06
「アンタはいつまで名無しのままでいつもリなのよ?」
フルーの名前を教えてもらった後、私達は山小屋の中のリビングっぽい部屋で話をしていた。
本当はギルドに行くはずだったんだけど、フルーの来訪でちょっと予定が変わったんだ。
なんとなんと! 昼食はフルーが作ってくれたんだよ! これが無駄に美味いの!
っと。食事のことはまあいいとして、食事の席でフルーが私の名前をどうするのか話題に上げた。
「そうだったです! 名前がないとピースが発行出来ないです!」
ピースっていうのは身分証であり、キャッシュカードみたいなものなんだって。
「名前があったとしてもさ、簡単に発行してもらえるものなの?」
「ボクとフルーが保証人になるです。召喚のことは言わないですけど、記憶が無いから保護したってことにするです」
「ま、ドラゴン族の姫が保証するってんだから文句はいわせないわ!」
「暴力沙汰は勘弁してよね……」
わかってるわよ、ってドヤ顔で言うフルーだけど……。
チョー心配なんだけど!
「それで、どんな名前にするです?」
名前かぁ。もうなんか名無しちゃんで良い気もするんだけど。
「思いつかないなら思い出せばいいじゃない!」
この子はどこのアントワネットさんだよ……。
「思い出せるなら最初からそうしてるよ……。モルンはどんな名前が良いと思う?」
「ナナさんです!」
多分……というか絶対そうだよね……。
名無しさんから取ってるよね!
「いいじゃない! ピッタリだわ!」
一体なにをもってピッタリと言ってるんだ……。
でもまあいっか。
ずっと悩んでても結局ドツボにはまりそうだし。
こういうのはサクッと決めちゃわないとね。
「ふぅ……。じゃあそれでいいや。私はナナってことで」
「やったです! ボクが名付けの親です! ……お母さんです?」
「――ッ!? アンタいつの間に子供なんて作ったのよ!」
…………改めて分かった……この二人だけだと会話が成立しない!
誤解しか生まれない!!
「はいはい……お母さんもお父さんも名前つけれくれてありがとうね」
「キャッ……です!」
「――バカッ! わ……私は……べつに……」
な~んでお二人とも照れてるんですか~……。
というかフルーはお父さんでいいのか……。
◆◇◆
私が巻いた種とは言え二人が落ち着くのに少しかかった。
で、まだはっきりと決めてなかったことを話し合わないとね。
「それで、私が住むところなんだけど、モルンの家に置いてもらっていいの?」
「もちろんです! お姉さんが寝てた部屋はそのまま使ってほしいです! 頑張ってお片付けしたです!」
……………………なんて?
「あの~、モルンさん……お片付けしたって……あの部屋を……?」
「ハイです! ベスポジに設置したです!」
ベス……ポジ……?
「その……ベスポジってのは……」
「小物は手に取りやすい場所に、着替えは着やすいように広げといたです。畳んでると着る時に広げなきゃいけないです!」
ほうほう、そうかそうか……。
目が覚めて知らないうちに掃除を始めてしまったのは手に取りやすかったからか。
そうですかそうですか。
「……じゃあ埃っぽかったのは?」
「埃はどうせ溜まるです!」
ふむふむ、モルンさんは屁理屈でお片付けするのが上手なんだね~……。
な・る・ほ・ど・ね~。
――ぷにん!
「いあいえう! ほっふぇたがのいちゃうえう……!」
「そういうのは片付けって言わないの! ベスポジは……まあいいとしても……。人によってはそのほうが効率が良いとかあるかもだし泣く泣く飲み込むとしても……。埃をはたくくらいはしなさい!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
私がモルンのほっぺを左右に引っ張ってたらフルーが待ったをかけた。
なんだろう、モルンを庇いたいのかな?
フルーもベスポジタイプなのかな?
「私もここに住むのよ!」
――またしても論点が違う!
「えっとねフルーさん……今はモルンのお片付けに関しての――」
「――モルンの家が汚いのは知ってたわ! だからお母さんに“ドールハウス”を貰ってきたの!」
ん? この角っ子は何をいってるの……?
あ……角っ子がわかんないこと言うからモルンを解放してしまったじゃない……。
「汚くないです! 生活しやすさをを追求したです!」
ずっと一人暮らしだとこんなことになるのかな……。
そして会話が噛み合わないのはもういいや……。
「えっと……ドールハウスだっけ? それでこの汚い小屋がどうにかなるの?」
「……これよ!」
フルーがアイテムバッグから何か取り出したみたいだけど……。
――折りたたみ式の犬小屋だった。
汚い山小屋の中に犬小屋って……。
「汚くないです!」
それはもういいから!
とりあえずモルンは置いておこう。
「山小屋in犬小屋って……。そんなに小屋ばっかり増やしてどうするのさ……。」
「バカね! これはただの小屋じゃ無いわ! とにかく入ってみなさい!」
角っ子は犬小屋に入れという。
確かに入り口は人がしゃがめば入れるくらいの広さはあるけどさ……。
しかもこの犬小屋、生意気なことに扉までついてるんだよね。
うぅ…………。角っ子はなんでこんなに自身満々なんだ……。
入ってみるか……さて鬼が出るか蛇が出るか……。
私は四つん這いになって犬小屋の扉を開けた――
「嘘でしょ…………」
「ふふん! どうよ!」
そりゃあ胸も張るよね……だって……。
――犬小屋の中がどこかのお屋敷みたいに広くて豪華だったんだから。
「タレットだかパレットだかって言う人族の錬金術師に作ってもらったそうよ! お母さんがホーン列島に行った時に知り合ったんだって!」
「人が……こんなの作れるの……」
何をどうしたら犬小屋の中がこんな事になるの!
色んな法則をぶち破ってるよ!
フルーに仕組みを聞いてみたんだけどよくわからないらしい。
なんかアイテムバッグの容量をめちゃくちゃに広げた感じだとかなんとか。
折りたたみ式の犬小屋の作成と中の空間の拡張だけしてもらって、中身は返ってきてから建築家に依頼して屋敷にしてもらったみたい。
で! 今知ったけど、ここは“フレス大陸”の“レクープ山地”ってとこなんだって。
フルーのお母さんが人族の錬金術師に合ったのは海を渡った列島なんだとか。
まあそれはともかくだよ。
「私もこっちに住みたい!」
だってしょうがないじゃない。
モルンの山小屋ってば散らかり放題なんだもんさ……。
そりゃあ綺麗なお屋敷のほうがいいよね!
「ふん! しょうがないわね! 特別に住まわせてあげるわ!」
――っっしゃあああ! 綺麗な寝床確保おおおぉ!
「――ナナさん!?」
「ごめんねモルン……でも私……きれいな部屋がいいもん!!」
「そんなあぁ~……」
あ……うぅ……モルンが落ち込んじゃった……。
さすがにちょっとひどかったかな……。
モルンなりに私のことを思って部屋を用意してくれてたんだもんね……。
私とモルンが暗い顔をしてるのに気がついたのか……いや気がついてないな、以外にもフルーが助け舟を出してくれた。
「モルン! アンタの部屋もあるわよ!」
「――えっ!? ボクの部屋もですか?!」
「当たり前よ! と……友達なんだから! ちゃんと準備しておいたわ!」
「ありがとうですッ! 大好きです!」
「――――!」
モルンが大好きって言ってフルーに抱き付いたから、フルーの顔が真っ赤になっちゃった。
あ~……なんかほっこりするなぁ。
二人共すっかり仲良しだねぇ~。
とにかく、モルンの機嫌が治ったみたいでよかったよ。
ちょっと誤解されやすいみたいだけど、フルーっていい子なんだよね。
そんな感じで。
私達は山小屋の中の犬小屋で暮らすことになりました。
この犬小屋屋敷は広いから三人それぞれに部屋が割り当てられたんだよ。
――それなのに。
「なんで私の部屋に集まってるの!」
「ここを本拠地とするです!」
「やっぱり皆一緒のほうが良いわ!」
あっという間に引っ越しが完了していました。