引きこもり少女と不良少年。
幼馴染みである神無月 花多那が引きこもりになったのは、高校に入ってすぐのことだった。アイツは昔から一人が好きで、それでも何故か一緒にいる。
花多那はこの町で一番高い位置にある大きな日本家屋に住んでいる。親はいない。遺産だけはたくさん残っているから、家の管理は美人の女中の如月 奈瑞菜さん(年齢不詳)に頼んでいる。そんなアイツが引きこもって何をしているかと言うと、ただひたすら絵を描いている。俺は詳しくないからよくわからないが、かなりいい評価をもらっているようだ。遺産を抜かしてもそれなりの財産になっていると花多那から聞いた。
そんなこんなでそうなってくると心無い親族どもがウザったいわけだ。両親が亡くなった時も、アイツの絵が評価され始めた時も。やれ、引き取るから遺産の管理はうちがやるだの、まだ幼い娘に遺産を渡してどうだの、絵の売買の斡旋はうちがやるからマージン寄越せだの。あのくそどもに任せてたら遺産なんてすぐなくなっちまうし、花多那が手放したくない絵でさえ金になりゃ売るだろうな。その辺の管理は両親の親友である如月さんがきちんとやってくれている。あの人なら大丈夫だ。いろいろと言われているらしいが、ほとんど無給みたいな状態で仕事をしている彼女に文句は言わせない。
そんで俺はと言うと、花多那を守るためにそこらへんのチンピラをまとめあげてこの町を見回ったりしている。いやぁ、大変だったわ。一人で百人規模の暴走族やら何やらを相手にすんの。近所の極道さんに目ぇ付けられた時は死ぬかと思ったけど、話せばわかる組長さんだったから九死に一生だったなぁ。日本刀を見たのは初めてだったわ。もうこれ死んだと思ってつい笑ったね。そしたら花多那が真っ青になって駆け込んできて大泣きしながら、
「だめ、やだやだやだ、殺さないで、私からこの人まで奪わないで!!」
なんて俺に抱き付いてきて、
「やだよぉ、陽咲ぁ、もぉ危ないことしないでぇ。守らなくていいから、そんなのいいからぁ、一緒にいてよぉ」
とせっかくの別嬪を涙と鼻水で台無しにしてるから、とりあえず抱き締めた。
「わかった。ずっと一緒にいるから。泣くな。俺はお前に笑ってほしいんだ」
あの頃の花多那は人間不信で、俺と如月さん以外には会おうともしないし、外に出るだけで体調を崩すほどだったのに。それなのに駆け込んできたアイツを見たら、もう胸が締め付けられてダメだった。
「ほんとだよ? 約束だよ? ずっとだよ?」
極道さん達は空気読んだっつうか、電波受信したのか、すんげぇ微笑ましそうに見てくれてたし、組長の奥さんが組長含む組員達を組伏せて俺達を送り出してくれた。
「また遊びにおいでなさい。歓迎するわ。それと、花多那さん、その人を離しちゃだめよ。そんないい男、滅多にいないよ。私もあの人がいなくて十歳は若かったらなぁ」
優しげに微笑む奥さんの後ろで組長さんが真っ青になっていたけど、尻に敷かれているなぁ。
「うん、もちろん。陽咲以外考えられない」
あー、花多那は気付いてないけど、それ、プロポーズな。くそ。俺から言うつもりだったのに。そんな俺の様子を見た奥さんが苦笑した。
「大丈夫よ、陽咲君。ノーカンノーカン」
気休めもいいところですよ、まったく。彼女にお礼を言いながら俺達はその場を後にした。
そのあと愚図りに愚図って一週間ぐらい離してくれなかった。物理的に。うん、なんの問題もない。理性は飛んだけどな。
そんなこんなで今は平和に過ごしている。くそ親族どもは極道さん達が押さえてくれてるし、絵画の斡旋もあの人達がやってくれている。もちろん、適正な料金設定で。本当に頭が上がらない。いや、なんでも俺が地元のバカどもをまとめたからいろいろとやることが減ったらしい。ちなみにそのバカどもは今、駅の掃除とかやらせている。意外と綺麗にしてくるぞ、アイツら。もしかしたら花多那に誉められるためかもしれないけど。初めて連れてってから奴らのアイドルと化したのは見ていて笑ったね。度が過ぎたから蹴散らしたけど。今では親衛隊とかいるぞ。なんだそのギャグ。
とまぁ、んなことはいいとして。その引きこもりは今日も引きこもって絵を描いている。アイツの描く絵は好きだ。色がどこか暖かいと思う。俺は出迎えてくれた如月さんに頭を下げて、花多那のアトリエへ入る。
「花多那、来たぞ」
「! ひなっ! おかえりーっ!」
いつもいつもおかえりと言ってくれるけど、俺は別にここに住んでるわけじゃないんだけどなぁ。くそ親族どもが遺産狙いかとかうるせぇから、成人するまでは別だ。うん。なんか、俺、いろいろ調教されてねぇか?
「んーっ! ぎゅーっ!」
まぁ、いいか……。いい匂いするしなぁ、やわいし。どことは言わないけど。強いて言うなら花多那はスタイルが良い。他意は無い。
こんな日常がいつまでも続けばいい。だけど、引きこもりは良くない。花多那はいろんな人間と関わったほうがいい。だから引っ張り出したりしているわけだけど、まあ、今日はいいか。ここ最近はゆっくり出来なかったから、こうしてるのも悪くない。
とりあえず、当面の目標はコイツを高校に連れていくことだ。きっと学校でも人気者になれるよ、花多那は。そのためにいろいろと準備していたから忙しかったわけだけど。まあ、俺と一緒にいたら無理かもしれないが。学校でも怖がられてるからなぁ。それはまぁ、いいや。花多那が笑っていられるなら。
まぁ、陽咲君も学校で人気があるわけですが。孤高の一匹狼として。花多那さんが学校に通うようになってからは彼女に飼い慣らされているせいか、親しまれるようになってきます。花多那さん効果パネェ。




