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神様殺しの言行録  作者: 立川和
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第一章 六節 天手力男命




「………!?」


 男の言葉の意味を理解できていない西城は頭の中で首をかしげた。


 それを不敵に笑う男は、右腕だけで腕を組むような姿勢になる。


「そういえば、私の名を名乗っていなかったな。私は岩戸神話において天岩戸を引き開けた腕力、筋力を象徴する神。天手力男命(アマノタヂカラオ)だ」


 西城は驚愕する。


 男―——天手力男命が自らを神だと断言したことに。


 彼の素性はなんとなく理解していた西城だったが、神が目の前にいるという現実に身震いを覚えた。


「おや、相手が神であることに怖気づいたかね?」


「そんなわけ……ないだろ」


 驚きと恐怖が半々である西城は絞り出すように答える。


 だが、まだ神を前にして喋れているだけでも良い方だろう。神にあっただけでパタリと逝って

しまう人間もいるのだから。


「なんで逃げなかったの。私はもう誰も巻き込みたくなかったのに……」


 西城が呼吸を整えているとラインが後ろから声を掛けてくる。


 逃げなかったことを恨めしく思っているらしく薙刀を握りながら西城を睨んでいた。


「俺がお前を助けたいと望んだんだ。巻き込まれたとは思ってない。今はそんなことよりもあいつをどうにかしないといけないだろ?」


 西城は警戒心を解くことなく会話する。


 ラインも何かを諦めたように西城の意見に頷き、天手力男命が手を出さないうちにと早口で話す。


「天手力男命は腕力、筋力を象徴する神。現世に降りているから弱体化はしてるけどその力は人類を超越してる。もし、突破口があるとするなら、あの神に証明すれば追ってこないと思うの」


「証明?」


「うん。神って言うのは本来、人間の力を試したりするの。神が与えたもうた試練とか言ったりするでしょ、そういうもの。天手力男命はそういう所に忠実だから……例えば、意識を奪うとかで証明できるかもね」


 意識を奪う。


 そんなことができるだろうかと西城は心の中で呟く。


 神というものは強すぎるため、畏怖され信仰されているのだ。そんな相手の意識を奪うことなど出来るはずがない。


「逃げきるとかは証明にならないのか?」


「逃げきれると思う?」


 疑問に疑問で返された西城は肩を落とす。わかりきっていることだった。


 ここは橋の上。逃げるにしても数十メートルはまっすぐな道が広がっている。


 背を向けて逃げた瞬間、先ほどの天手力男命の力が振るわれて即死だ。


 他の方法といっても、下には川が流れている。泳いで逃げることは出来ないだろう。


「いや、まてよ……」


 西城の頭の中に一つの名案が浮かぶ。それは考えた中でも色々な面で一番確実な方法だった。


「ライン。俺があいつを何とかするから下がってろ」


 西城は一方的に喋った後、天手力男命と対峙する。


 威圧に負けないように深呼吸を繰り返す西城を見ながら天手力男命は言った。


「おや、もう相談は終わったのかね」


「あんた、俺たちが話し終わるのを待っていたのか」


「仮にも神様だからね。慈悲ぐらいある。……それにしても、君は神に対する口調がなってないな」


 神様の注意をよそに西城は構える。といっても、西城は武術や体術を習っていないため、完璧に素人の構えだが。


 天手力男命は愉快に笑いながら左手に拳を作った。


「さあ来い、人間」


 その一言を皮切りに西城は駆け出す。それを見た天手力男命は左拳を前に突き出した。


 瞬間、広範囲に強い風圧がかかり、アスファルトが激しい音を立てて削れていく。


 道路の約半分を飲み込むほど巨大な塊が西城の目の前に迫る。そんな中、西城は急ブレーキを足にかけ、立ち止まった。


「消えろ」


 一瞬、()()()()()()


 次の瞬間、巨大な塊となっていた強い風圧が消えていた。


「ッッ!!?」


 この時、天手力男命は初めて驚愕した表情になった。


 それもそのはず、天手力男命は西城を殺す気であの一撃を放ったのだ。


 実際、西城も死んでいただろう。異能を使わなければ。


「どうした神様?こんなもんか?」


 気が付けば、西城は天手力男命の目の前にいた。


 目を白黒させながら天手力男命は守りに徹する。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 雄たけびを上げながら、西城は天手力男命に横からタックルする。


 予想外の攻撃がったためか、天手力男命は橋の柵のところまで飛ばされた。


 西城はさらに追い打ちをかけるように拳を振るう。


「あまり、調子に乗るのはよくないぞ人間」


 ゴスッという音が西城の耳に入る。腹を見ると天手力男命の腕が伸びていた。


 そこでようやく自分が殴られたことに西城は気が付く。ミシミシと骨が折られていく感触を感じ、腹を押さえながら数歩下がる。


「ぐッ!!」


「実に脆いな。人の子の体というものは」


 余裕の笑みを浮かべる天手力男命は間接的ではなく、直接的な攻撃を繰り出してきた。


 西城は天手力男命の拳をギリギリの所でよけ続ける。


 天手力男命から突き出される拳により暴風が吹き荒れる。橋が小刻みに揺れ、あたりから嫌な音が鳴った。


「ッ!??」


 西城の背中に橋の柵が当たり、避けれる場所がなくなる。天手力男命の拳が目の前に迫った。


 だが、西城は笑っていた。天手力男命が西城の策略にうまくはまったからだ。


「壊れろ」


 また、()()()()()()


 瞬間、西城の背後にある柵がボロボロの鉄くずとなった。


 天手力男命は急ブレーキを掻けるがそれは西城が許さない。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 天手力男命が突き出した腕を握り、西城の全体重を乗せて川に叩きつけるように投げる。


 天手力男命は最後まで抵抗するが弱体化したその体は物理法則に逆らうことが出来ず、西城の視界から天手力男命が消える。


 瞬時に高い水しぶきが起こった。


「……や、やったのか」


 柵の近くにへたり込んでいる西城は呟く。


 そして、空から降ってくる雨のような川の水を浴び、西城はようやくとため息をついたのだった。





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