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Herbal Teas / ハーブティ

 帰れないという事実を森で確かめた後、リンはなるべく忙しく過ごすようにした。

 考えないわけじゃないが、それでもここで生きていくしかないのだ。

 悩んで後ろ向きに生きるより、今、やれることをするしかない。その覚悟は大きかった。

 晴れた日は森へ採集に入り、吹雪く日は料理を習い、勉強をして、深く思い悩まないようにしていた。


 たぶん森でライアンに見られたのだろう。

 何も言わなかったけれど、準備で多忙と言っていたにもかかわらず工房で執務をとり、夕食もなるべく一緒にして気遣ってくれている。

 どうも文字を読める加護はついていないらしいんですよ、と言ったら、館から子供の時に使ったという教科書をいくつか持ってきてくれた。

 『外国人のためのフォルテリアス語』なんていう便利なテキストは当然ない。


 リンは亡くなった父が国内、国外ともに転勤が多く、外国語に対してあまり拒否感がない。

 英語は最初に厳しく身に付けさせられたが、他はそこそこ通じれば、それでいいと割り切っていたところもある。

 やけに複雑なフォルテリアス語の文法は、集中して頭を使うのにぴったりだ。


 ライアンの執務の都合がつけば、この国のことを教えてもらいながら、執務室でお茶の時間だ。

 最初は居間でお茶を飲んでいたが、結局最後は工房に移動して、薬草や木の枝を見ながら立ち飲みしているのをシュトレンに見つかり、最初から執務室にお茶が持ち込まれた。


「そろそろ休憩されませんか?」


 ライアンがなかなか休憩をとらないと、シュトレンがそっとお茶のセットをリンに渡す。

 シムネルやフログナルドは、一緒にお茶を楽しむこともあるが、大抵リンがくると執務を一区切りさせて席を外す。

 

 リンの持つお茶を気に入り、ライアンもこの時間を楽しんでいるのではないかと思えるほどには、いそいそと机を片付ける。

 断られたことがない。このままお茶が習慣になればいい、とリンは目論んでいる。

 お茶を楽しめるのが一人では悲しいのだ。

 薬草やお茶のことが中心だけれど、この国の成り立ち、習慣を話し、魔王や勇者がいるか、ダンジョンがあるか、といったような呆れられた質問もした。


 この国らしいと思ったのは長さと重さの単位だ。

 長さはオーク。重さはバーチ。どちらも木の名前から採られている。


「オークは、建国の際に落ちてきたオークの木の枝の長さが基本になっている。バーチは、初期の頃にパンの重さを量るのに、手元にあったバーチの薪を使ったらしい。今でもパンは薪のように細長くて、(イチ)バーチが基本の重さだ」


 薬草には、リンの知るものと同じ効果があるものが多かった。

 リンの知らない薬草もあれば、ライアンの知らない効能がリンの口からでてくることもある。

 ただ、こちらでは精霊術で成分を凝縮させて、薬として使うのがほとんどらしい。


 今日は実際にライアンの工房にある薬草から、薬草茶を試すのだ。


「今日はティヨルの花のお茶です。蜂蜜をちょっと入れましたから、飲みやすいと思いますよ。のどの痛みを和らげて、咳止めになる効果もあるので、こちらでも飲まれるといいんですけど」

「薬草の中には希少なものもあるから、精霊の力でより効能を凝縮させ使ったほうがいい、という考え方がある。成分の強い薬は、今も他国との通商材料の一つだ。加護をここまで自由に扱うのはこの国の術師ぐらいだからな」

「それじゃあ薬草を使ったお茶なんて、飲まれませんねえ」

「もともとお茶を飲むという文化が、この国になかったせいもある。ここ数十年で考えると、農業技術が上がり、他国との交流もあって民の生活も楽になってきたが、その前までは生き残るために食べるということが第一義だった。国内でも北と南でだいぶ違うが、北の領地ではどこも農地が少なく、森が豊かとはいっても厳しかった。領民が味を楽しむ、と考えられるようになったのは、つい最近の話だ」


 食べられる薬草や穀物があったら、お茶として楽しむより、腹を満たすということか。


「薬草でも稀なものは許可しがたいが、それ以外はそのままでも簡単な薬効があるとして、民の健康の一助として薬草茶を広めるのであれば、それは国策としても成り立つ」

「ライアンと話すと、なんだかいつも大きな話になってしまうんですけど」


 王室御用達の次は、国策ときた。


「あと、こちらのセージはティヨルの花と同じような効果があって、のどの痛い時にも、消化にもいいんですが、男性にはおススメしないんです。女性も妊婦さんは避けたほうがいいかも」

「薬には使っているが、なぜ男性はダメなのだ?」

「えーと、うー、言いにくいんですけど……。あー、まあ、知らないほうがまずいかもですね。セージは女性らしさをサポートする効果があるんですよ。なので、男性が飲むと、えーと、男らしさがなくなるというか、夜に、その、力強くなくなるというか……。わかります?」

「なんだと?! そのような効能は聞いたことがないが」

「どなたかが試してもいいと思いますが、まあ、試したい候補者はあまりいないかもしれませんね」

「薬事ギルドに検証させる」

「薬事ギルド、女性が多かった気がしますけど。ほかの薬草についても、検証お願いします。効き目が私の知るものと、同じではないかもしれませんし」


 検証して、春から薬草茶を売りだせたら、お茶屋さんへの第一歩だ。


「あ、そうだ。逆に身体を温めて、男性が力強くなりやすいっていうのもあるんですよ。お茶に加えてもおいしいですしね」

「……それはなんだ?」

「……必要ですか?」


 リンはちらりと視線をやった。


メモ:1オークが30CMぐらい、1バーチが600Gぐらいのつもりで書いています。

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