04
――なんだろうこれ。
ワイバーンって言ってたっけ……。
モンスターの中でも結構強いって話じゃなかったっけ……。
それがなんて私の目の前に倒れてるの?
思いだそう……モルンはなにをしたんだ……。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
そう――少し前のことだ。
私が白猫に恥をかかされて、あ――猫の名前は“シロ”になりました。
じゃなくてその後、モルンが何かを感じたみたいで外に出ることになったんだ。
また来たです……、モルンはそう言って空を見上げてた。
私もつられて空を見たんだよ、そしたら……。
細い体に布で作ったみたいな薄くて柔らかそうな羽が生えた何かが飛んでたんだ。
モルンはうんざりしたような顔でそいつのことを話してくれた。
「あれはワイバーンです。ドラゴン族の姫が意地悪でけしかけてくるです。普通の人間ならとっくに死んでるところです……」
ってさ。
普通の人間相手ならワイバーン一体が襲ってきただけで街や村が崩壊してもおかしくないんだとか。
ドラゴン族の姫は、そんなのを月に一度くらいのペースでモルンが住んでる山小屋みたいな家にけしかけてきてるんだって。
その姫となにがあったのかは今は置いておくとして――
問題はモルンのワイバーンの対処だよ……。
――いっぱつ。
モルンが、多分魔法を使ったのかな?
そしたら一発でワイバーンが墜落してこの有様だよ……。
思い出してもなにをやったのか分かんないや……。
なんかもう、驚くのにも疲れてきたなぁ。
モルンも適当に対処してるだけだし、私も普通にしていよう。
「ねえモルン。このワイバーンはどうするの?」
「解体して近くのギルドに売りに行くです。意地悪はイヤですけど、お金にはなるです」
「ギルド? そこで買い取ってもらえるの?」
「ハイです。冒険者ギルドです。倒したモンスターの魔石や素材を買い取ってくれるです」
「ふ~ん。そうだ! 私もついて行っていい? ギルドも見てみたいし」
「一緒に行ってくれるですか!? もちろんです! 一緒に行くです!」
この辺りの事とか全然わからないし、一緒に行動しようと思う。
そうそう、モルンの家は山の中にあった。
やっぱり人里で暮らすことには抵抗があるのかな。
二百年か……こんなところでずっと一人だったんだね……。
私がそんな風に考えてるうちに、モルンは慣れた手つきでワイバーンを解体していた。
「なんでそんな小さい鞄にワイバーンが収まるの……」
「これはマジックバッグです。馬車一台分くらいの容量がある魔道具です」
馬車一台分ってのがどれくらいかわからないけど、なんか一杯入る鞄みたい。
「終わったみたいだね、じゃあギルドに行くの?」
「そうです、売り終わったら街でご飯を食べるです! お姉さんも一杯食べるです!」
「私もいいの? なにもしてないのに……」
「もちろんです! お祝いですっ!」
モルンがそういうのでご相伴に預かることにした。
――したんだけど。
普段は誰も訪れてこないモルンの家に来客があった。
私達が出かける準備をしていた時、不意に家の扉がノックされた。
――トン……トン
「誰か来たです?」
「って私に聞かれても……。ノックされたんだしお客さんじゃないの?」
――トントン
「いつもはお客さんなんて来ないです。きっと気のせいです」
――トントントン!
「いやいや! 絶対居るって! 誰か来てるよ!」
「この山は時々ワイバーンが出るから寄り付く人は少ないです」
――ドンドンドンドンッ!!
「気のせいなわけ無いでしょ! なんか必死さが増してるし!」
「…………分かったです……ちょっと見てくるです……」
絶対に気のせいだと言いたげな不満そうな顔でモルンは入り口の扉に向った。
気になるから私もついていこう――
「きっと誰もいないです」
――ガチャ
「……うっ……うぎゅ……うううぅ……」
「――えっ…………!」
モルンが扉を開けるとすすり泣いている女の子がいた。
その子を見てモルンも驚いたみたい。
角と翼、それになんか尻尾も生えてる子だ……。
まさか……。
「なんであげでぐでだいの~……!! ぜっがぐあぞびにぎたのに~……!!」
「どうしてここに居るです? また意地悪しに来たです?」
いやいやモルンさんや……ちょっと違う気がするんですけど……。
「ちが……わよ……。ぐずっ……違うわよぉ……。ふぅ……。やっと里から出られるようになったから遊びに来たのよ!」
な~んかちょっとずつ話が見えてきたような……。
「嘘です! さっきだってワイバーンをけしかけてきたです!」
「――なっ!? アンタならあのくらい簡単に処理できるでしょ!」
ふむふむ。
モルンの強さは知っていたと……。
「当然です! あんなの虫みたいなものです! 何匹来られても一緒です!」
噛み合ってるようで噛み合ってないなぁ……。
モルンは意地悪されてると思ってるみたいだけど……この子は……。
「折角差し入れしてあげてたのに! なんで意地悪なんて言うのよッ!!」
あー、やっぱりそういうことね。
ワイバーンの素材は高く売れる。
一月に一匹仕留めるだけで相当な蓄えが出来るはずだ。
何処で食い違ったのかわからないけど、この子はモルンの生活を心配していたんだ。
何ていうか……いったいいつからこんな状態なんだか……。
「ワイバーンをけしかけるなんて意地悪に決まってるです!」
「だから違うっていってるでしょ!」
まだやってるし……。
いい加減止めに入ろう――
「待った待った~!! 二人共ちょっと落ち着きなさい!」
「「――えッ!?」」
息ぴったりじゃないか……。
この女の子もそうだけど、モルンも相当不器用なんだから……。
よし。
――私が仲を取り持ってやる!