私、出し抜きます。
「はぁ…。」
大きなため息が漏れる。
「あら由紀さん、ため息は幸福が逃げますわよ?」
「ストレス解消になってるからいいのよ別に…。」
お昼休みの教室。私たちは二人で向かい合ってお弁当をつつく。
こんなに落ち込んでいるのには訳がある。
宮田くん…に、せめて名前だけでも覚えてもらおうと思い、休み時間中に話しかけようとした。
しかし彼の周りをクラスメイトが何重にも取りかこみ、話しかけるどころか顔も見ることができなかった。
悲しみの境地とはこういうことをいうのだろうか。
もう一度ため息をつく。
「それにしても、なんであんなに人が集まるの…?」
「それは、あの人がみんなに魅力的に見えてるからですよぉ♪」
「そう…って、え!?」
いつのまにか私の後ろに立っていたこいつは、桐原亜美。
同学年で、クラスで有名なビッチだ。
そして厄介なことに、私はこいつに好かれている。
「さあさあ由紀様♪転校生なんて放っておいて私と愛を育みまsyぐはあ!」
よっちゃんが私の目の前に立ち後ろに向かって拳を突き出している。うーん綺麗な右ストレート。
「あなた、いい加減私の由紀さんにちょっかいをかけるのをやめたらどうですの!?」
私の、ておい。
私は誰のでもないんだけど。
よっちゃんはこいつにだけは手厳しい。
「そんなこといって私の由紀様を取る気でしょ!由紀様は私とあんなことやこんなこtぐはあ!」
おー、今度は左ストレート。
なんて言ってる場合じゃない。
「まあまあ。二人とも、落ち着いて。ね?」
必殺!ウルトラスマイル!
この微笑みを見た者(ただし女の子に限る)は、怒りを忘れるのである!
「あっ…、ごめんなさい、私としたことが…。」
「由紀様、ごめんなさいです♪」
よし。
「そういえば桐原さん、さっき松原先生が探してたよ?渡したい書類があるとかで。」
ウルトラスマイルのまま話題の切り替えに成功!
「そうなんですか、ありがとうございます由紀様♪さっそくいってきますね♪」
彼女はその場で二回飛び跳ねると、急いで教室を出て行った。
集団転校生フィーバーで盛り上がる教室をよそに、私たちは二人で静かにお弁当の残りを片付け始める。
「ところで由紀さん。」
「何?」
「あれ、嘘ですわよね?」
「もちろん。」
そんな都合のいい呼び出しがあってたまるか。
「…我が友ながら、ずるがしこいですわ。」
私は聞こえないふりをした。