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Hunting and meeting / ハンティングと出会い

狩りです。グロテスクな書き方はしていないつもりですが、獲物は死にます。

 祝祭の前にはどこか独特の、浮かれた雰囲気がある。

 あそこに行き、これを準備して、とやることが多いこともあって、ソワソワした気配を醸し出すのかもしれない。

 リンも同じだ。

 いつもよりだいぶ早い朝食の後に部屋に戻り、リンはドレスの下にこっそりとスウェットをはきこみながら、頭の中でTO DO(やること)リストを作る。

 採集にユールの飾り付け、ユールの祝祭用の料理、もらったオークの使い道を決めて、と自分でできることと、誰かにお願いしないといけないことを、頭でわけながら考えるとけっこうあった。

 

 ユールの祝祭の料理に加えられるように、今日は森で狩りをする。リンには狩りでできることはないので、ただそれに同行して採集だ。

 どこの家も常緑樹とギィなどのシンプルな飾りだったが、リンは張り切って、ゴージャスなユールの飾りをいくつもつくった。リース風にしたり、上が大きい雫型でボリュームたっぷりにしたり。使用人達はもちろん、褒めてくれた『金熊亭』のノンヌや、森の塔に来たエクレールにも分けていたら、飾りが少し足りなくなってしまった。


 師匠の狩りの腕はそこそこだというが、ダックワーズさんは今も現役のハンターで、獲物が『金熊亭』のメニューによく載るらしい。それで『金熊亭』はおいしくてボリュームたっぷりなのに、安いのだ。

 共同水場にでると、すでにダックワーズさんと一緒に男の子がいた。


「嬢ちゃまは初めてかな。ローロじゃ。ハンター見習いでな、今日は一緒にいく」


 赤茶のくるりとした髪のその男の子は、何も言わずペコリと頭を下げた。

 十歳になると見習いになれるが、最初の数年は、必ず大人のハンターと同行して狩りにでる決まりらしい。

 今日の狩りに同行するのはあと二名。城の料理人だ。


「おお、来たな、こっちじゃ」

「おはようございます。料理長、申し訳ございません。遅くなりました」

「料理長!?」


 引退間際で自分が一番暇だから工房に来たと、ブルダルーは言ってなかったか。


「師匠、料理長って、城にいなくていいんですか……」

「副料理長が、ユールの祝祭前なのに、とさすがに青くなっていらっしゃいました」

「アレは自分に自信がないだけじゃ。腕があって、長として人をまとめるのもうまい。やらせるのがいい。すでにメニューはおおよそ決めてあるんじゃ。それにワシは今、嬢ちゃまの『師匠』じゃからの」

「料理長、もしかして師匠と呼ばれて嬉しいんですね……」


 これは戻ってくることはなさそうだ、と料理人は遠い目をした。城の副料理長の顔を思い浮かべながら。


 リンは初めて森の奥の狩猟エリアに入る。

 せめて邪魔だけはしないように、皆の近くで場所を決め、静かに、まだわずかに木に残っている実を採集する。 

 ダックワーズさんがすご腕のハンターというのが短時間でよく分かった。

 まず動物の通り道をよく知っている。足跡、木の幹のかじり跡、糞からたどって、獲物を見つけるのがうまい。獲物の気配を見つけると、音を立てずに近づき、大弓でしとめていく。

 ローロもその近くで茂みに隠れ、小動物を狙う。

 料理人さん達は木の上などでじっと待機して、獲物が通りかかるのを待つ。

 ブルダルーの側にしゃがみ、息を詰めながら皆の様子を見ていたリンの前に、白い子犬が近づき、ウサギをポトンと落とした。嫌がっちゃいけない、逆に褒めてやらないといけないんだろう、とは思っても、近くで獲物をみるのはちょっとキツイ。


「これさっきローロが狩っていたウサギですよね。獲物を見せにきてくれたんでしょうか」


 顔をふいっとそらし、ブルダルーを仰ぎ見ると、ジッと子犬を見ていた。


「あれ、でも今日、犬連れていないですよね。首輪もないけれど、人に慣れてるし、迷子でしょうか?」


 リンの足元にちょこんと座り、鼻を鳴らし、シッポを振っているかわいい背中をなでる。冬毛でフカフカだ。

 ダックワーズさんが大きなイノシシを肩に担ぎやってくる。これがフォレスト・ボアか。


「今日はそろそろいいでしょうか。向こうもホワイト・テイルを仕留め……」


 そういいながらも、ピタッと止まり、奇妙な顔をしてリンを見つめた。

 リンがちらりと自分を見下ろしても、ドレスが捲れているわけでも、スウェットがのぞいているわけでもない。いったい何なのだ、と思っているところに、料理人の二人が持ち帰ったのは、お尻の部分が白い鹿だった。

 すぐに内臓を出した方がいいものがあるというので、リンは少しだけ後ろに下がり、なるべく見ないようにしながら待った。ダックワーズが取り出した内臓を、食べるか、と、子犬に投げる。

 大量の収穫を吊るしながら、どうやって食べるのか聞いてみた。


ホワイト・テイル(白尾鹿)は香りにもよるが、そのままローストかマリネじゃろうな」

フォレスト・ボア(森猪)は、これはたぶんローストとソーセージだな。そのうち店でだす。うさぎは煮込みがおいしいか。ローロ、お前の獲ったうさぎの毛皮はどうする。加工するか?ギルドに出すか?」

「今日のはギルドに持っていく」


 ハンター達は冬の狩りで集めた毛皮をなめして、春の大市で売るが、見習いのローロは、ギルドで売った方が値段を叩かれず、割りがいいらしい。


「フォレスト・ボアとホワイト・テイルも毛皮を売るんですか?」

「ホワイト・テイルは毛皮も売れるが、フォレスト・ボアは牙だけだ。毛が堅く、加工しにくくて使い道がない」

「ホワイト・テイルの皮は、靴や手袋になることが多いんじゃ」


 リンは少し考えると、ダックワーズにたずねた。


「あの、ダックワーズさん、もしいらないのでしたらフォレスト・ボアの毛皮をもらってもいいでしょうか」

「使い道のない部分だからそれは構わないが、毛の手触りはよくないぞ」

「それでもいいのです」

「わかった。店でさばいたら、持っていく」

「ありがとうございます」


 獲物をかついで森の塔までくると、ライアンとオグが数名の騎士やハンターと集まって、指示をだしていた。ドルーもいる。


「無事だったか」

「ん?ただいま戻りました。大猟でした!」

「ああ、それは見ればわかるが……。イームズか」


 ライアンは答えを求めるように、ダックワーズの顔を見た。


「イームズ? ああ、この子、森で迷子になっていたみたいで、ついてきたんです。人懐っこくて、かわいいんですよ。ほら、シッポ振ってます」


 どうれ、とオグがひょいっと抱き上げた。


「春に産まれた子にしちゃあ小さいな。青に黄色のオッドアイか。それで置いていかれたか?」

「いや、オェングス。残ったのじゃ。イームズ、その方が残ったのか。小さきのに勇敢なことじゃ。リン、名前を付けておやり。それが人と獣の違いなのでな」


 ドルーにそういわれたが、どこかの飼い犬じゃないのだろうか。

 飼ってもいいのだろうか、と保護者をうかがい見る。

 ライアンは頷いた。


「名前は、じゃあ、シロにします」

「シロ?リンの国の名前か」

「はい、色が白いっていう意味です」

「単純すぎる名前なのではないか?」

「古式ゆかしい、とてもすてきな犬の名前ですよ」

「……リン、それは犬ではない。森の守護者と呼ばれる、森の奥深くに住む狼の一族、イームズだ」


 唖然としてシロを見下ろすが、シッポを振っている姿はどうみても犬にしか見えない。若干足が太いのが違いだろうか。


「見えませんね」

「ああ。どうしたわけか、懐いているな。イームズは本来ほとんど森の奥から出ず、あまり姿を見られることがない。奥から出る時は森に異変がある時だといわれる。この間から群れが出てきていると報告があがっていたが……。異変はリンか」

「森の異変は私のせいではありませんよ。絶対違います」



 お風呂で毛皮を洗ってやり、フカフカで柔らかい、新しい家族がリンにできた。

 

 皆が寝静まった夜更け過ぎ、シロはリンの部屋の真ん中で首をぐいっと反り、きれいな遠吠えをひとつ披露した。


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