出会い
噂の彼は、
学年一の嫌われ者で、
友達なんて一人もいない男の子。
名前は 矢吹翔。
難波高校1年4組。
そんな彼との出会いのきっかけは、夏休みが突入したある日の出来事だった。
私、水谷美麗は難波高校1年1組。
高校初めての夏休みはというと、頭の悪い私は補講に引っかかり、全て潰れてしまったのだ。
そんな悪夢のような夏休み初めの補講1日目。
私はいつものように電車に乗った。
補講に引っかかる生徒は相当少ないようで、電車で制服を着ている学生はほとんどいなかった。
まず、私の住んでいる地域は田舎のほうで、電車に乗ってる人自体少なかった。
その中で、ある一人の男の子が目に止まった。
同じ制服を着ているから同じ学校の生徒だ。
補講仲間かと気になった私は自然と、その男の子の座っている席の、通路を挟んで前の席に座った。
男の子は腕を組み、俯いた姿勢で止まっていた。どうやら寝ているようだ。
私はなぜかその男の子の顔が無性に気になってしょうがなくなって、男の子を凝視してしまっていた。
すると、私の鋭い視線に気がついたのか、男の子は起きて顔を上げた。
「あっ。」
私は思わず声を出した。
その男の子は、そう、噂の彼、
矢吹翔だったのだ。
彼は、ガラガラの電車の中なのに目の前に座っている私が気になったのか、私をじっと見つめた。
私はいてもたってもいられなくなり、
彼に聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で、すみません、と言い、その場を立ちさそうとした。
すると、なんと彼が私の腕を掴んで引き止めたのだ。
私はびっくりして固まってしまった。
そんな私をみて彼はすぐ掴んでいた手を離し、
私と同じように小声で
すみません、と言った。
私は首を振り、大丈夫ですとだけ伝え今度こそ彼の元から離れた。
隣の車両へ行こうとしたそのとき、
「あの!」
後ろから彼が私を呼び止めた。
私は振り返り、彼を見た。
彼は自分の口元を指差し、こう言った。
「ここ、ついてますよ。」
私は一瞬何を言ってるのか分からなかったが、すぐに気づき自分の口元に手を当てると、そこには朝食べたメロンパンのカスがついていた。
私は恥ずかしくなって彼のほうをもう一度見ると、彼は笑っていた。
「なんば駅、なんば駅です。」
ちょうどそのときアナウンスがなり、学校の最寄り駅についた。
彼はぺこりと頭を下げ、電車を降りていった。
ドキドキ、ドキドキ
私の心臓はものすごい速さで音を立てていて、
なぜ、こんなにもドキドキしているのかこの時は分からなかった。
こんな感覚初めてだ。
よく分からない、フワフワした気持ちになっていた私は、駅で降りるのを忘れ、補講1日目遅刻で始まったのだった。