Straight to the ice cream / 精霊まっしぐら
短めです
料理に満足したところで、最後にスイーツとお茶で〆となる。
そうはいっても試食会。しっかりと味わい、覚えてもらって、大市で説明できるようになって欲しい。
リンの前に今日のデザートが置かれた。
「デザートは『かぼちゃのパイ バニラアイスクリーム添え』になります」
文官がデザートの名前を告げると、皆が一斉にカトラリーを手に取った。
「リンから説明があるのではなかったか?」
ライアンがリンに確認する。
「ええ。でも、アイスクリームが溶けてしまうので、まず食べてから。ライアンもどうぞ」
「そうか」
リンもいそいそとスプーンを握った。
かぼちゃのフィリングはなめらかで、シナモンに、ナツメグ、ジンジャーで風味を付けてある。
焼き立てのパイにハフハフっと息を吐きながら、アイスクリームを口にいれた。
熱々と冷や冷やが、交互に楽しめる。
「ふふふ。この温度差がいいんだよね」
次はパイとアイスクリームを合わせてスプーンに載せ、ちょっと溶けたところを食べる。
バニラのソースが絡まって、これも美味しい。
むふふ、と、口元が笑ってしまう。
「リンはかぼちゃが好きなのだな」
「え。私、そんなにがっついて食べていました? 確かに好きな野菜ですけど」
ポツリというライアンに、リンは慌てて姿勢を正して、口元を拭いた。
「いや。スープにサラダと、リンは良くかぼちゃを使っていると思ったが」
「そうでしたっけ?」
そんなに言うほどだっただろうか。
最近は毎日、りんご祭りだった気がするのだが。
「ああ。シナモンと良く合わせている気がする」
「そういえば。ライアン、よく覚えていますね。今回はナツメグに、ジンジャーも加えて、よりスパイシーに仕上げてみました」
「この風味は、ジンジャーか」
ピリリと味を引き締めている物の正体がわかったらしく、ライアンは味わうように口に入れた。
「アップルパイとアイスクリームも相性が良かったが、これもいいな」
話しているうちに、気付けばアイスクリームを精霊達が狙ってきている。
ライアンは右手によじ登るグノームをそっと手で下ろし、アイスクリームに乗ろうとしたシルフを指ではじいた。
リンはサラマンダーの服をしっかり押さえた。
「ハナチテー! アイシュクリーン」
指の先でバタバタともがくサラマンダーにため息をつき、脇に立つ配膳人に小皿を二枚もらった。
自分のアイスクリームを取り分ける。
「今、あげるから。ほら、暴れないの!」
テーブルの隅に小皿を置いた。
「はい。こっちだよ。サラマンダーは、もう一つのほうね」
リンとライアンの周囲にいる精霊が一直線に向かうのを見てから、顔を上げた。
その場に術師や見習いが何名もいるが、そこに寄り添っている精霊は騒いでおらず、ましてやアイスクリームを奪おうとなんてしていない。
「……大人しい。あれ? もしかして、私とライアンの精霊だけ、こんな感じ?」
横のライアンはアイスクリームに夢中な精霊を見て、眉間に皺が寄っている。
「甘やかし過ぎたか? ……これからは厳しくするべきのようだな」
「ですかねえ。でも、他の術師はどうやって押さえているんでしょう」
「そもそも暴れてもいないので、押さえる必要もないのだろう」
「むう。なんでうちの子達だけ……」
リンは、大喜びで皿に頭から突っ込んでいるようなサラマンダーを見た。
「他の精霊はアイスクリームを甘いと認識していないせいではないか?」
「ああ、そうかもしれませんね」
見渡せば、天幕のあちらこちらにいる精霊がこちらのテーブルをじっと見ている気がする。
リンはもう数枚の小皿をもらい、アイスクリームを取り分けるとコツコツとテーブルを叩いた。
「はい。みんな、こちらへどうぞー」
その誘いに、天幕中の精霊が浮かび上がった。いそいそとリン達のテーブルをめがけて飛んでくる。
驚いたのは若い精霊術師達だ。
自分に加護を与えている精霊が、よりにも寄って賢者と賢者見習いという、術師ヒエラルキーの上位がいるテーブルに近づいていくのだ。
「スブシスト! シルフ、待ってくれ」
「ああっ、サラマンダー、何が起こっている?!」
「なんと不敬なことを……」
捕まえようとして立ち上がる者、おろおろとうろたえる者、と、慌てているのが見える。端の方にいるオグだけはピンと来たようで、行って来いというように手を振っている。
ライアンは気にするな、と、術師達に向かって手を挙げると、リンをジロリと見た。
「リン、たった今精霊を甘やかさない方がいいか、と思ったばかりのはずだが?」
「……だって仲間が集まっているから、気になるんだろうなって思って。見てるだけなのは、かわいそうじゃないですか」
ふわりとアイスクリームの側に着地する精霊を見て、ライアンはため息をついた。
「他者に加護を与えている精霊に指示を与えるのは、普通は難しいはずなのだが」
「え、これが指示? ……に、なるのかなあ。でも、アルドラもやっていませんでしたっけ?」
リンが出したのは、精霊の扱いがうまい、大賢者と呼ばれる者の名前だ。
精霊術師、トップ中のトップである。
「例に出す対象を間違っている。アルドラが普通だと思うか?」
「ふはっ。ライアン、ひどい言い草ですねえ。……まあ、アイスクリームパワーですかね。精霊まっしぐら、みたいでしたよね?」
事もなげに言うリンは、間違いなくアルドラと同様に、決して普通と括ってはいけない術師だ。
「……まあ、リンだからな。今更か」
「あ、なんか、やっぱりひどい」
あからさまに普通じゃないといわれたリンは、口を尖らせた。





