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閑話:New look bras / 新しいブラ

「リン、今日はどうもありがとう。本当に助かるわ。エクレールも」


 以前お願いしていたブラを持って、リンが店まできてくれた。 


 私はレーチェ。

 デザインと腕がいいと言われ、領主夫人をはじめとして、貴族のご婦人のご衣装の仕立ても承るようになったけれど、まだまだもっと腕を磨きたい、といつも思っている。

 美しいラインの素敵なパターンで、お客様に一番お似合いになる衣装を仕立てられたら、どんなにいいかしら。


 リンはライアン様のご紹介、ということでエクレールが連れてきた異国の女性なのだけれど、彼女が最初に着ていた衣装はとにかく興味深かった。

 男性のように足のラインをくっきりと見せ、それなのにプルオーバーは身体に沿わずにあちこちに布が余っていて、いくらハンターだといっても、どんな仕立屋が採寸したのか不思議なくらいだった。


 もっとも後で、ハンターではなく賢者見習いになる精霊術師だ、ってわかったけれど。


 でもなんといっても、一番びっくりしたのが下着だったわね。


 リン自身は小柄で成人したばかりみたいなのに、外側の衣装のそっけなさとは全く逆の、アプリコット色の女性らしい下着がでてくるなんて!そのアンバランスさに、女性の私でも一瞬息を飲んだわ。


 ほとんど布を使っていないかのような小ささ。レースがたっぷり使われた、繊細で豪華な薔薇のモチーフの刺繍。肌を美しく見せる素敵な下着だと思うわ。特にブラは、美しいだけではなくて、バストを寄せて上げて機能的です、ってリンがいうのだもの。作ってみたくなるじゃない?


 「ブラを持ってきたのですけれど、参考になればいいんですが」


 そして今日持ってきてくれたブラは、黒だったの。

 まあ!リンの肌はなめらかできれいだから、これを着けたら、煽情的で、この国の男性は悩殺されてしまうわね!


「もちろんなるわ。今、エクレールにモデルをお願いして製作中なんだけれど、どうもバストのラインがきれいにでないのよ」


 素晴らしいわ。バストを覆う部分だけでも、裏からみると何枚も布を継いで形を作ってあるのがわかる。脇と下に硬いものが入っているわね。布の編み方を変えたら、こんな感じに生地が伸びるかしら。


「ねえ、リン。この硬い部分は何かしら。あとこの内側にあるポケットも」

「この部分、カップの下とサイドには、ワイヤーといって、硬い鉄のようなものが入っているんです。これで脇からと下から、バストをしっかり支えているんですね。このポケットは、私は使っていないですけど、薄いパッドを入れて、その、よりボリュームを出して、谷間を強調して見せたい時に使うというか」

「まあ」


 失礼にも思わずリンの胸を見てしまった。

 リンは私の不躾な視線に、慌てたように言った。


「それに、エクレールさんのブラを作られるなら、これよりもしっかりと支えられる物じゃないと。この硬いサポート部分は必要だと思います。身体にあったブラでバストを支えると、着けていないみたいに軽く感じるんです」

「それはありがたいわね。重くて、肩が凝って、うっとうしいことがあるもの」

「そうね。これでだいぶ違うかもしれないわね。でもどうすればいいかしら。脇のところはまっすぐで問題ないけれど、下の部分はカーブになっているし」


 どうしたらこの女性の円やかなカーブを再現できるのか、三人で考えこんでしまった。


「木で柔らかく曲げられるものはあるけれど、それでも女性の手で曲げるのは無理ね」

「ええ。測るにしても、どうやってこの曲線を測ればいいのか。メジャーだと形を記録できないでしょう?」


 そうしたら、リンがブラを触りながら言ったの。


「あの、錫の棒をつくったら、採寸しながら身体に合わせて曲げられないでしょうか。私が持っていたお茶の葉入れが錫でできていて、柔らかくて手で簡単に曲がったし、何度も形を変えられました。この国の南西で錫が取れて、錫器が有名ってきいたのですけど」

「あら、それはいいかもしれないわね。実際にそれで測って、木か鉄の細工を頼んで入れたらいいかしら」

「そうね。でも、実際のアンダーバストの形なのだから、細工を依頼する時は、誰の何をつくるのか、トップシークレットでお願いしてね」


 そういってウィンクをしたエクレールは決まっていて、さすがハンターの憧れね。


 それから三人で、ブラの話でさらに盛り上がったわ。

 形に色、デザイン。バストのサイズの測り方。リンの国のブラには、寄せて上げるものや、綺麗な谷間を作ったり、逆に大きなバストを小さく見せたり、ってデザインの参考になるアイデアが一杯あったの。


 どこの国も、女性が美しさを追求するのはきっと一緒なのね。


 新しいブラの名前も、リンがアイデアを出してくれた。


「ええと、私の国にこういうのがありましたよ。うーんと『精霊のブラ』っていう感じでしょうか。あ、精霊のご機嫌が悪くなるかなあ。きいてみないとダメですね」

「ぜひ、きいてみて、リン。完成したら一番にあなたのをつくるわね」


そんな名前のブラを作ったら、きっとお説教案件。


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