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神様殺しの言行録  作者: 立川和
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第一章 三節 慈しまれるべき平穏




 午後一時頃、西城はようやく長い長い登校を終える。


 ちょうど昼休憩だったためか、怪しまれることなく校内に入ることができた。


「お、不良もどきが社長出勤してきた」


 クラスに入って早々、からかってきたのは悪友の北上健吾だった。


 高校入学時から染めている茶髪を揺らしながら、西城の首に肩を回す。


「しょうがないだろ。今日もついてなかったんだから。というか不良もどきってなんだよ」


 ため息交じりに西城は答える。その様子を見ていた北上は涙ながらに語る。


「くッ!今日も女の子たちに追いかけられて幸せ者か!!あーあ、俺にも春がこねぇかな」


「あれのどこが追いかけられるに見える?誰もかれもが俺を殺しにかかってきてるじゃねぇーか!!!」


 遠い目をし始める北上を揺さぶりながら、現実を突きつけようとする西城。


 しかし、それは体験したことのない者にとって無意味なことだということに気がつかない。


 そして、西城はある考えに行き着く。


「まさかお前、Mだったのか!?」


「俺はSもMもバランスよく持ってるぞ」


 そんな他愛ない会話を交わすことで、西城は平穏のある場所に帰ってきたのだと感じることができた。


「そう言えば……変態会長がお前のことを探してたぞ?」


 もう一人の悪友の愛称を聞いた西城は深いため息をつく。


「はぁ、またあいつか。今日はどんな性癖を暴露しようとしてるんだ?」


 そんな西城の疑問に答えるようにクラスの扉が激しい音を立てながら、開く。


 そこに立っていたのは、整った髪の毛に清潔な制服。そして、メガネといういかにも生徒の見本となるような男子がいた。


「やぁやぁ西城クン。ご機嫌麗しゅう」


 騒がしかったクラスが急に静まり返る。


 それもそのはず。この学校の生徒会長である守梨修也がクラスに突然入ってきた挙句、ドン引き級の挨拶をしたのだから。


「おう、守梨。生徒会はいいのか?」


「あー大丈夫だろう。たぶん。うん」


 本当になんでこんな男が生徒会長になれたのか不思議である。


 そもそも、二年生である守梨が生徒会長になっているのがまずおかしいのだが。


「それよりもだ。おれの話を聞いてくれ!!」


 守梨は西城の肩をぐっとつかみながら、しゃべりだす。


「おれは思うんだ。女子のコスプレは最高だと!」


 始まった。クラス全体がそう思ったことだろう。

 

 守梨には少々、いやかなり変な癖がある。それは自分の性癖を突如、語り始めることだ。

 

 彼なりに共感してほしいと思ってしゃべっているのだろうが、なにぶん許容範囲が広すぎる。


 ふと見れば、男子と語り合い。またふと見れば、女子と語り合う。本当に広いのだ。気が付けば、犬と語り合っていた時もあった。


「………だからさ、メイド服は捨てがたいと思うけど、ナース服もいいと思うんだ。いっそのこと、その二つを合体させてみようと考えてる。あ、言っとくけど、おれは女の子にしか興味ないからね。変な期待しないで……ぐぇ!」


 最後の変な声は守梨を見つけに来た生徒会役員が襟を引っ張ったため起こった。


 その生徒会役員は礼儀正しくお辞儀して、守梨を引きずりながら出ていく。


「あッ!ちょっと!まだ終わってないのに!!痛ッッ!!」


 途中、生徒会役員に踏まれる守梨。生徒会長としての威厳が全くない。


 そしてその後、廊下に怒鳴り声が響き渡ったのは言うまでもないかった。


「まるで嵐みたいだったな」


「ああ、さすが守梨だ」


 クラスにざわめきが戻っていく。


 西城は少し疲れた顔になった。


 なんせ、顔面から数十センチのところで語られたのだ。唾は飛ぶし、耳は痛くなるしで散々だった。


「あ、幸助。次の授業は……」


 北上が西城に何かを言いかけて固まった。鬼でも見てしまったかのように。


 西城が不思議そうにしていると、頭の上を硬いもので叩かれる。それが出席簿だと理解するのに時間はかからなかった。


 西城はおそるおそる振り返る。そこにはスーツの上に白衣という少々奇抜な格好をした教師が立っていた。


「お、おはようございます。山篠先生」


「おはよう西城。さっそくだが話がある」


 顔は笑ってるはずなのに、声が笑っていない。


 西城の担任である山篠京香は出席簿を開きながら、しゃべりだす。


「これで何回目の遅刻だ?」


「た、たしか三十回?」


 西城は記憶を探りながら、おおよその数字を答える。


 そんな西城にあきれ果てる山篠は寝癖がついた長い黒髪を整えながら、正解を言う。


「三十三回だ。よかったな。ゾロ目だぞ」


「ははは。今日はついてる、かな?」


 苦笑いで答えた西城は再度、出席簿で頭を叩かれる。それもさきほどより強く。


「バカかお前は。三十三回は始業式から毎日遅刻してるってことだぞ。」


「ですよね………」


 思い当たる節があり過ぎる西城は何も言うことができない。


 山篠は出席簿を肩に置きながら、まるで他人事のように言った。


「というわけで、補習だ。ドンマイ」


 さわやかスマイルだった。西城がいつものように絶望していると、予鈴のチャイムが鳴る。


 クラスメイトたちが椅子に座っていく。


 北上に「がんばれ」と励まされた西城は、やはり今日はついていないと思うのだった。






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