02
なにはともあれ……。
本題に入るよ! これ以上惑わされている場合じゃない!
「――モルン! 話をしよう! 今度こそしよう!」
「ハイです! いっぱいお話したいです!」
さて、とはいっても。ん~……。
よし。まずはこれからいこう。
「ねえモルン、あなたって何者なの? 召喚なんて普通に出来るものなの?」
そう訪ねるとモルンの表情に影がさした。
「少し暗い話になるです……聞いてくれるですか?」
やっぱり何か事情があるんだ……。
聞こう――ちゃんと聞かせてもらおう。
友達みたいって言ったモルンの顔は本当に嬉しそうだった……。
あんな顔されて……ほっとけるわけないでしょ。
「聞くよ。私のことは記憶が無いから話せないけど……モルンのことはちゃんと知りたいから」
「ありがとうです。……ボクは魔道士です。ウィッチとも呼ばれているです。魔道士は、ボクが産まれた場所では忌み嫌われていたです――」
モルンから聞いた話をまとめると。
魔道士は肉体を超越した存在で寿命で死ぬことがないんだって。
モルンが産まれた村では、いつまでも老いないその体は呪われたものとして恐れられている。
村で虐げられていたモルンは、嘗ての師匠に保護されて魔法の使い方を学びならが二人で暮らしてた。
でもそんな生活も長くは続かなかったらしい。
寿命がないモルンに対して、その師匠は人間だったから寿命で死んでしまったとか。
それが二百年は前の話で、それからはずっと一人で暮らしてきたんだって。
「一人と言ってもプーティが話し相手になってくれてたです」
「プーティ? その人はどこに居るの?」
「プーティはボクのエレメントの黒猫です。ボクはエレメンターでもあるです」
??? また分かんない単語が……。
まあ、記憶が無い私は分かんないことだらけなんだけどねぇ。
とか考えて首を傾げてたらモルンが教えてくれた。
「あ――ごめんなさいです。この世界で産まれた人達には精霊が宿るです。普通は下位精霊なんです、けど、エレメンターは上位精霊を使役しているです。ほら、プーティー」
そんな風にモルンが名前を呼んだら――何もない空間に黒猫が顕れた!?
なにこれ!? どっから出てきたの!? この黒猫が精霊……?
「この猫が……精霊?」
「ハイです! プーティ、挨拶ですっ!」
『ど~も~。プ~ティで~す。黒猫やってま~す』
「――――!?」
あれあれ~? 猫って喋ったっけ~? こんなおっとりしゃべるっけ~?
あ………………そうかそうかなるほどわかりました。
私はまだ召喚のショックを引きずっているんだね!
異世界とやらからこっちに送られた時に耳がどうかしちゃったんだ。
ん? いや待って……。
なんとなく猫がしゃべるのはおかしいとか思っちゃったけど。
本当はそれが普通だったんじゃないの?
案外当たり前のことだったんじゃないの?
召喚されたり記憶を失ったせいでその常識まで失くしちゃったんじゃないの?
そうだよね……そのほうがしっくりくるし。
なんだそういうことかぁ、無駄に驚いちゃったよ。
だったらこっちも挨拶くらいしとかないとね!
「ごめんね、いきなり出てきたからビックリしちゃってさ。記憶が無くて名前は分かんないけど、よろしくね!」
『名無しちゃんよろしく~』
おっと……。プーティが足元に来て体をすり寄せてきた――かわいい。
さわっても良い……のかな?
『ふにゃぁ~、きもちいい~……』
嫌がらないぞ! 毛並みがサラサラだぞ!? 肉球がぷにぷにだぞ!?!?
――――っと……ダメだ。
危うくまたトリップするところだった…………。
「よかったです! もう仲良くなってるです!」
ふぅ……、とりあえずこれくらいにしておこう。
取り返しがつかなくなる前に手放すんだ!
ふっ……。同じ過ちは侵さないのだ……私は成長している!
「まあ、私にかかればこんなものかな?」
とか得意気に言ってみたりして。
『名無しちゃんは撫でるのじょ~ず~! モルはいい子を召喚したね~!』
「えへへ~。本当に運が良かったです! たまには良いこともあるです!」
なんか株が上がったみたい。
あぁ~、成長する自分が怖い……天井知らずの才能が恐ろしい……。
――ハッ! 私は天才かもしれない!私は友達を作る天才だ! きっとそうだ!
なんて自惚れるのは自重しよう。
プーティの毛並みと肉球の魅力で一瞬忘れかけたけど、他にも聞きたいことがあったんだよ。
肝心なことを見落としてた……。
寿命だよ寿命!
私は多分普通の人間なんだとおもう。
だとしたら……モルンの師匠と同じことになるんじゃないの……。
モルンを置いて先に死んじゃうんじゃないの……。
「ねえモルン……私もあなたを置いて死んじゃう事になるんだけど……。それでも友達になってくれるの?」
そう聞いた私だけど。
でも。
――私のそんな思いなんて関係なかった。
モルンはこの世界でも類まれなる才能をもった魔道士だった。
二百年以上もの間、一人で魔法を磨き続けていたモルンは、異世界から私を召喚してしまうほどに魔法を極めていた。
見た目に惑わされていた私はモルンの言葉に絶句してしまった。
「ウィッチになりませんか?」
「……………………は?」