シンゴウキの、ふだんし?
黄色と赤色が家を出て行って数分。
いつまでも家にいては気まずい。
何とかして、別れるチャンスを作らなければ。そして、お金を稼いで、一人でも生きてゆけるように。
ずるずるしていたら、本当に結婚が前提では無くなり、現実になる。
アイちゃんには、服を買いに行くと言って、お金を貰って家を出た。
青色のオシャレなリュックも貰ったので、背負って歩く。
家を出るとき、正直大変だった。
アイちゃんは私が一人になるのを嫌がり、べたべたしてきたが、言い聞かせた。
何故か、それと交換でもらったリュック。
何か仕掛けがあるのかもしれない。遠くには行かないように、大手の洋服店に行く。
服屋へ向う途中。
赤色が見えた。真っ赤な髪色。赤色だ。
殺し屋がそこそこ繁盛している、本屋さんにいるなんて珍しい!
えっと、確か名前は……灯李くん?
ここで会ったのも、何かの縁。
情報欲しさに声をかけようと近づくと、あることに気付く。
赤色は、黒いエプロンを身に着けていて、その姿は客ではない。
「……働いているの?」
私の呟きが耳に入ったらしい赤色は、微かに反応し、私を見た。
「……雪ちゃん。そうだよ、僕はここの店員。バイトだけど。今は休憩中」
嫌そうな、迷惑そうな、そんな表情。
私は何か話題を探すために、辺りを見回すと、赤色の手にしている本に目が留まった。
「それ、漫画かな? 面白い?」
「え?」
赤色は手にしていたのを忘れていたのか、改めて目にした途端、顔を真っ赤にした。
そして直ぐに、本を後ろに隠す。目線も泳いでいる。
これは、もしや弱点? 弱み?
「ち、違うから! その、たまたま見ていただけで、いや、た、頼まれた、だけで……今の、見た、よね?」
「表紙の事? 見たよ。男の人が二人で抱き合ってる……漫画だよね?」
「あ、う、いや、漫画、だけど。これは、えっと、いわゆる、BLってやつで」
「びーえる? 何それ、バトル漫画? SF的な?」
普通の声量だったが、何か駄目だったらしく「しっ! 小さい声で話して!」と怒られてしまった。
そういえば、この辺の棚は、男性の表紙が多い。タイトルから恋愛系。
なんだ、赤色は少女漫画趣味だったのか。読んだ事ないけど、たぶんなんの弱みにもならない。
少女が読む物にしては、少し危ない感じの表紙だな……
「これはつまり、少女漫画?」
「えっと、雪ちゃんは、知らないみたいだね。少女漫画よりは、深いし、濃いけど……」
「あー、わかった。女性漫画ね、なんだ」
「……ちょっと違う。この漫画は、男と男の恋愛なんだ」
男同士の恋愛? 同性愛者ってやつか。深刻そうな顔して話しているけど、案外普通。いや、そういう夢でもあるのかな? つまり、赤色自身が同性愛者、なのか?
それなら、弱みになるかも!
「ふーん。赤色は、こういうイケメン、男が好きなの?」
「違う違う! 誤解されるけど、僕はノーマル……女の子が好きだから」
なんだ、変わった性癖でもあるのかと思った。ただ読んでいるだけか。
「……引かないの? 僕、こんな本読んでいるんだよ? 気持ち悪くない?」
「え、同性愛者を見るのが好きなんでしょ? いいんじゃない。そういう人達も拒絶されるよりは、喜んでもらえて嬉しいんじゃない?」
わからないけど。
「……雪ちゃん、良い人だね。僕に出来る事あったら言ってね。未来の姉さん」
「姉さん? 私、結婚しないよ? 赤色くん」
反論したところで、赤色は店の奥へと姿を消した。
小さく笑った赤色くんは、どこか満足そうだった。