The blessed day 1 / 建国祭 1
おはようございます。
短いです。
リンがお茶について語っているだけなので、次と合わせて読んでもいい感じかも。
(建国祭は夏の終わりなのに、9月になってしまいました)
建国祭の当日、アマンドが部屋に入ってきた気配でリンは目覚めた。
「リン様、おはようございます。リン様に、ドルーと精霊の加護を」
「あ! おはようございます。アマンドさんにも同じように。そして加護に感謝を、で、あっていますか?」
今日は皆の挨拶がちょっと長くなる日だ。
「あっておりますよ。ここにお湯を置いておきますね」
窓際の小テーブルに『温め石』を入れたケトルとティーセットを置き、アマンドは浴室に入っていく。
シューっというお湯が沸く音を聞きながら、リンは今日の茶葉を選んだ。
「プーアルの若いのにしようかな……」
リンが選んだのは、雲南省の勐庫という地域の茶葉を使ったプーアル生茶で、昨年の春に作られたばかりのものだ。
百年以上経ったお茶の木を古樹と言うが、リンが持っているのは高山に生える四百から六百年ぐらいの茶樹の茶葉を使ったもの。これからの熟成に耐えられるだけのどっしり感があるのに滑らかで、大農園の茶葉に感じることのあるトゲトゲしさがなく、リンの好みである。
ヴァルスミアの気候を考えると、完全に熟成する前にリンは死んでしまうかもしれない。そのぐらい熟成に年月がかかるのだが、どんな環境で保管されたかでも風味に違いがでる。そういうゆっくりした所も、先が楽しみなところも、リンがプーアルを気に入っている理由の一つだったりする。
フォルテリアスの長い歴史と、ドルーの加護に思いを馳せながら飲むのにぴったりだ。
立ち上がる果実のような香りを楽しみながら、リンは熱々のお茶をすすった。
おもむろに立ち上がり、デスクの引き出しから紙を引っ張り出す。
「未熟な白桃、フレッシュアーモンド、アプリコット、アーティチョーク、貝の、えーと、海のニュアンス。後に残るのはフローラル。シンビジウムに、水仙。高山のだからか、ふわりとした空気感もあるなあ」
すすりながら香りを書き留め、余韻を楽しむ。
お茶を飲んで、頭も身体も起きてきた。
秋の大市に向けて試作中の甘味がおめざに添えてあり、リンの口元がゆるんだ。
昨夜は秘密にしていたプレゼントも渡せたし、試食は好評だった。大市に向けて、少し形が見えて来た気がする。
アマンドが顔を出した。
儀式の前に、禊、というよりお風呂に入らなくてはならない。
リンは立ち上がり、ぐいっと伸びをした。
ライアンはすでに大階段の下でリンを待っていた。
「おはよう。リンにドルーと精霊の加護を。……まあ、リンはすでに十分過ぎるほどの加護をいただいていると思うが」
「おはようございます。ライアンにも同じように。そして加護に感謝を。……ライアンも、同じですよね」
本日の決まり文句にボソっと、若干呆れたような諦めたような口調で付け足しがあったので、リンもニヤリと笑ってお返しをした。
精霊が術師のマントを羽織ったライアンの背中を、楽し気に滑り降りているのが見える。
それを見たサラマンダーが参加したそうにジタバタし始めた。
右手でサラマンダーをしっかり捕まえたまま、差し出されたエスコートの手に左手を載せ、あと二段のステップを下りた。
「リン」
いつもなら軽く取られるだけの手を少し強めに握られ、リンはライアンを見上げた。
「昨日はきちんと礼を言えなかったが、リンがくれたプレゼントは本当に嬉しかった。大事にする」
ライアンは口元に笑みを浮かべ、リンを真っすぐに見てくる。
マント姿は見慣れてはいるものの、堂々として本当に恰好がいい。手を差し出したり、歩く度に裏地の白色が見え、金と銀のタッセルが揺れる。
ライアンを見たり、視線を外したり、と、リンは落ち着きを失いながらも合わせて歩き出した。
「へへへ。私の想像以上に素敵なのができましたね」
「ああ。恐らく今日の午後になるが、砂時計について会議がある。リンにも出て欲しい」
「え! もう?」
ライアンの素早い対応には慣れているが、さすがにこれは早い。
これは売る気だ、とリンは理解した。
「ああ。ちょうど儀式の見学に王宮まで来ているし、今日が終わると、領地に帰る前にと、駆け込み注文が多くなるから、逆に今日がいいそうだ」
「わかりました。でますよ」
空が高く感じるようになった離宮の庭を抜けて、昨夜のことを話しながら王宮へと向かった。
更新が遅くなりそうだったので、短いですがアップしてしまいました。
リン、お茶屋さんなのに、最近お茶飲んでないよ! と思って、こんなのが。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。どうぞ、よい一日を。





