伏線はすぐそこに
部屋にキーボードのキーを打つ音がカタカタと響く。
「……こんにちは、今日は何して遊びましょうか」
島田圭太郎、今年20歳の学生ゲーマーである。
小学生の頃に友達に誘われ、その時からネットゲームに没頭し始め、リアルよりネットゲームが楽しくなってしまった自分は中学に上がると、内気な性格になり友達も減ってしまい、これではいけないと思ったのか、高校はリアルに馴染めるようにゲームから離れる事を決心した。
………が、しかし。
どうやら俺、島田圭太郎の意志は糸よりも柔く、高校卒業間近だと言うのにまたゲームにハマり、リアルを再び捨ててしまったのである。だが、今から語る物語はただの物語ではない。今いる俺は、以前までの俺とは違う。
かけがえのない友人達に出会えたことが出来たからかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーー2ーーーーーーーーーーーーー
「ブレイバーズオンライン」それが物語の舞台である。
剣と魔法、ファンタジーな世界にスタイリッシュな戦闘。多数の職業選択ができる幅広いネットゲームである。
しかし、冒険者たちは新規情報登録時にある事を知らされる事になっている。
※このゲームはキャラクターの死亡時、およびゲームオーバーの際には二度と同じキャラクターを使う事はできなくなります※
最初は臨場感があり、とても良いと感じていたが、この時その説明を完全に理解してはいなかった。
「名前は…いつも通りケロで良いかな。」
昔から圭太郎からケロという名前を取り、いつもユーザーネームはケロとしていた。
「よし、ゲームスタートっと!」
始まりの街、どんなRPGにでもあるのではないだろうか。
ブレイバーズの世界では緑豊かな集落から冒険は始まった。俺はチュートリアルを済まし、クエストを完了させ、強さに磨きをかけた。職業は剣士。もう並大抵の強さにはなれたと思う。
だけど気づいたんだよね。
「ずっと1人でやってね!?これ!!」
そう、ボッチで帰っては鍛錬帰っては鍛錬の繰り返し。
少々強くはなったものの、ボッチなのでやりがいも無いし
飽きてきているのだ。
「つまり…新しい出会いを探すしかないって事だな。」
公式サイトの掲示板にギルドの募集掲示板がズラリとあった。
ギルド内にツッコミがいません!ボケてくれる人きてくれませんか?強い方!募集です!……などプレイヤーによって要望はそれぞれらしい。
「んー、どれも同じような内容だな。迷う…迷うぞ。」
閃いた。
「こっちから募集をかけてみるか。」
自らいかない。
「そうすれば待ってるだけで来るかも…。」
悪い癖である。
※こんにちはケロです。職業は剣士です。レベルはほにゃららでほにゃららなのでほにゃららな所に入りたいです。※
ざっくりと大雑把に、普通の中の普通、ウルトラノーマルに書いてみた。我ながら計画通りだ。凝った文章を書くよりシンプルにまとめた方が信用されやすいってもんだ。
と、どうやら自分では思っているらしい。
ピロン。とメッセージの届く音が鳴った。
「こんにちは」
※掲示板みました。良ければ私達の仲間になりませんか?※
「来たぁ…。」
俺の…ギルドライフが今、始まろうとしている…!!
ーーーーーーーーーーーーー3ーーーーーーーーーーーーー
やぁやぁ皆の衆、元気にしてたかい?
僕はこんどギルドに入る事になったんだ。
名前?我がギルド名を知りたいって?
フーン、そんなに知りたい?
我がギルド名は……。
「メロンソーダです!!」
「ず、随分とまた可愛いギルド名ですね…。」
メロンソーダ、ギルドマスターのユリとの面接である。
ユリは白いロングヘアーの少女の様な容姿をした、なんとも可愛らしいキャラクターであった。
「ブレイバーズを始めてどれくらい経ちましたん?」
「んーと、1年くらいでしょうか。」
1年、ギルドには所属していなかった。
フレンドは何人かいたが、あるトラブルに巻き込まれて居なくなってしまった。
「1年!では初心者さんではないのね…!うちのギルドは戦闘が好きな人がいたり、お話が好きな人がいたり、とにかくどこのギルドよりも濃いメンバーが揃ってると思うから、負けないように頑張って欲しい!って事だけ伝えたかったの!」
「そ、そんなに濃いメンバーが…。」
恐怖しか感じないが、ここは踏ん張りどころだ。だって馴染めたら絶対に楽しいと思うもんね。
「ケロちゃんはしっかりしてそうなプレイヤーさんだったからこれでおしまいかな。…と加入する準備は出来たかしら?」
いよいよか、ギルドに加入するとギルドチャットというものが追加され、ギルドメンバーのみが会話することができるチャットが増えるのである。
「はい!お願いします。」
「いくよ~?よーしはい!」
※メロンソーダギルドに加入しました※
「お?新入りさん!?」
「初めましてだね!」
「ど、どうも…よろしくお願いします…。」
「うわぁ、新入りなんて久しぶりだね~ゆりちゃん!」
「うん!とっても真面目な剣士さん!みんなよろしくね」
や、やばい、はやく挨拶を返さなくては。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
「こんにちは!ケロって言います!これからよろしくお願いします!」
テンプレ、マジテンプレ、天ぷら。天つゆ。
「おぉ…ほんとに真面目な人そうだね~よきことだぁ」
「やっとマトモな方が入ってくれた……!!」
そう返してくれたのはタヌキマルさんとシグさん。
タヌキマルさんは動物の様な可愛らしい格好で、シグさんはオドオドしながらもカッコイイ見た目でちょっと憧れた。
「他にもメンバーさんは居るんだけど、今はまだ居ないかな」とユリが言った。
「まだまだだよぉケロすけ~もっとこわーいこわーいメンバーさん達かたくさんいるからねぇ。」とタヌキマルさん。
こっわ。この人だけでも100人くらいの圧力はあるのに。
こうして俺は大ギルド「メロンソーダ」の一員となった。