トリセツ
『彼女の取扱説明書』という本を気まぐれで買った。
いつも行く本屋で、古本にしてはやけに新しかったらかもしれない。
まあ中身は大方、「細かいところに気付いてほめてあげましょう」とか、「年をとっても男は浮気しちゃダメ」とか、「永久保証付きの彼女なのだから」とか書いてあるのだろう。どうせ安物だし、気負わずに読んでいこう。
「これは”彼女”というものについての取扱説明書です。
おそらくこの本を手に取っているあなたは、彼女がもうすでにいる方だと思われます。まだできていなくて、
作る方法が知りたいよという方は、別の本を手に取ることをお勧めします。
この本では、”彼女”の調子を良くしたいという方、”彼女”のパフォーマンスを向上させたいという方、
”彼女”がトラブルを起こしているという方向けのものです。
調子を良くしたい→P2へ
パフォーマンスを向上させたい→P16へ
トラブルを解決したい→P25へ 」
俺は25ページへ進んだ。
「”彼女”のトラブルシューティング
この章は、あなたの”彼女”がトラブルや誤作動を起こしている場合に読んでいただく章です。
最近そっけない→P26へ
機嫌が直らない→P29へ
別れが近づいてきていると感じる→P33へ
これら以外のトラブル、またはどんなトラブルかわからない→P38へ 」
俺は38ページへ進んだ。
「その他のトラブル
ここでは、上記以外のトラブルを解決するためのアドバイスとして、基本的な交際時における事項を確認していきます。どれかひとつでも当てはまらないものがあったら、それを実践してみてください。」
「連絡を取っていない、またはデートや食事に行くなどして会っていない。」
デートどころか、同棲している。
「会話、メールなどを定期的に行っていない。」
同棲してるんだから、会話してるに決まっている。
「スキンシップをとっていない。」
スキンシップか...そういえば俺は彼女に手を触れることはできないけど、それは彼女の側に事情があるからで、それは彼女もよくわかってる。いや、彼女からはOKなんだっけ?その辺の決まりはよくわかんないなあ。
「彼女をほめない。料理、化粧、服装に対して基本的にノーコメントである。」
うーん、料理は包丁とか握れないっていうから俺がしてるし、化粧と服装はいっつも一緒だからな。
でもほめはしてるはず。「髪、やっぱ黒のロングが似合ってるわ。」とか「お前目力すごいよなー」とか。
照れた反応がかわいいからつい何度も言ってしまう。
「外に連れていっていない。彼女を退屈させてしまっている。」
外は、行けんのかなあ。てか行けるとして行きたい場所あるんだろうか。確か水泳得意だって言ってたけど。あと出身は伊豆らしいから、温泉とかも好きかも。
「思い出をないがしろにしている。記念日、初デートの場所などを覚えていない。」
記念日...は1月31日だったな。セーフ。初デートは、そもそも初めて会ったのが俺の部屋だったからな。
ビデオ見てた時にいきなり来たんだった。あれはびっくりしたが、今はいい思い出だ。
なんか大体やってるなあ。ていうか俺の抱えてる問題ってこういうのじゃないんだけど...
「Q.これまであったことはすべて行っているのに、問題が解決しません。
A.失礼ですが、この本は人間の雌型個体向けに書かれた本です。失礼ですがお確かめください。
あなたの”彼女”は、本当に人間ですか? 」
・・・ほう。
『ネエリュウイチ、ナニヨンデルノ?』
「んー?ああ、何でもないよ。...貞子。」
こいつは、案外まともな本だったらしい。