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番外:ウィスタントンからの知らせ

お久しぶりです。

 フロランタンは眉を寄せて書類を睨んでいたが、サリサリと音を立てて許可のサインをした。

 昨夜の寝不足が響いているのか、目の奥に重さを感じる。今日はもう上がってもいいだろう。

 グイっと腰を伸ばすと執務机から立ち上がり、ベルを振る。

 すぐに隣室に繋がる扉が開き、文官が顔を出した。


「今日はこれで最後だね? これは父上の執務室へ。そこにある箱は各部署へ」

「承知いたしました」


 文官が一礼して出ていくのと同時に、今度は廊下に繋がる扉から父王が顔を見せた。その後ろに従兄、シブーストの姿も見える。


「フロランタン、少しいいか?」

「父上? お呼びいただければ参りましたのに」


 言いながら、父王を執務机の前にある応接の長椅子へと案内した。


「いや、こちらの方が人気がないからな」


フロランタンはその言葉にうなずくと、隣の部屋にいる者たちにしばし退出を命じた。


「それで、何か?」

「ウィスタントンから極秘の知らせが参った」


 フロランタンは眉を上げた。


「……また?」

 

 正直、「極秘」とまで言われた知らせに対し、「また」とは良くない返しだと思うが、そうとしか反応できなかった。

 

「また、だ」


 父王は頷いた。


 国の賢者の動向は、当然王都へも報告が入る。

 だが、ここのところそれが特に多かった。


 最初は、賢者の工房に侵入者があったという不穏な知らせだった。

 次が、ラミントンだ。賢者によってグノームの御業が揮われ、瞬く間に新たな砦が作られたというものだ。砦を新たに作らねばならぬほどの事態かと身構えれば、聞けば砦ではなく、温泉といういたって平和的な入浴施設ということだった。

 ちょっと大きな結婚祝いではと噂されたが、ちょっとと言っていいものかどうか。

 施設についてもどのような物かと思っていれば、リンが行方不明との一報に真っ青になり、発見と保護の報告を聞いた時には、心からの安堵に膝から崩れ落ちた。

 それが昨夜だ。

 同時にシュージュリー皇帝の病の情報まで届いたので、王宮ではその詳細の確認に、今日は一日大騒ぎだ。何度もウィスタントンにシルフが飛んだ。


 そして「極秘」の知らせだという。

 さすがに「また」と言いたくなる。同時に「もういい」とも。


「今度はなんでしょう?」

「うむ。ライアンとリンの、結婚の意向が伝えられた」

「はっ⁉」


 自分の口があんぐりと開いたのがわかった。

 父王はこちらの驚く様を楽しんでいるのだろう。ニンマリと笑って続けた。


「なんでもこの夏の結婚を考えているらしい。だが、其方とシュゼットとの式とも重なるし、シュトロイゼル兄上はさすがに急ではないかと困惑しているようだ。碌な準備もできないと」

「どうしていきなり? いや、ええと、いきなりでもないのか……。行方不明から保護と来て、結婚、ですか。さすがにこれは想像もしてませんでしたね」


 フロランタンは長椅子の背に身体を預けると、まいったというように額に手をやった。


「……父上は落ち着いていますね」

「ん? 驚きはシルフ像の前で済ませてきた。椅子を蹴倒して、修理がいる。兄上はカップと砂糖壺だったそうだよ」


 フロランタンはシブーストを見た。


「知っていたかい?」

「いや、陛下と同じ時に聞いたばかりだ。大変喜ばしい。……賢者の結婚は聞いたことがなかったから、皆諦めていた」

 

 フロランタンはハッとした。


「ええ、ええ。そうですね。なるべくライアンたちの意に適うようにしたいものです。……さすがに夏では準備が間に合わないと思いますが」

「なんでもね、夏以降だと待ちきれないようだよ。……あのライアンが」


 父王がぷはっとふき出した。


「兄上とそっくりだ。もしかしたら、三人の中ではライアンが一番似ているのかもしれないね」


 フロランタンもこみ上げる笑いが抑えられない。

 そう。()()ライアンが。どんな顔をして、それを伝えたのだろう。


「ふふっ。夏だというなら、すぐにも周知しないとなりませんね。ふむ。夏。夏か……」

「今日はまだ、皆、残っているかと思うが……」


 二人して顔を見合わせた。

 皆、自分たちと同じように寝不足なはずだ。

 そしてこのニュースを伝えれば、その忙しさは増すだろう。今日も帰れないかもしれない。


「父上、温泉施設とやらの導入を、王宮でも検討したほうがいいかもしれませんね」

「ふむ。グノームの慈愛とオンディーヌの麗しさが感じられると言うあれか」

「ええ。なんでも蒸気浴というのが肩や背中の強張りを取るそうで。一昨日だったかな、精霊術師ギルドから許可申請が上がっていましたよ」


 父王が頷いた。


「それは私も欲しいね」


 それからしばらく後のこと。

 この時蒸気浴施設を導入したのは正に英断だったと、カチカチの肩と背中を温めながら、父子語り合うことになった。

調香術師カミーユが主人公の物語を書き始めたのですが、

その合間にたまにリンとライアンの番外を書けるといいな、と。

カミーユをリンと書かないように気を付けます。すでにやらかしたので。(笑)


調香術師のにぎやかな辺境生活 

https://ncode.syosetu.com/n3257ii/



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― 新着の感想 ―
[一言] 完結ありがとうございました。楽しく読ませていただきました。 ライアンがお父さんに負けないくらい甘々になるのをもう少し見たい気がします。照れるリンの姿とともに。 また気が向いたら番外編期待…
[一言] 待ちに待ったお話し^_^ 新作も楽しく拝読させて頂いてますが、リンとライアンのその後がめちゃくちゃ気になっていましたので嬉しい! ご無理のないよう続けていただけますように〜♡
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