人の視線が私の首元に集まった。そして息をのむ気配が感じられると、



「ルイ様 お待ちしておりました。ようこそ次代の聖女様」


 小柄白ローブが跪いて私に向かって言いました。すると続いて白ローブ集団が全員平伏したのです。


「「「「次代の聖女様」」」」


「ちょっと!何を言っているのですか?聖女様って、ラノベじゃあるまいし!止めて下さい!」


「ルイ様、貴方の首に掛かっている首飾りはどうされたのですか?」


 小柄白ローブが、フードを脱いで顔を上げました。紫色のおかっぱ髪に紫の瞳です!まるで少女のような可愛らしさですが声は少年のものです。彼は膝まづいたまま、私に向かって続けました。


「貴方はその首飾りをどうやって手に入れたのですか?」


「ああ。これは優勝の副賞でした。賞品として貰いました」


「どなたに?」


「大会の主催者ですね。この場合は会社かな」


「質問の仕方が間違っていました。誰から貰いましたか?」


「首に掛けてくれたのは、プレゼンターの女優さんです。残念ながら名前は思い出せないんですけど。とっても綺麗な赤毛で、グリーンの瞳の・・・」


「「「「聖女パトリシア様」」」


 私が言い終わらないうちに白ローブ集団が叫びました。紫おかっぱ君がにっこりと微笑みながら言いました。


「ルイ様、貴方は先代の聖女パトリシア様に選ばれた次代の聖女様であらせられます」


「私のことは、シューレットとお呼びください。これからはルイ様にお仕えさせて頂きます」


 全然話が見えませんが、先ほど私が気が付いたこと。そう、外人さんぜんとしているユージンさんやシューレット君その他の皆さんと日本語で会話しています。


聖女?神殿?白ローブ集団?そして日本語会話のチート(そう言うのでしょう?)ということは・・・





「も、もしかして、ここは異世界ですか!?」





高遠瑠衣27歳は、人生最良の瞬間に異世界に跳ばされました。


誤字脱字はお休みの時にまとめて修正いたしますので、見つけて頂いたら

お知らせくださると助かります。


面白かった、続きが気になると思って頂けましたら、

広告下の評価ボタンを押して下さると励みになります。


これからよろしくお願いします。

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