私、寝不足です。
私、片瀬由紀は女の子が好きだ。
今まで付き合ったのも、好きになったのも、すべて女の子だった。
私はレズビアン。
女の子しか好きになれない。
そう思っていた。いや、今もそう思っている。
なのに。
私は男の子を好きになってしまった。
犬のようにかわいらしく、花のように輝かしい笑顔を持つ彼に。
一体、なぜ?
たった一度見ただけで、私の心はわしづかみにされてしまった。
なぜ彼に惹かれるのか?
そして、惹かれているのに、なぜ心臓は静かなままなのか?
私は、どうなってしまったのだろう?
「おはようございます、由紀さん。」
さらさらの黒髪をなびかせながら挨拶してきたのは、大金持ちの山岸良子。
「あ、うん、おはよ…。」
一度顔を持ち上げて、すぐにまた眠りの態勢に入る。
「顔色が悪いですわよ?昨日は何時に寝たんですの?」
「オールナイト。」
「なにしてるんですの!?」
「いや、なんだか眠れなくてさ。」
ずっと考え事してたっていうのは黙っておこう。
「もう、そんなことでは体調を壊しますわ。」
「あはは、気をつけるよ。」
ひらひらと軽く手を振ってもう一度机と一体化すると、よっちゃんはあきらめたようで、お花摘みに行ってきますわと言って立ち去っていった。
ふう、難は去った。
さあ、ホームルームまでひとねむり…。
…ん?
うつぶせになっている私の背中に、豊かな果実の感触。
そして私の腰に回される腕。
おいおい勘弁してよ。
仕方なく後ろを振り向く。
想像通りの顔がそこにはあった。
「桐原さん…。」
「おはようです由紀様♪」
スイカップがこれでもかと背中に押し付けられる。
「当たってるよ、胸。」
「いやん、当ててるんですよ♪」
だと思ったわ。
「元気ないですね、何かありました?」
「いや、別に。」
だからほっといてくれ、という思いは残念ながら伝わらなかったらしい。
「そーですかー♪元気ないときはどうぞ私で癒されてください~♪」
ぐいぐいぐい。
ぐいぐいぐいぐい。
「腕をひっぱらないの!」
「由紀様シャイだから、きっと自分では触れないと思って♪」
無理やり腕を豊かな果実のほうへもっていかれる。
まずい、このままでは!
むにん。
抵抗のかいなく、私の腕が胸に押し当てられる。
ああ柔らかい…じゃなくて。
これは非常にまずい。
状況がわからなければ私が桐原さんに痴漢(いや痴女?)しているようにしか見えないだろう。
幸い教室にはまだ二人しかいないが、もし誰か入ってきたら…。
は、早くやめてもらわなければ!
「ちょっと、やめーー」
がらがら。
「あ、由紀さん、大丈夫です、の…!?」
あ。
よっちゃんが戻ってきた。
これ詰んだ。
2人の状況を見て一瞬で勘違いしたよっちゃんは、鬼のような形相でこちらに走り寄ってくる。
「私というものがありながら!!浮気ですのね!?」
「いや、これは違」
「問答無用!」
スパァァァァン!
その日、私は一日よっちゃんの手形と一緒に授業を受けることになった。
よっちゃんの一人称は「私」です。




