05
「――――ッ!! 誰よアンタ!! なんでモルンの家に居るのよ!!」
二人の喧嘩を止めようと割って入った私にドラゴン姫(仮)が突っかかってきた。
「名無しのお姉さんですっ! ボクのお友達です!!」
「……とも……だ……ち……!?!?!?!?!?!?!?」
マズイ……、なんかすごいショック受けてる…………。
なんとなく気持ちは分かるけどさ……。
「あー、えっと~……。あなたはドラゴンの姫様でいいのかな?」
「そうよ! そういうアンタは誰なのよ! なんでモルンに友達が居るのよッ!!」
どうしよう、召喚のことは黙ってたほうがいいの……かな?
ん~……。とりあえずただの記憶喪失で通そうかな。
まあそうだね、まずは二人の仲を取り持つのが優先だし、私のことは適当にはぐらか――
「ボクが召喚したです! 初めてのお友達です! ウィッチにもなってくれたです!」
言っちゃったよおおおおおおおおおおお!!
全部言っちゃったああああああああああ!!
絶対ややこしくなるよおおおおおおおお!!
モルンさ~ん……!! なんで言っちゃうのぉ~………………。
ぐすん……。
「――召喚!? ……初めて……ウィッチ…………」
あ~……ますます落ち込んじゃった……。
モルンはモルンでなんか勝ち誇った顔になっちゃってるし……。
…………。
……あ~もう!! なんでこの二人はこんなに噛み合わないんだ!
なんか苛々してきた! 一体いつからこんな状態なのさ!
モルンは友達が欲しかったくせに!
この子はモルンを友達だと思ってたくせに!!
なんでこんなに食い違ってるのさ!!
「ふふ~んです! もうボクは一人ぼっちじゃな――」
「なあああああぁもう!! 二人共黙りなさいッ!!」
「「――――!?」」
はぁ……はぁ……。
やっとおとなしくなった……。
「まずそこの角っ子!!」
「――ヒッ!? つ……つのっこ……!?」
「あなた、モルンとはちゃんと話をしたことがあるの?!」
「あ――当たり前でしょ!」
「ふざけないで! 言葉ってのは気持ちや考えを伝えるためにあるの! ……伝わらない言葉なんてただの雑音でしか無い!!」
私は角っ子に、ビシっと指を指して言ってやった。
――それと。
「モルン!!」
「――ハイです!?」
「あなたは友達がほしかったんでしょ?! だったらなんで自分から歩み寄らないの! 身近な相手を突き放してたら友達なんて出来るわけ無いでしょ!!」
きっと今の私には集中線が入っている――
「まどろっこしいのは嫌いだからはっきり言わせてもらうよ……」
とはいえ。
大事な場面なのでちょっと溜めてからにしよう。
二人共私の言葉を固唾を呑んで待っている。
「角っ子はモルンを友達だと思っている――そして、モルンはそれに気がついていない!!」
――ダァァァァアン!
「「そんなあぁぁぁ!?」」
…………。
私か? 私のせいか? 私のせいでこんな変なノリになっているのか?
「……コホン。良いかね君たち、話を整理しようじゃないか」
「――そうです! どういうことです?! ボクはずっと意地悪されてたです!」
「――だから違うって言ってるでしょ!」
「はぁ……あのね……。言葉をぶつけ合うだけなのは会話って言わないの……ちょっと落ち着きなさい……」
「うぐ……ごめんなさいです……」
「…………わかったわよ」
やっと落ち着いたよ……ここまで長かったよ……。
「じゃあ一つ一つ確認していくよ。角っ子はモルンの事をどう思ってるの?」
「……そんなの……友達に決まってるでしょ!」
「えっ……」
「ワイバーンをモルンの家にけしかけてたのは?」
「一人暮らしだと生活が大変だと思ったから差し入れしてたのよ。モルンなら簡単に倒せるし、ワイバーンの素材は高く売れるから」
「そんな……です……」
とりあえず角っ子の言葉は届いたかな。
「ねえモルン。どうして意地悪されてると思ってたの?」
「初めて合った時に喧嘩したです……あの後からずっとワイバーンをけしかけられてたです。ボクが喧嘩で勝ったから、仕返しだと思ったです……」
「――なッ!? あれは喧嘩じゃないわ! 力比べよ! 私に勝った人族だったから友達になってあげたんじゃない!」
角っ子にもう少し詳しく聞いてみると。
角っ子は六十年くらい前にこの山に立ち寄ったんだって、そこで出会った人族のモルンを見て只者じゃないと感じて勝負を挑んだらしい。
でもモルンは戦うのが好きなわけじゃないし断ったんだって。
それなのに血気盛んな角っ子は問答無用で飛びかかって返り討ちに合ったんだとか。
その時は悔しくて喚き散らしながら返っていった角っ子だけど、里に帰って冷静になったらモルンの強さに惹かれてる自分に気がついてモルンの友達になることにしたんだって――モルンに確認を取らずに。
勝負を挑む前にモルンが一人で暮らしてることも聞いていた角っ子は、モルン一人で山の中の生活は大変だろうと思い至って件の差し入れを送り続けた――これまた確認もとらずに。
とはいえ。
確認を取らなかったのには理由があった。
モルンとの勝負の後に里に帰ってからというもの、しきたりによって昨日まで里から出してもらえなかったんだって。
この山に立ち寄った時はしきたりの前に自由を満喫しておきたかったからだとか。
そしてしきたりを全うして友人に会いに来たつもりがこの有様と言うわけ……。
「はぁ……まったくもう……ワイバーンを飛ばせるんだったら手紙とか持たせられなかったの?」
「……………………あ!」
あ、って……。
うっかりにしても度が過ぎてるよ!
「まあ……そういうことだってさ。モルン、まだ角っ子の事怒ってる?」
「怒ってないです……ボクは友達なんて出来たことなかったから早とちりしてたです……ごめんなさいです……」
「こっちこそ……ごめんなさい……」
「よしっ! じゃあこれでお互い誤解は解けたってことで! ……ほら、角っ子!」
これからは誤解がないようにちゃんとしとかないとね。
私は角っ子の背中を押してあげた。
「……うん。えっと……モルン……私と……友達になって!」
「は……ハイです!」
約六十年か……ここまで来るのに時間がかかったけど。
まあ、結果オーライということで!
それにしてもなんか……。
…………。
ん? うっかり……?
あ…………そういえば!?
「えっとぉ……角っ子さん……」
「そういえばアンタにもお礼を言わないとね! ありがとう! お陰でちゃんとモルンの友達になれたわ!」
あああああ、言いづらいぃ~……。
でもなぁ……。
「ところで……角っ子さん……」
「なによさっきから。どうかしたの?」
うぅ……。
「あのね……名前……教えて?」
出来る限り可愛らしく聞いてみた!
とびっきり愛らしく首をかしげてみた!
「…………アンタ。アンタも十分うっかりしてるじゃないの!」
「――ですよねぇ~!!」
◆◇◆
角っ子に小一時間小言を言われたけど……遂に角っ子の名前をゲットしたよ!
――フルー・ド・コンフォード。
それが私とモルンの友人の名前です。