お嬢様、見合い相手をお持ちいたしました。
あるお屋敷にたいそうお金持ちのお嬢様が、衣笠という老執事と二人で住んでいました。
そのお嬢様も今年で23歳。本来であれば男たちから引く手数多のはずの彼女ですが、好き嫌いが激しく思ったことを何でも言ってしまう性格が災いしてか、嫁の貰い手が中々現れませんでした。
そこで、亡き雇い主であるお嬢様の父親からの「必ず娘を相応しい相手と結婚させてやって欲しい」との言いつけを守るため、老執事はお見合いの相手を見繕う事にしました。
***
老執事
「お嬢様、先日申し上げた通り、見合い相手の候補を用意して参りました」
お嬢様
「あら、ちゃんと私と釣り合う人を選んでくれたのかしら」
老執事
「もちろんでございます」
お嬢様
「では早速紹介してちょうだい」
老執事
「はい。一人目は外資系企業の代理店をやっている男でございます」
お嬢様
「ふぅん」
老執事
「私の調べましたところ、年収は一億円を超えていて、家柄も学歴も申し分ありません。人格者であり、政界とのコネクションも持ち合わせています」
お嬢様
「良いですわね……、ただ」
老執事
「お気に召しませんか?」
お嬢様
「少し平凡すぎますわ。私の通っていた大学にも華族出身で性格の良い男はゴロゴロ居ましたもの」
老執事
「かしこまりました。では次に参ります」
お嬢様
「そうしてちょうだい」
老執事
「次は歌手でございます」
お嬢様
「歌手?」
老執事
「はい。昨年メジャーデビューをした新人ながら売り上げたCDは累計10万枚を突破。来年はブレイク確実かと」
お嬢様
「良いじゃない」
老執事
「ではこの女とお見合いなさいますか?」
お嬢様
「まぁ、お見合いだけなら……、女?」
老執事
「左様でございます」
お嬢様
「その情報を最初に言いなさいよ!」
老執事
「お気に召しませんか?」
お嬢様
「召さないわよ! 私の時間と期待値を返しなさいよ!」
老執事
「では次に参ります」
お嬢様
「そうしてちょうだい!」
老執事
「次は力士でございます」
お嬢様
「うぅん、私、丸っこい男の方は趣味じゃありませんの」
老執事
「いえ此奴も女です」
お嬢様
「だからそれ先に言いなさいよ! なんで先に言えって言ったのに後から言うのよ! また私の期待が無駄になるところだったじゃない!」
老執事
「左様でございますか」
お嬢様
「左様ですわ! 次に行きなさい!」
老執事
「次はプロ野球選手でございます」
お嬢様
「ふぅん」
老執事
「最高球速は155kmの速球派右腕。今年FAを取得していて動向が注目されています。しかし今年終盤に疲労骨折で離脱していて、そのケガ次第では」
お嬢様
「衣笠や、私の欲しい情報はそこでは有りませんわ」
老執事
「これは失礼しましたお嬢様。今年の防御率は3.98。オールスター前までは2点台だったものの」
お嬢様
「そこじゃないわよ! 防御率とか知らないのよ、このパスボール執事め!」
老執事
「では次に」
お嬢様
「参りなさいよ!」
老執事
「次は競泳選手でございます」
お嬢様
「ふぅん、特徴は?」
老執事
「泳ぎます」
お嬢様
「スイマーは全員泳ぐわよ!!! 逆に泳がないスイマーって何よ!!!」
老執事
「ただの海パンを履いた筋肉質の男ですね」
お嬢様
「何それ! ちょっと良いじゃない!!」
老執事
「まぁ此奴も女なんですけど」
お嬢様
「何よアンタ! 何よ!! まともなの最初の男だけじゃない! 次から次へと女ばかり持ってきて!」
老執事
「では次に参ります」
お嬢様
「次は何かなぁ!!!」
老執事
「次は勇者です」
お嬢様
「おっとこの時点で既に頭がおかしいですわよ! ブッチギリ! ブッチギリですわ!」
老執事
「でも此奴は男でございます」
お嬢様
「なんか今まで変なのばっかりだったから、男ってだけで加点したくなってしまうわね……」
老執事
「しかも常に女の尻を追いかけております」
お嬢様
「変態じゃない! なんで私の前に其奴を出そうと思ったのよ!」
老執事
「しかもよく下半身を露出します」
お嬢
「何よ露出狂の勇者って!! どういうベクトルの変態よ!! ちょっといいじゃない!」
老執事
「では次に参りますか?」
お嬢様
「次は宇宙人でも出てくるのかしらねぇ!」
老執事
「惜しいですね。次は宇宙飛行士でございます」
お嬢様
「あら、ロマンチックね」
老執事
「ええ、ただ先日地球に帰還してから少し様子がおかしくて」
お嬢様
「と言うと?」
老執事
「まず人を食べ始めまして」
お嬢様
「それ完全に宇宙人よ!! 何がちょっとおかしい!? どの辺がちょっとだと思ったのよ!」
老執事
「お気に召しませんか?」
お嬢様
「逆に人食い宇宙人をお気に召すのって誰よ!!! 聞かせてよ! 聞かせて早く衣笠さんんん!」
老執事
「では次に参ります」
お嬢様
「ちゃんと人間を出しなさいよ!」
老執事
「次は介護士でございます」
お嬢様
「ふぅん」
老執事
「お嬢様、介護士は良いですぞ。オシメの世話もしてくれます」
お嬢様
「まぁ子供が生まれたら……」
老執事
「いえ私の」
お嬢様
「お前かあああああ! お前かあああああああああ!! お主の!!! オシメかぁああああああああああああああ!!!!!」
老執事
「左様でございます」
お嬢様
「左様でないわ!! 私の結婚を置いておいて!!! 自分の老後の心配をしているのね!!!」
老執事
「そうおっしゃると思いまして、最後に取っておきの男を残しておりました」
お嬢様
「……はぁ、はぁ、誰よ……」
老執事
「私でございます」
お嬢様
「いやああああああああああ! いいいいいいいやああああああああああああああああ!!!!!!」
――結局お嬢様は、老執事が最初に紹介したビジネスマンと結婚しました。
おわり
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