他殺志願者《lovers》
※鬱展開注意。
殺されたいと思ったことはある? 私はある。というかいつもそう。
私の人生は平凡だ。それが幸せと言うならそうなんだと思う。事実、私は不幸だと思ったことはない。
この間、お婆ちゃんが亡くなった時は本当に悲しかったけど、それも仕方のないことだと割り切っている私がいた。
そんなとき、恋人が私に質問してきた。
「どんなふうに死にたい?」
私は特に考えもせずに、
「君に殺されたい」
なんて言葉が自然に出てきた。
彼は爽やかに微笑んで、
「ありがとう。これでまた一つ、君を知ることができた」
と言った。
彼は不思議な人だ。『知りたい』と言う願望が強い。あれはほとんど本能なんだろう。どんなことでも知りたいらしい。それが理解出来なくても、理解出来ないことを知ったと喜ぶ。
「Memento mori、だよ」
彼は唐突にそんなことを言う。
「めめ……?」
頭の悪い私は、その言葉が何なのかわからなかった。
「メメント・モリ。日本語訳だと死生観。自分が必ず死ぬことを忘れるなって警句」
彼は優しく微笑んで私を撫でた。
「おかしいよね。僕達は死を知らないのに、それを忘れるな、だなんて。まるで僕達が死を知ってるみたいだ」
彼は玩具を見つけた子供みたいに目を輝かせて 続ける。
「知りたい。死がなんなのか、知りたい」
そして最初の会話に繋がるんだけど。
そんな彼が、
「僕が君を好きな理由を知りたい。君が僕を好きな理由を知りたい」
私はそれを聞いて思い付く。
「なら、私を殺してみてよ。そうすればわかるかもしれないよ?」
彼は悲しそうに微笑んで、キッチンから持ってきた包丁で、私を突き刺した。
「愛しているよ、だから、君を知りたい」
ああ、これが殺されるってことか。どうしてだろう。幸せだなぁ。 不思議と抵抗は無い。私は痛みさえ受け入れた。
「その答はすべて、君にしかわからないの。私がなんで君を好きなのか、私にしかわからないみたいに」
私は薄れる意識の中で呟いた。
そっか、そっか。私はこの人に殺されたかったんだ。私の愛しい人。
「おやすみ、ありが、と……。殺してくれ、て……。あ……ぃ…………」
愛してる。
あーあ、最期のはかすれて声にならなかったなぁ。最期なんだから、ちゃんと伝えたかったのに。
薄れ逝く意識の中で、彼も自分に包丁を突き刺しているのが見えた。
よかったね、これで君は死を知るんだね。
彼が私の手に触れてくれた。そのぬくもりが、血溜まりに混ざり合って、私達は一つになっていく。
君が教えてくれたんだよ。
Memento mori。 私はこの死を忘れない。 さようなら。
甘き死に、愛を。の別視点。
愛した人に殺されることを願った彼女の話。