電車の三号車
私は一人、駅のホームで電車が来るのを待っていた。
町村君は自転車通学なので駅まで送ってくれ、その後別れた。
駅までの帰り道、町村君はやはり何事もなかったかのように普通に話していたので、あの空気にドキドキしたのは自分だけなのだと少しガッカリした。
男の子慣れしてない私と違って、町村君にとっては普通みたいだ。
そんなことを考えていると、電車が来た。
私は電車の三号車に乗った。
夕方のこの時間は誰も人がいなくて、
貸切状態だった。
「まもなく、ドアが閉まります。ご注意下さい。」
駅のアナウンスが流れた直後、
同じ制服を着た男の子が一人ダッシュで電車に乗り込んだ。
それと同時にドアが閉まり、電車が動き出した。
ギリギリ乗れた男の子は息を切らして座席に座った。その男の子の顔がやっと見えて、私は驚いて思わず声を出した。
「あっ。」
その声の後、男の子はこちらに気づき、男の子も驚いた顔をしていた。
矢吹翔君だった。
お互い驚いた顔をしていたので私はおかしくなって笑い、会釈をした。すると彼も少し笑い、会釈をした。
「今日の行きも電車で会いましたよね?」
私はそう彼に話しかけ、話しかけた自分に驚いた。
今までの私だったら話したこともない男の子に自分から話しかけたりしたいからだ。
「会いましたね。」
彼はそう答え、少し微笑んだ。
「帰りも一緒なんて偶然ですね。」
「そうですね。」
そう彼が答えると沈黙が流れた。
私はこういうとき何を喋ったらいいか分からなかったのでどう話そうか困惑していると、
「名前聞いてもいいですか。」
彼から質問してくれた。
「水谷美麗です。」
私が答えると、彼は聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、やっぱり、と言ったように聞こえた。え?と聞き返そうとしたらそれを遮るように
「俺は矢吹翔です。1年4組です。」
と彼は笑顔で言った。
「私は1組です。」
「じゃあ体育が合同ですね。」
私たちの学校は、1.4.5組、2.3.6組の二つに分かれて合同で体育をやっている。
なので1組と4組は一緒というわけだ。
そこから私達はお互いの基本的な情報を伝え合った。その途中で私の最寄り駅に着いた。
駅に着くまでの時間が今までで一番早く感じた。
私は、じゃあ、と言って降りようとしたとき、
「あのさ!」
彼が引き止めた。
そしてこう言った。
「同い年だし、敬語やめよ!」
私は気を張っていたのかずっと敬語だったことに気づかなかった。
「うん!」
私は笑顔で答えた。
「じゃあ、またね!」
「またね、気をつけて。」
私は電車を降り、彼は電車に乗ったまま行ってしまった。
私は''またね''という言葉が心に残った。また会えるんだという喜びがこみ上げてきた。
私は今日一日で今まで生まれなかった感情がたくさん生まれ、なんだかとてもフワフワした気持ちになっていた。
私も電車でイケメンと巡り会いたかったです。
中学から自転車通学だった私は電車通学憧れます。