プロローグ なぜお前までついてきた
朝日が山岳から顔を出す。今日も快晴で清々しい一日が過ごせそうだ。
あるフリーター、秋名カイルは高校卒業後、進学もしなければ就職もせず、ただ早朝に新聞配達のアルバイトを送る日々が続いていた。
午前4時、一軒家の自宅。いつもここからバイトは始まる。
会社で借りている原付バイクであらかじめ会社に新聞を取りに行って、それから家々を回っていくだけ。
「うぅ寒ッ、もう冬は間近だな・・・・・・」
カイルの在所は果てしなく山が続く田舎で、ご近所がほぼご老人。
新聞配達でここらを配達するのはカイル1人だけ。後のご老人はラジオ体操、ご近所付き合い、茶をすすりご飯を食べて風呂に入り。そして寝る。これが一年中続いている。
「あれ、今日は調子が悪いじゃないかタビ、早くかかってくれよー新聞配達の時間だぞー?」
タビと話しかけている先は人間ではない、いつも使っている原付バイクだ。
しかし寒いせいか全然エンジンがかからないのだ。キックスタート式でなんどもキックし続けるが、タビは二度寝するように一度動く兆しを見せ、また止まる。
そんな寝ぼすけなタビにカイルは嘆息し、仕方が無いと言って不敵に笑う。
「タビ君? 君が次でかからないようなら、君は廃車する事になるんだけど、大丈夫か、な!!」
思いっきりキック。そして飛び跳ねるように吹けあがるエンジン。
「よしお利口だ、それじゃ行くとするか」
会社お決まりの半ヘルメットを被り、ギアを1速に入れていざ発進――だが、横目に嫌な影が見えた。
大きな影だ、人間より遥かに大きい。
カイルが壊れかけたゼンマイ人形のようにガクガクとそちらへ視線を向ける。
2mを越える大きなクマだ。
威嚇の咆哮をうなりあげ、爪を伸ばして2足立ちしていた。
「うそだろ、おい……ここで山のクマさん来ちゃう?」
森のクマならよかったのだろうか。そんな事を考える余地もなく、クマはカイルに襲いかかった。
当然、魔法のような力などカイルにはない。だから呆気なくご臨終。
カイルは真っ黒な空間をふわふわと泳いでいた。
「俺は死んだのか……早いな、まだ18歳なのに、まだ彼女も出来たことないんだよ? それ以前に就職せずに死んだんだよ? 俺って社会にとって無意味だったんじゃないの? ってかなんでタビがいるの?」
ふわふわと泳いでいるのはカイルにとっての相棒バイク、タビも一緒だ。
「ちょっと男子ぃ、男子ったら聞いてる?」
甲高い少女の声がどこからか聞こえてくる。
きっと気のせいだ、カイルは彼女どころか女友達もいなかったのだ、そんなカイルに女の子が話しかける事なんて皆無だ。自分でそれを思い出すといかに無様かよく分かる。
「ちょっと男子ぃ! 聞こえてるの?」
過去のどうしようもない人生を振り返っていた中、その声で意識はこちらへと引き戻された。
その時にのカイルの姿勢は地面に尻餅をついた姿勢だ。
ハッと目を見張ったときには、目の前にそれは刺激的な太ももが飛び出してきたのだ。
その刺激的な太ももは何色にも染まらぬ純白の白で潤いが艶めいている。
徐々に視線を上げていくと、やがてスカートが見える。
でもなんだか、純白の太ももとは裏腹にスカートは華美でもなく、言っては悪いが小汚く汚れている。
服もだ。せっかく豊かな胸があるというのに、もったいない程服がボロボロ。
でも破れているせいで、胸元やお腹が見られるのでまんざら嫌でもない。
顔や髪も決して派手ではない。黒髪のポニーテールにまだまだ少女真っ盛りの可愛らしい顔立ち、なんだか美女の田舎娘といった感じだ。
「だからちょっと男子! 聞いてるの!?」
「え、あぁ聞いてるよ」
カイルが慣れない女の子に視線を背けながら答えてみせた。
「なんで目をそらすの! こっちむいてよ!」
腰に手を当てて、尻餅をついているカイルをのぞき込むように顔を近づけてきた。
カイルは明らかに動揺して思わずウッと言ってしまい、頬が染まる。
(ヤバい、エグい程可愛い……俺の町にこんな可愛い子いったけか? あ、俺死んだんだっけ)
「君、もしかして祠から来た?」
「え、祠?」
「うん。祠からたまに来るのよ、どこの国から来たのか分からない人がね」
これはもしやと、思いを巡らせる。そして紡ぐ。
「俺、転生したんですか?」
「そうみたい」
噂に聞く異世界転生をカイルはしてしまったようだ。でも、異世界にしては田舎くさいし、異国の騎士とか王国みたいなのは一切見当たらない。
こんな田舎町に転生してこれからファンタジーな事が起きるのだろうか。
「ところで、君の後ろにある、それは何?」
「え――えぇ何でタビまで!?」
カイルの相棒バイク、タビまで転生したようだ。
初めましての方、庚京次です。
如何だったでしょうか。僕的にはもうなろうでの活動を休止しようと考えていた訳なのですが。
その訳はもう明白でしょう。小説家になりたい、皆に読まれたい。これらが無理と感じた為です。だから今は新人賞を目指す方向性に変わっています。が、初めてなろうを書いていたあの気持ちが今一度体感したくなり、もう一度書くことにしました。更新頻度も低いですし、そんなに根詰めないでまったりと書いていこうと思っています。