【0話】「彼の名はハーゲンティ」
数日前、魔界に激震がはしった。
勇者によって第108代魔王であるゼスト様が討伐されてしまったのである。
すぐに次の魔王を決めなければならない。
決めなければならなかったのだがここで問題が発生した。
67歳という魔族としては若すぎる年齢で崩御されたゼスト様には後継ぎとなるべき子供がいなかったのである。
では親族の中から次代の魔王を選ぼう、そう決めた私たち家臣一同はすぐに家系図をひっぱりだしてかたっぱしからゼスト様の親族を調べ上げた。
しかし、再び問題が浮上した。
ここ百数十余年の間に多くの歴代魔王が勇者によって討伐されてきたために魔王の親族たちは
『魔王になったら遠からず勇者に討伐されてしまう』
と考えるようになってしまっていて誰も魔王になろうとはしなかったのだ。
自己顕示欲の塊である魔族の中でも高位の存在である王族にそこまでのトラウマを植え付けるとは・・・勇者おそるべし・・・。
このままでは魔界をまとめる者がいなくなり冗談抜きで滅んでしまう。
絶望して天を仰いだそのときだった。
「やれやれ、何百年も生きておきながらどいつもこいつも腰抜けばかり。ならば余が新しい魔王になろうではないか」
救いの手がさしのべられた。
声がしたほうを見る。
「このレギア・ハーゲンティがな!」
そこにいたのはおそらく30年も生きていない少年だった。