家に帰ると僕の彼女が僕の愛犬と全力で喧嘩していたから扉をそっと閉めた。
独り暮らしを初めてもう二年になるのか。そう思うと少しは感慨深くもなるクリスマス。去年まではリア充どもの性なる夜だの、世界ごと爆発しろとか考えていたけれど、今年の僕は違うぜ。なんてったって、僕もリア充になったんだから。
僕の可愛い彼女は二歳年下で、今は大学に通っている。明るくて努力家の彼女とたまたま人数会わせで呼ばれた合コンで出会い、お互い動物好きなのもあって意気投合し、何回かのデートのあと僕が告白して付き合うことになった。友達からは死ねだの爆発しろだの彼女寄越せてめーには勿体無いだの(そんなことを言ったそいつは裏でO☆HA☆NA☆SHIさせてもらった)言われたが、うるせー、僻むな。僕の彼女は可愛いんだ。少し天然だけど。
お互いに学生で、贅沢は出来ないから僕の家でささやかなパーティーをすることになった。料理は彼女が作ってくれるし、僕はバイト帰りにケーキを買ってきた。クリスマスだけれど、彼女の好きなリンゴのタルトだ。そんなチグハグも僕ららしくていいだろうし、彼女もきっと喜んでくれる。
あれこれと考えているうちにいつの間にか自分の家に着く。普段は真っ暗な部屋に明かりか灯っていて、なんだか嬉しいような、泣きたくなるような気分になった。こんなことが幸せなんだなぁ、なんて噛み締めながら玄関の扉を開く。
「にゃあぁぁっ! サニーっ、何するのっ!」
瞬間、彼女の悲鳴とドタドタと暴れる音が聞こえて、ただいまも言わずに部屋へと走る。
部屋の扉を開けたら、僕の可愛い彼女と、愛犬のラブラドールレトリバーのサニーが一触即発の雰囲気で向かい合っていた。
ちなみにサニーは普段は僕の家にはいなく、実家で住んでいるんだけれど、両親と妹が旅行に行くので一週間程預かることになっていた。甘えん坊のサニーは僕が帰ると尻尾をぶんぶんと振って甘えてくるはずだし、彼女とも仲がよかったと思うんだけど、何この戦争状態。
「確かに! 今、私は我が儘言ったよ!? でも今日くらい彼を独り占めしてもよくないかな!? この一週間、君が独り占めしてるでしょ!?」
彼女がサニーに向かって叫ぶと、応えるようにワンワンと吠える。
「それとこれとは話が別? サニーは一週間しか一緒にいられない? でもでもでも! 年末は彼も実家に戻るでしょ? その時だって!」
彼女が反論するとサニーがさらに吠えたてる。
「それは……そうだけど……! ぐぬぬ……!」
なんか悔しそうな彼女さえなんか可愛いと思うのは僕が重症だからだろうか? 病名はもちろん恋煩いだけど。と、現実逃避はそろそろやめようかな。さあ、ツッコむぞー。
なんで僕の彼女は僕の愛犬と普通に会話が成り立ってる挙げ句、喧嘩してるんだ?
これはあれか? 前にお酒呑んで彼女にしては珍しく酔っ払った時に言っていた、「私、動物の声がわかるんだよぉ。皆、気味が悪いって言うから内緒なんだけどねぇ。君だけには教えてあげる。二人だけの秘密だよ♡」ってやつか思い出したら酔って顔が赤くて涙目でにへらと安心しきった顔で笑う彼女まじ可愛いどうしよう抱き締めたい。
おっと失礼取り乱した。閑話休題。まあ、次の日の彼女は覚えてなかったんだけど、酔った時って本心出るし、嘘を言うようなコじゃないから信じてはいるけど、こう目の当たりにすると、羨ましいな。動物と会話出来るとか、してみたいわ。まぁ、家畜のこととか考えると良いことばかりじゃないと思うし、苦労もしてきたんだろうけど、気味が悪いとか言ったヤツ出てこいよO☆HA☆NA☆SHIしようぜ動物達とも一緒にさ。
うーん、正直さ。今すぐ部屋に入ってもいいんだけどさ。なんか喧嘩してるのも楽しそうなんだよね。それにあの日のあと、彼女が何も言ってこないってことは、まだ僕には話したくないんだろう。バレるのがまだ怖いのかも。まあ、それはそのうち言ってくれたらいい。彼女のペースでいい。いつまでも僕は待つつもりだ。一生内緒のままでもいいしね。
さて、まだ、僕に気付かず楽しそうにはしゃぐ彼女達に少し嫉妬しつつ、もうちょっと時間でも潰すかなぁなんて思って、僕は部屋の扉をそっと閉めた。
家に帰ると僕の彼女が僕の愛犬と全力で喧嘩していたから扉をそっと閉めた、だなんて、2chにでもありそうな話、きっと誰も信じちゃくれないかもしれないけれど、彼女の意外な一面も見られたから僕は満足です。
ちなみにこのあと、僕は二時間ほど外でガタガタ震えるハメになって風邪を引くことになったんだけど、そのあと彼女と愛犬が優しく看病してくれたから、たまにはこんなのもいいかな。
その看病中に彼女はカミングアウトして、彼は笑って受け入れて、ずっとイチャイチャしてたらサニーちゃんが嫉妬したので巻き込んでイチャイチャして過ごしたそうです。
少し時期は遅れましたがクリスマスのお話。リア充爆発しろ。