彼女はいつも愛している。
蓋をあければがーるずらぶになりました。あれ?どうしてだ?おかしいな……。
全身全霊全力全開で趣味に走りました。若干鬱展開ですが、むりやりなハッピーエンドになります。設定はあんまりないので深く突っ込まないでください。
愛されたかった。ただそれだけだった。だから努力した。愛されるように。だから愛した。愛されるように。
愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して。
誰か、私を愛して。
♪
私は誰からも愛されていなかった。両親はすでに亡くなっている。親戚の人達にはゴミでも見るような目で見られた。それでもこんな私を育ててくれる親戚の人達には感謝しかない。いつか恩返しできたらと思う。私はどうにか生きているんだから。
さて、今日は皆さん、帰ってくるのかしら。この家での私の役割は家事だ。少しでもうまくできなければ叱られるし、殴られる。しょうがない。ちゃんとできない私が悪い。食事も一緒には摂れないし、同じものは食べてはいけない。私に許されているのは少しのお米と野菜の切れ端で作った残り物だけだ。調味料は使えないけれど十分だ。私の食事なんて栄養が得られるならそれでいい。親戚の人達には美味しいものを食べてもらわくてはいけないけれど。前に不味いものを出したら、三日ほど食事を与えてもらえなかった。あれは苦しかったなぁ。でもおかしいな……、長男の方にこれでいいと、味見も必要無いと言われたのだけれど。口答えは許されていないし、きっと私が間違えてしまったんだろう。
ああ、いけない。そろそろお夕飯の準備をしなくては。私の愛するあの人達に、美味しいご飯を食べてもらうために。
♪
私の学校生活は静かなものだった。私に話しかける方はいないし、私が話しかける方もいない。語彙も話題も少ない私の話を聞かせるわけにもいかないから、このくらいで丁度いい。とは言っても業務連絡はちゃんとしている。今日もクラスメートから掃除や提出物の回収を頼まれた。役立たずの私でも多少は役に立っているらしい。よかった。普段良くしてくれているクラスメート達に少しは恩を返せているんだろう。
最後に生徒会にも顔を出す。ある程度の書類は作らせてもらっている。とは言っても、予算の計上や備品の在庫確認、生徒からの要望の精査や解決策の提案など、雑用ばかりだというのだから生徒会の皆さんには申し訳なく思う。私が無能でなければもっとお手伝い出来るのに。今日も生徒会の皆さんは忙しいようで、生徒会室には私しかいない。学校内に生徒がいる間は生徒会室には戻ってこれないようで、いつも私が帰ったあとに仕事をしているようだ。長男の方が生徒会長で、いつも帰りが遅いことからもわかる。私は雑用ばかりだから、すぐに終わってしまうけれど、遅くまで頑張っている皆さんには頭が上がらない。
さて、と。そろそろ帰らないとお夕飯の準備が間に合わない。今日の分は終わったから、敬愛する生徒会の皆さんには悪いけれど、お先に帰らせていただこう。
♪
「なに、これ……。頭おかしーんじゃねーの?」
私はこの世界で最も汚い何かを見るような目で、彼女の一日を見ていた。狂っていると思った。何もかも。
ありとあらゆる責任を重圧を押し付ける彼女の親族も、この学校も、それを難なくこなせてしまう彼女も。
救いがない。希望もない。それに気付いていない。それが当たり前なのだから。吐き気がした。
だから、私も狂うことにした。
♪
私は今、クラスメートの方の一人のお家にお邪魔している。帰ろうと思ったら、急に手を引かれた。走っていたからだろう、彼女の手は温かかった。突然、鼻の奥がツンとして、あまりに痛くて目の前が滲んだけれど、いったいなんなんだろう? 何かにぶつかったんだろうか?
「えーと、自己紹介からいこーか、私は庵。みんなはイオって呼ぶよ」
クラスメートの方は私なんかに名前を教えてくれた。私はなんて答えればいいのかわからずに、そうですか、と頷くしかなかった。ああ、私は無能だ。こんなにも優しくしていただけたのに、返す言葉も見付からない。それに、私などに名前を教えていただかなくとも、学校の教師、生徒の顔と名前は全て覚えている。私なんかが間違えるわけにはいかない。
「……なんつーか、この程度もか……。こんなことさえもなのか……。」
そう呟く彼女は酷く顔を歪めている。泣いているような、怒っているような。苦しいのだろうか。私に出来ることはないのだろうか。
そう私が拙く伝えると、彼女はやはり苦しそうに顔をしかめて、そのあとふわりと無理矢理笑う。
「イオって呼んで。今はそれだけでいいから」
そして私の頭を撫でてくれた。あまり手入れもしていないボサボサ頭だから、汚いのだと言ったけれど、そんなことはないよと笑って。
「……いお、り、様……」
「イオでいい。様はいらねー」
「イオ、さん」
「……まあ、いいや。それで」
優しくしていただいたところ申し訳ないけれど、私は家に帰らなくてはいけない。親戚の方々のお世話をしなくてはいけないから。それなのに。
「いやー、これさ、誘拐なんだよね。だから帰すわけにはいかんのよー。あっはっはっ」
はい?
♪
それから私は彼女と暮らすことになった。もうかれこれ一ヶ月。もともと携帯も持っていないし、この家には電話が無いから外に連絡できない。
家はもちろん学校にも行かせてもらえない。脱出しようにもここはマンションの六階で、玄関は外から鍵を掛けられており、外に出られない。バルコニーには何故か手すりから天井まで柵が取り付けられていて、出られない。えと、どうしよう。取り敢えず、ご飯を作っておこうかしら。掃除は終わっちゃったし。何もしなくていいだなんて言われたけれど、どうして? 何かやらなくては、怒られる。叱られる。殴られる。蹴られる。『何もしなくていい』をしなくてはいけないのだろうか? でももうしてしまった。どうしよう。怒られる? 叱られる? 殴られる? 蹴られる?
痛いのは嫌だ。愛されていないのだと実感させられるから。痛いのは嫌だ。私なんかいらないと言われているのと同じだから。必要として。私は何でもするから。愛して。お願い。私を愛して。
──それが無理なら、殺して。お願い。私を、殺して。死にたいわけじゃ、ないのだけれど。
♪
「たっだいまー。……って、ありゃ、なんか部屋が綺麗になってるなぁ」
イオさんが帰ってきた。続く言葉にびくりと体が震える。私は言いつけを守れなかった。『何もしなくていい』を出来なかった。私は無能だ。何も出来ないくせに何かしたくなる。
「いつもありがとなー。夕飯もうまいしよー。ところでお前さん、いつもいつ飯食ってん? いつも一人分だし……ってなんで泣いてん!?」
あれ、泣く? 私が?
「私は、ええと、……あとで、食べて、ます」
「お、おお? そうなん? まあ、一緒に食おーよ、な?」
「私など、ご一緒、するわけ、には……」
「いーから、いーから」
彼女に促されて私は自分の夕飯をテーブルに持っていく。
「なにそれ、私のと違くない?」
「……私などが食べるのはこの程度で十分です」
「……あ、そう? んじゃ半分こしよーよ。そっちもちょーだいよ」
「……え?」
「ほいほいーっと」
私が混乱している間に、イオさんと私の料理は綺麗に半分にされてしまった。ダメなのに。
「……味、うっす! なに、こんなん食ってたの? 今までずっと?」
「ええ、まあ……」
「ふーん、……本っ当にクソなんだなぁ、あいつら。まあ、いいや、食おーぜ、食おーぜ。って私が言うのもおかしいけどな」
そうしてパクパクと食べる彼女に倣って、私も食べ始める。あれ、おかしいなあ。味付けはいつもと同じだったはずなのに。少ししょっぱいなあ。こんなの、食べさせるわけにはいかないのに。
「美味いよ。すげー美味いから、ゆっくり食いなよ。こんなに美味いもん、急いで食ったらもったいねーよ」
なんで、こんなに美味しいんだろう?
♪
狂った馬鹿どもの狂ったそのあとの話をしようか。
私はあのコを幸せにしたかった。だってさ、本当は彼女はすごい人間なんだ。無造作に伸ばされボサボサになってしまった黒髪の下の、ビスクドールみたいに整った容姿。たった一人で生徒会を運営する経営能力。常に学年のトップに立つ学習能力。それを維持するために努力も欠かさない。誰に対しても礼節を忘れず、分け隔てなく接し、手を貸す優しさ。事実、彼女に救われた人間は少なくない。彼女は気付いていないのだけれど。私もその1人だった。些細なことだった。だから私の話は割愛する。小中は別の学校だったけれど、高校は同じだった。なんて幸運だろう。やっと彼女に恩返しできると思えば、胸糞悪くなるようなことが罷り通っていた。
彼女の両親が亡くなった時、莫大な遺産が彼女に舞い込んだ。それに気付かれないように掠め取ったのがこの学校の生徒会長とその親だ。普通に生活すれば一生遊んで暮らせるような金は、もう底を突こうとしている。ありえない。それはあのクソどものためにある金じゃない。彼女の両親が彼女の為に残した大切なものだ。彼女がいくら幼かったとはいえ、あのクソどもがどうにかしていい金じゃない。それに、その管理を任されたのは、彼女が成人するまで育てることが前提条件だったのにも関わらず、彼女を道具のように扱い、まともな食事さえ与えず、あまつさえ暴力を振るっていた。彼女の服の下を見たとき、栄養不足で成長が著しく遅れている痩せ細った体を、何度も振るわれ続けた暴力の傷痕を見たとき、彼女を抱き締めて泣いてしまった。彼女は混乱しながらも私を撫で続けてくれた。
学校での彼女の生活はあまりにも恐ろしかった。彼女のノートや提出物、教科書にいたるまで、あのクソ生徒会長の名前が書いてある。戦慄したのは、テストの解答用紙にさえあのクソの名前を書いていたことだ。そしてその成績がそのまま反映される。だから彼女の書類上の成績はあのクソの成績であり、最底辺だった。それが通っているということは、少なくとも担任、その上司、下手すれば学校ぐるみの不正だ。調べた結果、学校全てではなかったが、この学年主任までは賄賂を送られており、何人かの教師は脅されていることがわかった。脅されている教師には悪いが、同罪だ。どうしようもない。生徒会顧問も賄賂を送られていた一人だ。彼女が生徒会を一人で切り盛りしているのにも関わらず、それを黙認していた。ちなみにその間、クソどもが何をしていたかと言うと、遊び呆けたり、彼女を手伝おうとした人間に暴力を振るっていたりした。なんてくだらない。
そんなクソどもは彼女がいなくなってすぐに崩壊した。生徒会は回らなくなるし、成績優秀|(笑)だなんて言われていたクソ生徒会長の成績はがた落ち。行方不明だからと警察が動けば捜査に非協力的すぎてクソ親族の家を調べれば出るわ出るわ埃もゴミも。真っ黒だった。まあ、実は警察のお偉いさんも協力者なわけだけどね。いろいろ司法取引やら裁判の手続きやらしてくれて、めちゃくちゃ助かった。私みたいなガキだけじゃそう上手くいかないから。んで芋づる式に学校の職員も大半が摘発されて放逐になり、生徒会役員、彼らとつるんでいた生徒も退学処分。何人かは逮捕された。すっごいニュースとかで取り立たされたから、もう信用なんてないし、就職とか今後の人生とか終わってるね、ガチで。もちろん、逆恨みでやられないように手は打ってある。ちなみに彼女の遺産は何をどうなってそうなったのかはわからないけれど、全額を彼女に返すことになった。いや、当然だとは思うけど、よくそこまで出来たなぁ。クソ親族ども、まじざまぁ。自業自得だからきっちり払え。今で散々楽してきただろうが。
そんなこんなで私は彼女がどうにかなる前に、学校がゴタゴタするからと、彼女を拉致することを決めた。協力者は何人もいた。彼女に救われてきた人間達だ。裏切ったりは絶対しない。クソどもが欲に狂っていると言うなら、私達は彼女への愛に狂っている。誰だろうと、どんなことをされても皆を愛している彼女へ、私も愛で返そう。いや、そんな綺麗なことじゃない。私達は彼女がこわい。彼女から愛されなくなることが恐くて、怖くて。だから彼女に愛されるように、愛され続けられる人間であり続けるために、必死なだけだ。
まずは彼女の髪を整えた。可愛らしく美しい顔が、くりくりとした二つの瞳が私を戸惑うように見詰める。大丈夫だよ、と私は彼女の頭を撫でる。最初は戸惑っていたが、日毎に気持ち良さそうに目を細めてくれるのが可愛い。頭から手を離すと少し悲しそうにするから、つい抱き締めて撫で続けてしまう。ああ、これではダメだ。私が依存してどうする。彼女はいろんな人に愛されるべきだ。私一人が独占していいわけがない。そして彼女にはいろんなものを食べさせた。彼女は料理が本当に上手で、私だって多少は出来るのに、いつも作ってもらってしまっている。私もたまに作るけど、その時の彼女は酷く不安そうにしている。理由を聞けば、『何もしなくていい』をすることは彼女にとってとてもストレスになるらしい。なんだそれ。私だったら喜んで何もしない。そう言ったら、「すごいです」なんてしきりに感心された。どゆこと? 栄養不足も解消されたのか、筋張った体がだんだんと女性らしさを取り戻し、二ヶ月経った今ではとても抱き心地が良い。あとなんかいい匂いがする。同じシャンプーとか使ってるはずなのになぁ。
そうそう、今はもう彼女も学校に通っている。まだ私の家に住んでるけど。回りの仲間にはぎゃあぎゃあ言われたけれど、うるせー、役得だ。あの時チョキを出した私は人生で最も優れた素晴らしい決断をしたと思う。
「イオさん、イオさん、今日は何が食べたいですか?」
彼女が私の腕に絡まって来て、ニコニコと訊ねてくる。可愛いなぁ。と最近は癖になりつつあるが、彼女の頭を撫でた。
「なんでもいーよ、お前さんが作ってくれんなら」
どうでもいいけれど、彼女の成績は返却されている。今までのテストの結果、提出物は全て見直され、筆跡鑑定も行い、きちんと書類上も正しいものになった。行方不明から帰ってきたら成績優秀、品行方正、眉目秀麗と三拍子揃った彼女は大人気になったわけだけど、どうしてか私にくっついている。ああ、そう言えば、彼女が料理の道に進みたいと言った時の教師の顔は面白かったなぁ。苦虫を全力で百匹くらい噛み潰して口の中に溜め込んだ挙げ句、雀蜂に顔中刺されながら、狐に摘ままれたような顔してたよ。まあ、超有名大学にも余裕で行ける学力を持ってるから、進学してくれれば学校としては箔が付くだろうけど、こんなことになってしまったんだから何にも言えないわな。つーか、何か言ったら私達が潰す。せっかく彼女が自分から見付けた夢だ。大人の都合やら学校の体裁やらのせいで壊されて堪るかよ。アイツらが何か言ってしまったら、優しい博愛主義者の彼女はすぐに自分の夢を諦めちまう。そんなことはもうさせねーよ。絶対に。
「ふふ、楽しいなあ。生きるのはこんなに幸せだったんだなあ。ねぇ、イオさん、私を愛してくれますか?」
「何言ってんだ。愛してるよ、これまでも。これからも」
「ふふっ。私も、イオさんを愛しています。他の皆も愛していますけれど、イオさんは特別なんです」
「んん?」
「ねぇ、イオ、私の名前を呼んで? それで、愛してるって言ってほしいな」
ぎゅっと私の腕を抱く彼女は真剣で、とても美しくて可愛くて。あーあ、これはまた仲間に怒られるなぁ。でも愛しい彼女のためだから、彼女が私を選んでくれたんだから、しょうがないよね?
「私は心から、貴女を愛してる。ねぇ、────」
~おまけ~
仲間の皆「「「イオ、てめぇぇぇぇえおぇえああぁぁあぁぁ!!!!」」」
庵「てへぺろ♡」
彼女「イオ、可愛い。愛してる。もちろん、皆も愛してます。本当にありがとう、私なんかを愛してくれて」
庵「私『なんか』って言うの、やめてよ。私達にとっては貴女は『なんか』じゃないんだから」
彼女「……うん、ごめんね、……じゃないね、ありがとう、イオ。愛してる」
庵「うん、私も」
仲間の皆「「「イオ、てめぇぇぇぇえおぇえああぁぁあぁぁ!!!!」|(血涙)」」
そして、彼女はいつも愛されている。
ご完読ありがとうございました。




