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What I want / ほしい物 1

続きを少し後であげます。

 髪をおまとめしますね、とやってきたアマンドに、リンは丈夫な糸があればわけて欲しいとお願いした。持っているのはこれぐらいでしょうか、と針箱にあったのはリネンの細いきれいな糸だ。


「丈夫なものですと、こちらよりヘンプなどがいいと思いますが、『レーチェ』の店でしたら、いろいろお選びいただけると思いますよ」


 そういわれて、まずライアンを捕まえた。


「ライアン、すみません。例の、私の作った『神々しい水の石』を買ってくださる方を紹介してほしいのですが」


 ライアンの眉間にしわがよる。


「あの石を売るのは簡単なことではないのだが。いったい何がしたい」

「作りたいものがあるんです。『レーチェ』の店で糸の購入と、ドルーにいただいたオークの木を、ユール・ログ分以外を加工したいんです。でも買い物のお金を持っていないから」


 リンはすべてを養ってもらっている立場で、服を仕立てた時と同じように、何かを購入すると後でライアンに請求がいくだろう。今回作るものは必需品ではなく、リンができれば欲しいものだ。自分で自由に使えるお金が欲しい。売れるものはお茶とあの石ぐらいしかない。


「糸と木工製品ぐらい、請求書を回してもらえばよい。なにも国を買うわけではないのだから。あの石なら小国ひとつぐらい、たぶん買えるぞ」

「それだとやっぱり使いにくいです」


「リン、この国に、あのドルーの聖域に入れる者が、現在何人いるかわかるか?」


 ライアンは突然話を変えた。


「三人だ。アルドラ、私、そしてリン、君だけだ。昔から国は聖域に入れるものを、賢者と呼んで保護している。自国の存続と繁栄に直結する者だからだ。滞在する領も当然、すべてにおいて最大限の配慮をする。この領は父が領主で、面倒を言われないうえに、便宜を図りやすい。君の生活費も当然すでに予算が組まれているはずだ。この間、君が心配していると聞いたが、毎日白パンを食べても全く問題ない。糸ぐらい遠慮せずに買えばよい。やりにくいなら、シュトレンにいって、毎月生活費として渡してもよい。それに私も、君の茶を毎日ただで飲んでいるからな。同じだろう」


 自分のお金じゃない、と落ち着かないながらも、それなら、とリンは納得した。


「ああ、国を買う時は先にいってくれ」

「買いません!」





 リンは森に行く籠に、昨日もらったフォレスト・ボアの毛皮と、コスメの入っているトラベルポーチをいれ、最初にハンターズギルドに向かった。

 一階にはちょうどエクレールがおり、リンの話をきいて少し考えると、オグに話してみて、と案内された。


「オグさん、すみません。オークの木で木工細工を頼みたいのですが、木工ギルドを紹介していただけませんか?」

「ああ、もちろんそれは構わないが。……リン、木工ギルドでもいいんだが、職人をひとり直接紹介してもかまわないか?」

「私の方は問題ないですけど」

「そいつは木工ギルドにも一応登録はしているんだが、北から逃げてきた難民なんだ。細工師で、腕は保証する。ただ、外国人で、難民で、城壁の外で暮らしているから、なかなか客がつきにくくてなあ。この一年、講座にも通ってがんばって言葉も覚えたんだが。生活のために森で狩りをしているが、リンが嫌じゃなかったら、そいつに仕事をやってほしいんだ」


 腕を組んで、眉をひそめながら言う。

 オグの性格だろうか。講座でも努力する姿を見ているからか、一人一人を気にかけているようだ。


「かまいませんよ。どこにお願いすればいいですか?」

「ああ、もうすぐ飯にもどるはずだ。そこを捕まえるから、昼過ぎにここで紹介する」

「わかりました。えーと『レーチェ』にいって、戻ってきますので」




 久しぶりに会ったレーチェは、リンの来店を喜び、自分の仕立てたドレスを着たリンを前後左右からチェックした。


「ヘンプはロープにも使われるから、丈夫だと思うわよ。この辺りだけれど、気に入るのがあるかしら」


 柔らかな色合いの糸が十数種類も置いてある。


「結構いろんな色があるんですね」

「ええ。リネンならもっと色があるわ。この赤はアルカネットの根で染めてあるの。黄色はオゼイユの根ね。茶色はくるみの実の皮、この淡い青紫はカンペッシュの木の皮よ。木の皮なのに、やり方で赤にも青にもなるの。面白いでしょう?あと、これはこの秋の新作。ぶどうの皮染め」


 緑、青、黄色、のヘンプの糸を、それぞれ二十オークずつ求める。


 カウンターのガラス瓶に、ひもで束ねられたビーズが入っているのを見つけた。貴石だろうか。ガラスのような透明感はないけれど、きれいに丸く磨かれている。ヘンプの糸より少し濃い、青と黄色を数個ずつもらった。


「それも素敵でしょ。まだ色が少ないんだけれど。最近みつけたばかりなのよ。……あ、そうだ、リン、実はお願いがあったの」


 これなんだけど、と出してきたものは、なんとブラを再現したものだった。


「あの時見たのを参考に、つくってみたのよ。でも、細部をよく覚えてなくて。まだ納得がいかないの。だからまた見せて欲しいと思っていたのよ。今、脱いで置いて行ってもらうわけにもいかないし、改めて時間を取ってほしいのだけれど」


 ここで脱がされるのは困る。


「これ、でもかなり形が良くできていると思いますよ。チラッと見ただけなのに、すごいですね」


 あれからリンの服を急ぎ扱いで作って、その合間にブラまで再現しているとは。レーチェの情熱には恐れ入る。

 ブラができれば、リンも助かる。


「もちろんです」と了承して、店を出た。

 

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