【2話】「新魔王様の即位式(中編)」
幸いなことに今のところレギア様は失敗らしい失敗はしていなかった。
たまに不穏な動きをすることがあるものの毎回私の方をチラ見してくるので間違いなくワザとだろう。
不安は残るが私はいったん席をはずして会場の外に出た。
「アークヴァルト様、今のところ付近に異常はありません」
外に出るとすぐに会場の警護を担当している近衛隊の隊長ウェイド・ゴズマックが報告をしてきた。
筋肉の要塞というあだ名がつくほど鍛え上げられた肉体を誇るゴズマック隊長は魔界屈指の戦闘能力をもつ。
ついでに顔も戦艦のようにいかつく非常に怖い。
内心少しビビりながらも表に出すことなく平静をよそおいつつ私は答える。
「よろしい。即位式が終了するまでくれぐれも警戒を怠るな」
「はい!」
ビシッと敬礼をしてゴズマック隊長は去って行った。
会場中いたるところに兵士の姿が見てとれる。
ざっと二百人はいるだろう。
数十人規模の会場に対してこの人数は多すぎる気もするが今回はこれでいい。
二日前、犯行声明と思しき一通の手紙が城に届いた。
手紙には来賓および新魔王を殺害するうんぬんと書かれていた。
差出人は過激派組織『煉獄同盟』。
元貴族であるフールフールという男がリーダーをしている。
このフールフールだが厄介なことに非常に頭が切れる。
何十年か前にまだやつがまっとうな貴族だったころ、魔界中の魔族が集まってさまざまな部門に分かれて競い合う大会が行われたことがあった。
私も参加していたのだが驚くべきことにやつは知能部門で私に次ぐ総合六位という結果をのこした。
私に匹敵する知能をもっているやつを侮ってはならない。
確実に何らかの方法で警備をかいくぐり襲撃してくるはずだ。
たとえば私なら内通者を潜入させて内部と外部の両方から同時に攻撃をしかける。
挟み撃ちにされればどれだけ統率のとれた軍隊でも対処が遅れる。
フールフールが指揮しているのならわずかな時間でも隙ができれば確実に計画を遂行するだろう。
以上のような作戦を敵がたてている可能性があるので私は内通者の潜入を防ぐために来賓全員に開心術をかけて内通者かどうかの確認をするように提案したのだが外務大臣のマルバスが反対したせいで却下されてしまった。
最悪の事態を防がなければならないというのにプライバシーがどうのとあのくそじじいめが。
何百年も政治家をしているのに甘っちょろい考え方をしている。
そもそもあのじじいは私のやることなすことかたっぱしから反対する。
そのせいで潰された政策は一つや二つではない。
まあいい、これまでは同列の地位にあまんじていたが今や私は宰相、魔王様の側近中の側近だ。
近いうちにあのじじいを政界からたたき出してやる。
「お前さんまたなんか悪いことを考えとるじゃろ」
「うわっ!くそじ・・・ゴホンゴホン」
知らぬ間に背後にマルバスが立っていた。
「今くそじじいと言いかけたな?」
暗殺専門の魔族であろうと半径二メートルに入られれば気づかぬことはない私の背後をこうもたやすくとるとは・・・だてに六百年も生きているだけのことはある。
「そのような無礼なことを言うわけないでしょう」
「・・・その性格の悪さは直した方がよいぞ」
「私の意見を軒並み否定して含み笑いをしているマルバス殿にだけは言われたくないですね」
「なんじゃと、この若造」
「それから言っておきますが私の方が地位が上なので今後私と話すときは敬語を使ってください」
「ぐぬぬ・・・」
「左遷されたかったらいつでも暴言を吐いてくださってけっこうですよ。黙れ若造!とかね」
「!!!」
顔を真っ赤にして見るからに怒っているマルバスの顔を見ながら私は優越感にひたる。
もう一発ぐらいかましてやろう。
「話が変わりますが過激派がいつ襲撃してくるかもわからないので注意しておかねばいけませんよね」
「そうですな」
おお、あのじじいが敬語を使っている。
愉快愉快。
「そういえばマルバス殿はレギア様の近くに座っているのでしたね」
「それがどうし・・・どうかしましたかな?」
「もしもレギア様の命が危うくなれば身を挺して守ってください。守らなかったら反逆罪で極刑ですからね」
「なんじゃと!わしに死ねと言っておるのか!無礼者!」
「おや?言葉使いがずいぶん荒々しいですね」
「は!」
「遠方の地は緑が多くて老人にはちょうどよさそうですよね」
「し、失礼しました」
今日初めて気付いたがこのじじいちょろいな。
「さあ、こんなところで油を売ってないで式にお戻りください」
「油を売っているのはアーク殿も同じではないのですかな?」
じじいからのささやかな反撃。
ふっふっふ、もはやその程度の嫌味を言うことしかできないのか。
じじいよ、そんな嫌味が今さら通用するわけないだろう。
「私は会場の警備体制の確認をはじめとして様々な仕事があるのです。即位式の最中であろうとのんびりと椅子にふんぞりかえっている暇はありません」
「・・・ちっ」
苦虫を噛み潰したような顔のままじじいは会場内に戻って行った。
勝った。
これからは会議では強気でいこう。
さて、じじいは撃退したことだし他の仕事をさっさと終わらせて式に戻るとし・・・
ドオオオオオオオン!!!!!
突然会場から轟音が響きわたった。
慌てて会場の方を振り返ると会場の壁が崩れ落ちていくのが見えた。
間違いない、何者かが危険度の高い爆発系魔術を使ったのだ。
外部からの襲撃ならすぐに近衛隊からの報告がくるはずだ。
・・・・・・・・・・・・。
こない。
とすると会場内部の者による攻撃。
まずい、すぐにレギア様のもとに向かおう。
この状況でもしフールフールが外部から攻めてきたら最悪だ。
なんとしてもレギア様が殺されるという事態だけは避けなければならない。
『アークヴァルト様!』
通信用の小型水晶からゴズマック隊長の声。
「どうした?」
『煉獄同盟が襲撃してきました!』
「!?」
最悪だ!