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巨塔の姫と愉快な仲間達。

 私、古宮フルミヤ 刀子トウコは誠に遺憾ながら、[巨塔]と呼ばれています。



 身長、実に180㎝ジャスト。高二女子平均身長を優に23㎝もオーヴァーした私は、キチンと背を伸ばした正しい姿勢と、トウコと言う名前からか、クラス、いや、あるいは学年、もしかしたら学校中から[巨塔]と呼ばれて親しまれています。と思います。思いたいです。思っていないとやっていられません。

「おー、古宮、今日もデカいなぁ。目立っていいね、うん」

 なんて言う初老の男性教師に、何がいいのかもわからないまま、

「はぁ、そうですかね……?」

なんて気の無い返事をしつつ、何か嫌な予感がするので、その場から逃げようと先生の横を通ろうとしますが、妙ににこやかで軽快なステップを踏んで先回りをされました。何今の無駄に華麗な足捌き。

「いやぁ、ちょっとばかり手伝ってほしいんだよ、うん」

 私、先生のちょっとは信用しないって決めてるんです。だからここはガツンと拒否してやるんです。



「古宮、いつもいつも助かるよ、うん。僕じゃ身長が低いし非力でね。上の棚には届かないんだよ、うん」

「……はぁ……」

 拒否しきれなかった結果がこれですよ、ええ。笑うがいいです。この滑稽な私を。

 さっきまでいた廊下じゃ、「また巨塔が栗原先生に捕まってるよー」だなんてクスクス笑われました。

 言っときますけどね、先生。私だってか弱い乙女なんですよ。顔見せたくなくて前髪伸ばして後ろは大きな三つ編み一本だなんて根暗なイメージになっちゃってますけど、料理とかお菓子作りとか掃除とかが好きな乙女なんですよ! うーん、自分で言うと寒いものがありますね……。

 でも、こういう重い物の整理とかは男子に頼んでほしいです。私と同じ身長の男子なんていくらでもいるでしょう。

 なんてことを気が弱いことを自覚している私が言えるわけもなく、先生があれもこれもと増やしてくる雑務を黙々と消化するしかありませんでした。



 やることもやって教室に戻って、ぐだーっと机に突っ伏しているのにも実は気を遣うんだよなぁ。気兼ねなく手足を伸ばしたらはみ出しまくって周りに迷惑がかかります。デカいって不便です。

「刀子ちゃん、お疲れ様ねー」

 ぐだる私の頭をペシペシと叩くのは同じクラスの身削ミケズリ カンナちゃんでした。物騒な名前とは裏腹に小さくて可愛らしい女の子です。チャームポイントは幼く見える童顔に映える大きな口と鋭くギザギザな歯です。もう本当可愛い。

「そう思うなら手伝って下さいよぅ。見てたくせにぃ」

 私が唇を尖らせながら言うと、鉋ちゃんは私の唇に人差し指を当ててブニブニと押してきました。

「キシシシシッ、刀子ちゃんが素直に言うこと聞きすぎなんだよねー。そんなんだと、そのうち流されるままエロいことされちゃうよー? てゆーかするねー?」

「またそんなこと言うー。sexual harassmentですよー」

「すげー流暢な発音だねー」

 言い合いながら未だに唇をブニブニしてくる鉋ちゃんの人差し指をパクッと咥えてみます。普段のセクハラのお返しです。はむはむ。

「ちょ、何するのねーっ! きちゃないのねーっ」

 鉋ちゃんがとっさに手を引っ張って行きます。反応が可愛いです。

「ごめんなさいですよー、つい甘噛みしちゃいましたー」

「あ、甘噛みとか……!」

 あれ、周りが妙にざわついているような……。てゆーか鉋ちゃんも人差し指をじっと見て固まってるけど……。な、なんか私悪いことしちゃった? ってそうですよね、いきなり指噛まれたら誰だってイヤですよねっ?

「か、鉋ちゃん、ごめんなさいっ、嫌でしたよねっ?」

 私はハンカチを取り出して、焦りながら鉋ちゃんの指を拭きました。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

「えっ? あっ、いや、大丈夫よ? 別に嫌だったわけじゃないんだけどねー」

 鉋ちゃんがそう言ってくれて良かったです……。鉋ちゃんは優しいです。

「良い百合でした」

「てゆーか、今の指フ「言わせねぇよ!?」

「凸凹萌えでござるゆえ、凸凹萌えでござるゆえ!」

「誰だ今この鉋ちゃんを超チビ貧乳コケシっつった大馬鹿野郎はっ!!」

「「「その通りだが、誰もそこまで言ってねぇ!!!!」」」

「殺す!!」

「「「しまったぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 うちのクラスって皆、仲が良いですよねぇ。



 鉋ちゃんの無双乱舞が炸裂して、人間がポンポン飛んだりして死屍累々の状態でした。元気だなぁ、鉋ちゃん。

 ぼんやりと一人でお昼ご飯を食べている私です。友達がいないわけじゃないんですよ。いつも一緒に食べている、鉋ちゃんや、ふにちゃん、ユニちゃんは用事があって、そうこうしているうちにグループから炙れちゃいました。

 鉋ちゃんは暴れたせいで先生に呼び出し、ふにちゃんは委員会、ユニちゃんは「……モーが呼んでる。そのままお昼一緒に食べてくる」って言ってたなぁ。モーってあのスタイル抜群の大人っぽい女の人ですよね。同じ歳くらいらしいですけど、そうは見えません。胸とか。

 それにしても、一人ご飯はちょっと寂しいですねぇ。でも、今更他のグループに入れないでしょうし……。まぁ、たまにはこういうのもいいですかね。お空も真っ青で綺麗ですしー。ポカポカして気持ちが良いですから。



 ……はっ。……あれ? 私、眠ってた?

「いぃーい寝顔だったぜぃ、巨塔ちゃん」

 うわっ、びっくりしましたっ。

「驚かさないでくださいよ、巴先輩。あと、その呼び方は嫌です」

 私がはっきりと否の意思表示をすると、トモエ サクラ先輩はニヒヒと意地悪な笑みを浮かべました。あー、きっとまたなんか意地悪されるんだろうなぁ、私。

「連れねぇーなぁーあ。巨塔ちゃんが気持ち良さそぉーに寝てたから注意しに来たってのに」

「……注意、ですか?」

 どういうことでしょう? 先輩はいったい何を注意しにきてくれたんでしょう?

「ほら」

 先輩はスマホを私に見せてくれます。

「…………あ。うわゎっ、じゅ、授業がっ!!」

 もう始まっていますっ! は、早く教室へっ!

「って言うか、先輩は大丈夫なんですかっ!?」

「あ、俺? 大丈夫大丈夫。サボリだから。一緒にサボる?」

「いえ、今から出ますよ……って、そういえばいつから見ていたんです?」

「真面目だねぇ。……えぇーと、巨塔ちゃんが入学した時からだなぁ。でっけぇーえ女子がいるなぁーって」

「遡り過ぎです!? 今日の話です、なうです!」

「俺はいつだってお前を見ているぜ? 可愛いからな」

「なっ、ななな何を……っ!?」

「反応が」

「だろうと思いましたよ!!!!」

「ちなみにお前が寝始めた頃から見てて、完全に落ちたあたりから隣に座っていたぜぇ?」

「も、もしかして……」

「寝顔はバッチリ見てたぜぇっ」

 うわぁぁぁぁぁっ、恥ずかしいです!! そんないい笑顔でVサインとかしないでください!

「せ、セクハラです!」

「無防備に寝てるのが悪い!」

 ごもっともです!

 ぎゃあぎゃあと私達が騒いでいたら、校舎のほうから小さい人影が爆走してくるのが見えました。鉋ちゃんです。

「巴ごるぁぁぁっ、私の刀子にナニしてんだぁぁ!」

 ちょ、鉋ちゃん、制服でそんなにジャンプしたらスカートの中が見えてしまいます!

「誰がてめぇの刀子だ、俺のだろぉがっ!!!!」

 何言ってるんですかこの先輩は!? 私は先輩のじゃありませんから、まだ!

「刀子、コイツに近寄っちゃだめねっ。妊娠しちゃうからねーっ!?」

 えっ、そうなんですか? え、どうしましょう、どうなっちゃうんでしょう。

「え、刀子さん? なんで頬赤らめてもじもじしてらっしゃるんです?」

「えっ、そ、そうですかっ? そんなことないですよ?」

「ほら、巨塔ちゃんもそう言ってるわけだし……」

「刀子です」

「……ん、巨塔ちゃん?」

「刀子です。さっきから思っていましたけど、私、先輩に巨塔って呼ばれるの嫌です。名前で呼ばれたいみたいです」

「あ、あの……」

「……名前で呼んでください」

「う、やばいね、これはやばいね。座ってるから自然と上目遣いだし、前髪上がって素顔が見えてるしで、破壊力がっ!」

「……先輩?」

「う、……と、刀子……」

「はいっ、桜先輩っ。えへへっ」

「……あ、だめだわ、これ。俺耐えられない。逃げるわ」

 なんか、顔を真っ赤にした先輩がダッシュで逃げていきましたけど、どうしたんでしょう?

「いや、刀子すごいね」

 鉋ちゃんが呆れたように私を見上げてますけど、何ででしょう?

「……って、授業に行かなくてはっ!」

「えー、もうよくない?」

「そういうわけにはいきませんっ! 学生の本文は学業ですのでっ!」

 私は鉋ちゃんを脇に抱えて教室へ走り出しました。廊下は走っちゃいけませんが、今回ばかりはしょうがないのです。



 授業に遅れたことは先生に怒られましたが、なんだか先生もクラスの皆さんも私を見て驚いていましたけど、なんだったんでしょう。今も妙に視線を感じますが……。

「刀子、前髪上がってるのね」

 と鉋ちゃんに指摘されて視界が良いことに気付きました。ああ、髪がボサボサだから皆さん見ているんですね。私はお下げを解いて、鏡や櫛を出して髪を整えます。なんだか、周りから「あーあ」だなんて声が聞こえましたが何だったんでしょう?

「刀子って、巴のこと好きなの? 恋愛的な意味で」

 鉋ちゃんに聞かれて、そういえば誰にも言っていなかったことに気付きました。

「はい、好きですよ、恋愛的な意味で。でも、先輩、意外と奥手と言うか、ヘタレなんですよね」

 いくらアタックしてもするりと逃げられるんですよね。だから私も意地悪に明確に告白しないんです。もしかして、別に好きな人がいるんでょうか?

「言うね、刀子も。まぁ、巴が刀子を好きなのなんて見てればわかるし、焦らずやるといいよね」

 応援してくれるのはいいですけど、鉋ちゃん、機嫌が悪そうです。私、何かしてしまったんでしょうか?

「……もし刀子が巴と付き合っても、私達は親友だからね?」

 と口を尖らせて照れながら鉋ちゃんは言いました。もう、こういう所が本当に可愛いんです、彼女は。

「二人だけの空間禁止ーっ、だよ?」

「……もちろん、私達も、だよ?」

ふにちゃんとユニちゃんが、鉋ちゃんの背中に乗っかかりました。鉋ちゃんが「ぐえっ」と悲鳴を上げたがら退いてあげてくださいっ。

「はい、お二人とも、もちろん、鉋ちゃんとも親友です。変わるわけないじゃないですか」

 こんな素敵な友達がいて、好きな人がいて、私の毎日はいつも楽しいです。



 これが巨塔だなんて言われて親しまれている(と思いたい)私の何気ない一日でした。こうして日記に書くと今日だけでいろいろなことがありました。明日は何があるのでしょうか? 今から楽しみでしかたありません。では、明日を楽しみにして、今日はおやすみなさい。



 とあるデカい女の子の愉快な一日でした。あんまりデカい設定生かせてないなぁ。鉋ちゃんが可愛いのです。

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