Wish to see you again / 再会を願う
王都に来ている貴族たちが自領へと戻り始めた。
リン達より半日早く、早朝からマチェドニアの一行も出立する。
国賓の帰還に、王宮の船門にフォルテリアスの王族が見送りに立ち、その場にリン、ライアン、アルドラも出てきていた。
キュネフェが挨拶を終え、荷の積み込みを待っている横で、アルドラがカタラーナに確認をしていた。
「カタラーナ、薬はすべて持ったかい?」
「はい。すべて」
「いいかい。毎朝の薬は力をつけるから、忘れてはいけないよ。船酔いには青い包だよ」
昨日、ライアンと二人でアルドラの工房の片付けを手伝いに行った時も、同じことを言っていた覚えがあるけれど、カタラーナは一つ一つに嬉しそうにうなずいている。
アルドラに丁寧に礼を言って、カタラーナはライアンとリンに向き直った。
「お二人にも本当にお世話になりました。ありがとうございます」
「いや。何もできなかったが。気を付けて帰ってくれ」
「カタラーナ様、どうぞお気をつけて。……あの、これ、もし良かったら、船で召し上がってください」
リンはカタラーナに小さな銅箱を差し出した。
夏から開発していた菓子の一つだ。
「まあ、よろしいの?」
「はい。日持ちがしますので。そのままでも、甘口のワインに浸しても美味しいです」
「旅の間の楽しみができましたわ。ありがとうございます」
「……カタラーナ様、あの、またお会いできる日を楽しみにしております」
これから戦に巻き込まれるかもしれない国に帰る人に、なんと言っていいのかわからなかった。でも、だからこそ再会を願う言葉をリンは選んだ。
カタラーナはそんなリンの気持ちを分かっているのか、笑顔でうなずいた。
「私もです。こちらの茶畑をいつか見に来たいと思っております」
「ええ、ぜひ。お待ちしております」
リンも力強くうなずく。
『お茶の国』マチェドニア。本当にこの約束が無事に果たせれば、と、リンは心から思った。
そろそろ船へ、と、女官に促され、カタラーナが去る間際、アルドラがさっとカタラーナの手に何かを握らせた。そのまま近づくと耳元でヒソヒソと囁く。
目を見開いたカタラーナは、まじまじとアルドラを見つめると、すっと一礼してタラップを踏んだ。
「……何でしょうね?」
「さあな」
リンは、何か知っているか、と、ライアンを見上げたが知らないようだ。
舫い綱が解かれ、岸から船がゆっくりと離れていく。キュネフェもカタラーナも甲板に立ち、こちらを見て深く頭を下げた。
リンは大きく手を振って遠ざかる船を見送りながら、隣に戻ってきたアルドラに聞いた。
「アルドラ、一体何を渡したんですか?」
「なに、龍の眼からできた薬を、餞別にね」
ライアンが眉を上げた。
「龍の眼って、ええと、麻痺薬になるっていう、あの実ですよね?」
「そうさね。戦争になるっていうのに、精霊道具の一つも贈れないだろう? 龍の鱗も手に入って、いつも以上に効き目が強いからね。何かの役には立つだろうよ」
リンが戦争にどうやって薬を使うのかと考えていると、横でライアンがため息をついた。
「アレは他の毒物と違って香りも甘く、警戒されにくいですからね」
「まあ、抵抗なく口に入れますよね。美味しそうでしたもん」
「実際、薬にしても甘味があるんだよ。ただ、食べたら動けなくなるだけで」
「食べたら動けなくなるだけで……?」
なんと衝撃的な言葉だろう。
リンはパチパチと目を瞬いた。
「戦場ではまず水と食料を確保をするでしょうし、機会はあるかもしれませんね。ですが、アルドラ……」
「普通の瓶に入れたからね。効果は一年程度で弱まるよ。春に戦がなければ、また来年もらいにくればいいんだ」
これもアルドラなりの再会を願う言葉なのだろうか。
ライアンも、そのような危ない薬を、という言葉を飲み込んだ。
「……そんなに効力が上がったのですか?」
「ああ、龍の鱗はすごいねえ。いつもの半量程でいいらしいよ」
「ほう。そこまでですか。それならより気付かれにくい。……鱗は他の薬でも使えるかもしれませんね」
ライアンも興味を引かれたらしい。
「手に入りにくいのだけが残念だよ。まだ、さほど試していないから、カタラーナが使ったら効果を聞かないとねえ」
「大市に来るマチェドニアの文官が帰る時までに、参考になるよう、今までの薬の使用結果を知らせておきましょう」
アルドラもライアンも、どこか楽しそうである。
マチェドニアへの応援だけでなく、同時に薬の実験にもなるようだ。
リンは今度こそ遠い目をした。
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難しいです。どこを触っていいのかが良くわからなくて(笑)





