【1話】「新魔王様の即位式(前編)」
魔王城は魔界の住人であふれかえっていた。
今夜、先代魔王ゼスト様のあとを継ぐ新魔王の即位式がおこなわれる。
誰もが魔界のこれからを担う新魔王の晴れ姿を一目見ようとやってきているのだ。
中には位の高い魔族の姿も数多く見られる。
「すごいですね。魔界中の大貴族が来てますよ。あ、めったに外出しないことで有名なアマイモン様までいる」
「だからどうした」
「レギア様は魔王としてはあまりにも若すぎるので来場している老害共になめられないように毅然とした態度で式にのぞんでください、と遠まわしに念押ししているのです」
「言われるまでもない」
若干24歳で新しい魔王となるレギア様は飲んでいたワインを置いて不敵な笑顔を浮かべた。
ん?
ワイン・・・?
こいつ・・・大切な式典の直前なのに酒飲んでやがる!
「あと数分で式が始まるというのになんてことをしておられるのですか!」
「気つけに一杯」
「場馴れしている往年の魔族ならともかく陛下のような若輩には必要ありません!むしろ毒です!」
レギア様が新魔王として名乗りをあげたあの日、私を含む高官は緊急会議を開いた。
他に候補がいないとはいえこんな若造を魔王にしても良いのか、我々の議論は大いに白熱した。
その結果、私ことアークヴァルト・ダンタリオンが宰相としてレギア様の補佐をすることになったのだ。
つまりレギア様が何か失態を犯した場合、私の責任となる可能性が高い。
ゆえに私は私自身の保身ために全力でレギア様をフォローしなければならないのだ。
「まあ飲んだ時点で余の勝ちだがな」
「人の心の内を勝手に読まないでください」
大した効果は無いと思うがとりあえず水を飲ませる。
「アークよ、おかしいとは思わぬか?」
楽しげな表情でレギア様は問いかけてきた。
「おかしい?何がです?」
「お前は長年政治の世界に身を置いてきた。であればこのような式典において酒は使い方を誤ればとんでもない事態を引き起こすことがあることを人一倍よく知っているはずだ」
確かに。
これまで幾人もの優秀な政治家や貴族、悪いときには王族が酒が原因で失墜してきた。
私の知り合いにもそのようなマヌケがいる。
「そのお前が指揮をとっている此度の式典で最重要人物である余が酒を飲んでいるのだぞ。おかしくはないか?」
「・・・おかしいですね。陛下が酒を好んでおられることは事前に確認済みです。なので大臣から清掃係に至るまで絶対に陛下に酒の類を近づけるなと命じておいたはず・・・。いったいなぜ?」
「クククククッ」
レギア様の目には私が悩んでいる姿がさぞ滑稽に写っているのだろう。
意地の悪い笑い方をしている。
お前のようなやつこんな時世で魔王と血縁関係でさえなければただの地方貴族のガキにすぎないのだぞ。
いつか思い知らせてやる。
「むう・・・・・」
「そこまで。残念だが時間切れだ」
結局謎は解けぬまま即位式は幕を開ける。
「いくぞアーク。余の王としての初仕事だ」
「酔いのほうは大丈夫なのでしょうね?」
「そのことだが・・・」
レギア様は生意気そうな顔をこちらにむけて答えた。
「思ったより酔ってしまったから余がうっかり来賓のジジイの頭をしばくようなことがあればそのときはお前がどうにかしろ」
「わかりま・・・なんですと!?陛下、お待ちください陛下あああ!」
おそらく今日という日は私のキャリア史上に残る厄日なのだろう。
いいだろう、このクソガキ魔王。
そっちがそうくるなら私は全力で式を完璧に終えてみせようではないか!