Hunter’s Guild / ハンターズギルド
フログナルドとシムネルと別れ、ハンターズギルドに向かう。
街の中心が商業エリアとなっていて、中央の広場では市が開かれ、ギルドや商店はそこに多いらしい。
「あれが領主の館だ」
指さされた先には、目の前の建物のさらに上に城が見えた。
白っぽい石造りで、濃い色合いの尖がった屋根、目立つ高い塔も複数そびえている。かなりの大きさだ。
「あれはもう、お城と呼ぶんじゃないかと思うのですが」
「確かにそうも言われているな。館がこの街の城壁の北西にあたる。森と工房は街の東だ。街のすぐ北側はウェイ川。川が国境だ。ウィスタントン領はこの国、フォルテリアスの北と東の国境の一角を守っている」
すれ違う人は皆、ライアンに挨拶をし、声をかけていく。中にはフルーツや野菜を、お礼だといって手に持たせてくる人もいる。
「賢者様、この間は本当にありがとうございました」
「ライアン様、ごきげんよう。どうぞこれをお持ちください」
「賢者様、またどうぞ足をお運びください」
好かれているようで結構だが、同じ色のマントを着ている連れのリンにも視線が流れて、居心地が悪い。
それにどうにも気になる。
「あの、皆さん、賢者様っておっしゃっていますが」
「大賢者と呼ばれる高位の精霊術師がいる。私はその弟子だったので、そう呼ばれているだけだ。だいたい『賢者』という職業はない。『私は賢者である』と言う人間がいたら、おかしいだろう?」
ライアンも若干言い難そうだ。
「まあ、確かに。言った時点で正気を疑うかもしれません」
「そうだろう?」
ここは薬事ギルド、パン屋、精霊術師ギルド、と示されながら歩き、中央の広場にでた。
マーケットプレイスと呼ばれる大きな広場に市ができている。
食品、木工製品、錫製品、布、武器、散髪屋、家具の修理屋、と、店の数も種類も豊富だ。
「大きいですね。人も多いし、活気があります」
肩がぶつからないように注意して歩きながら、立ち並ぶ店に、お金ができたらのぞきに来よう、いや、私が店をだすのもいいのかもと、ついあちこちと見回してしまう。
「マーケットプレイスには、この街のギルドや工房が出店することもあるが、近隣の農家も収穫を持ってくるし、旅の商人も店をだす」
「わたしも店を出せるでしょうか?」
「商業ギルドに申請をして、場所をもらえば可能だ。だが、その話はまた後にしよう。君の場合いろいろと複雑だ。慌てる必要はない。ゆっくりお互いに理解してからの方がいい。……ちょうどこの前が商業ギルド。その横がハンターズギルドだ」
ハンターズギルドは、中央の広場に面していて、工房と同じような漆喰の白壁に棟木のこげ茶がきれいな建物だった。
ライアンに続いてギルドに入り、入ってすぐの受付に近づく。
「ライアン様、お久しぶりでございます。お待ち致しておりました。ギルド長室にご案内いたします」
ギルド長室は二階で、応接用のテーブルと椅子でいっぱいの、小さな部屋だった。
「ライアン、来たか。ここに来るのは久しぶりじゃないか?」
大きなデスクの後ろから立ち上がったのは、体格がよく、威圧感のある人だった。
肩幅は広く厚みがあり、ダークブラウンヘアに、濃いもじゃもじゃの髭。
それでもよく見ると、細められたアンバーの目が優しい。よく見ないと怖いけど。
「リン、この街のハンターズギルドのギルド長のオグだ。それから隣がエクレール。ギルド長補佐だ」
「俺は飾りで、実務は彼女だと言われているがな。俺とライアンは幼馴染なんだ。共に大賢者にこき使われた同志だな」
オグが笑いながら付け足した。
エクレールは背の高い、モデルのようにゴージャスな女性だった。大きなカールのあるストロベリーブロンドの髪はふんわりと結い上げられ、一部が顔の周りに落ちかかっている。濃い緑の目、スレンダーなのに出るとこがでている、鮮やかで、色っぽい女性だ。
羨ましい。
「オグ、エクレール、ドルーの加護のあるリンだ。しばらくは工房に滞在する」
二人そろって目を見張った。
「加護だと?」
「新しい賢者見習いですか?!」
「いえ、賢者見習いじゃなくて、お茶屋さんです」
リンはやっぱり訂正した。
「事情があって、詳しくはまた説明するが、彼女のギルド登録をしたい」
「ハンターズギルドで、ですか。……わかりました。登録証を作ります。どうぞこちらへ」
エクレールと応接用のテーブルに着き、質問を受けながら登録を行う。
「名前はリンですね」
「はい。リン・ナラハシです」
「年齢は?」
「二十六です」
「なんだと?! それにしちゃ発育が……」
「十六の間違いではないのか? まさか同じ歳だとは思わなかった」
オグとライアンがそれぞれに、失礼な意見を口にのせた。
「発育って、失礼ですね! 間違いありませんよ。二十六です。背も低いし、体型もこの国の方のように、その、デコボコしていないかもしれませんけど、私の国ではこれでも標準です」
ちゃんと胸だって、ほらしっかりあるのだ、巨乳じゃないけど、と自分の胸を見下ろす。
ライアンが同じ歳だという方が、リンには驚きだった。てっきり三十ぐらいだと思っていたのだから。
「あら、リンはお肌もきれいで、髪にもツヤがあるし、余計なところにお肉もついてなくて羨ましいわ。スラリとしてエキゾチックだわ。だいたい女性の年齢に突っ込むような、失礼な男性なんて相手にしなくていいんです!」
くだけた口調になり、エクレールが男性陣をジロリとにらむ。
「二十六、と。住所はライアン様の工房ね。髪と目の色と、身長、と。とりあえず、これでいいわ。……このカードはこの国で身分証明になるので携帯してください。失くしたらギルドで再発行手続きをお願いします」
リンのカードを渡すと、エクレールは机から一枚の案内を取り出した。
「ここからは新規登録者すべてに伝えていることになります。ギルドが開いているのは、毎日、街の開門一刻前から、閉門一刻後まで」
ひとつひとつの項目を指しながら続けた。
「採集に狩猟、騎士には頼めない護衛など、様々な依頼がギルドに入ります。ハンターはなんでも屋と思ってください。ギルドの役割は二つ。一つ目は、所属するハンターへのサービスです。情報提供、獲物の買い取り、依頼の受注、ハンターへの斡旋、報酬の受け渡しまでの管理ですね。重要な案件が出た場合、ハンターの緊急招集を行うこともあります」
ここまでは大丈夫か、と言うようにエクレールがリンを見た。
それにコクリとうなずく。
「二つ目は、ハンターとして必要な能力の教育です。身体能力の強化、知識をつけて仕事の幅を広げるものから、読み・書き・計算・マナーといった講義もあります。あ、すべての講義は一般の方にも開いていますので、興味があったらご参加ください。すべての案内は、一階のグレートホールに貼りだされます。……以上ですが、質問はございますか?」
と過不足なくわかりやすい説明は、さすが慣れている。
「エクレール、リンの買い物の案内を願いたい。館からも手配しているが、リン自身の持ち物がなにもない状態だ。女性の物だから、私よりエクレールが付き添う方がいいだろう。ここでオグと待つので、ここに戻ってくれ。買い物は必要なものを不足なく、すべて頼む。工房にシュトレンがいるから、工房に届けさせてくれ」
「かしこまりました。リン、行きましょう」