接近
「ごめんね、町村君まで巻き込んじゃって。」
私は町村君の顔色をうかがいながら謝った。
補講は終わり、私達は先生から雑用をさせられていた。
「何謝ってんだよ!俺も一緒になって喋ってたから当たり前だって!」
町村君は笑顔でそう言い、先生から渡された資料をホッチキスでとめ始めた。
「それよりさ、本当はなんかあったんだろ?全然補講に集中出来てなかったし。」
町村君はよっぽど補講での私の様子が気になったのか、聞いてきた。
私は言わないでおこうと思ったが、町村君とは仲良かったし話を聞いてくれると思ったので矢吹翔に話してみた。
「町村君ってさ、矢吹翔君って知ってる?」
「あー、聞いたことあるわ。確か4組のやつだろ!矢吹がどうかした?」
「いや、実は行きの電車で会って初めて顔見てちょっと喋ったんだけど。なんか気になっちゃって。」
私はなぜこんなにも彼のことが頭から離れないのかが分からなかった。
すると町村君は、
「もしかして…一目惚れってやつ?」
と冗談っぽく聞いてきた。
私は全力否定した。
「ないない!私今まで好きな人出来たことないし…。」
言いにくそうに私が言うと、
町村君は驚いた顔をして言った。
「好きな人いないってことは彼氏も出来たことないってこと?」
「…そういうことになるね。」
私が答えると、町村君が一瞬笑顔になった気がした。しかし見間違いだったのか、普通の顔に戻り、じゃあ一目惚れじゃないな、と言った。
「そう言えばさ、町村君は好きな人いるの?」
私はこの話の流れから町村君の恋愛事情について聞こうとした。
町村君は男女ともに人気があるのに彼女がいるという噂を耳にしたことがなかった。
「好きな人は、いる。」
町村君は照れながら答えた。
「え、いるんだ!彼女?」
「ううん、俺の片思いだなー。」
「町村君なら絶対うまくいくって!」
私は本気でそう思ったし、町村君を応援したいと思い、そう言った。
すると町村君は真剣な顔になり、
「ほんとにうまくいくと思う?」
と聞いてきた。
私は町村君に見つめられて、少し恥ずかしくなり、目を逸らしながら資料のホッチキスどめを続けて、うん、と言った。
すると突然、ホッチキスどめで動かしている私の手の上に町村君の手が重なった。
私はびっくりして逸らしていた目を町村君の顔に向けた。
そして、町村君が何かを言おうとしたそのとき
ガラッ
教室のドアが開き、先生が立っていた。
「もう終わったか?終わったら帰っていいぞー。」
先生はそう言うとそそくさと去っていった。
気がついたら町村君の手は私の手から離れていて、資料のホッチキスどめも終わっていた。
「帰るか!」
町村君は何事もなかったかのような様子で帰る準備をした。
私はさっき何を言いかけていたのか気になったが、なんとなく聞けなくてそのまま帰る準備をした。
私の心臓がドキドキと音を立てながら。
会話文多めです。
矢吹翔くんは次話登場します。多分。