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桜川優希のささやかな証明

 さあ、始めようかな。



 私は今、壁と向き合っている。それは精神的な、『自分の限界』とかじゃなくて、物理的な意味で。


ディープグリーンのゴテゴテしたツナギに、金属が入ってるわけでもないのにガチャガチャ鳴る腰袋を装備した、およそ女子高生とは思えない格好で、校舎の一角にある、高さ二メートルな長さ五メートル、厚み五十センチのコンクリ製の壁と向き合っている。

 自分でも『何この状況』ってなってるけどね。うん。意味わかんないぜっ。

 私の足元にはペンキの缶が数種類並んでいる。

 さーて、ここまで来たら私がやるべきこともお察しいただけるだろう。私はこれからこの壁に絵を描かなければいけない。

 しかも、今日中に。


馬鹿か。無理だ。一人だよ? 確かに私は芸術科でこういうのには慣れているけれど、デザインから完成まで今日中だなんてなんて無理ゲーなんだ。あのクソ生徒会長こんな重要なこと昨日まで忘れてたからって私に押し付けて!

 現在AM八時。そろそろ作業開始しよう。デザインも決まってないけどね。



 やらなければ終わらないからやってみたけど、なんとかなるもんだなぁ。順調にするする進んでくれている。さすが私!

 とかなんとか自画自賛していたら、可愛らしい小柄な女の子がパタパタと小走りでこっちに向かってきている。軽くウェーブしているくりいろの髪がふわふわしていて今すぐもふもふしたい。


「ゆーきちゃん、どうどう? 捗ってる? あ、これ差し入れねー」


 そう言って女の子、穂波ちゃんはニコニコ笑顔でペットボトルを私に差し出してくれた。可愛い。私は無類の可愛い好きだから、もう穂波ちゃんお持ち帰りしたいくらい可愛いヤヴァイ。

 そんな変態的な考えをコンマ一秒で校正したのをおくびにも出さず、私はありがとう、と受け取った。喉は既にカラカラだったので、すぐに開けて喉を鳴らしながら飲む。


「ふわぁ、さすがゆーきちゃんだねぇ、このままいけば今日中には完成しちゃうね!」


 さっき自画自賛していたとはいえ、そう手放しに他人、しかも穂波ちゃんに褒められると苦笑いしか出てこない。


「ほんとは一週間くらいはほしいんだけどね。あのクソ生徒会長のせいでもうまじ大変だよ。差し入れに来たのがクソ生徒会長だったらそこのペンキぶっかけてるね」


 私の憤慨にクスクスと笑う穂波ちゃん。


「でも、ちゃんとやってくれてるから、本当に助かってるよ、ありがとう」


 いや、私がこの仕事を受けたのは、生徒会に穂波ちゃんがいたからなんだけど、そう言っても照れ隠しとかって言われて終わりだからなあ。

 それから穂波ちゃんとお昼を食べて、存分に癒されてからまた作業に戻る。と、まあ、ここまでは順調だったんだけど。



 三時を回って、事件は起きた。



 サッカー部がグラウンドで練習試合を始めた頃、モニュメントもほとんど完成だってときに、また穂波ちゃんが差し入れに来てくれた。


「おや、僕のことはナチュラルに無視かな桜川君?」


「穂波ちゃん、ありがとねー」


「うーん、悲しいねぇ、僕はこんなにも君を愛しているのに。ああ、もちろん、穂波君、君もね」


 うるさいなぁ、もう、私と穂波ちゃんのランデブーを邪魔しないでよ。


「そう邪険にしないであげて? この差し入れだって会長からだし、自分が来ても邪魔だし不快だろうって、無理矢理連れて来たんだから」


「ちょ、穂波君」


……別に来なくてもよかったのに。コイツだって相当忙しいのくらい私にだってわかるし、あのモニュメントだってどうせ先生方からの無茶ぶりを自分のせいっぽく演じたんでしょ?


「そーゆーところが嫌い」


 私が顔を逸らすと、会長は苦笑するし、穂波ちゃんはクスクス笑うし、もう。


 ってやっていたら、私達の後ろ、モニュメントから、ゴッシャアァッ!!!! って音がした。

……、嫌な予感しかなくて、振り向きたくないんだけど、穂波ちゃんの手で口を抑えた真っ青な顔とか、会長にしては珍しく、演技でもなく驚いた表情を見たら泣きたくなった。


「ゆーきちゃん……」


 穂波ちゃんの声で覚悟を決めて後ろを見たら、サッカー部の面々が並んで土下座しているっていうめちゃシュールな光景に思わず笑った。


「「「すいませんっしたぁぁぁぁ!!!!」


「あはは……」



 土下座サッカー部を帰らせてから、私はモニュメントの前で呆然としていた。これはだめだなあ。

 どうやらサッカー部の蹴ったボールがペンキの缶にぶつかったらしい。なんていうか、わざとじゃないぶん、やるせない。


「ゆーきちゃん、どうしよう」


 ほとんど泣き出しそうな穂波ちゃんが上目使いで私をのぞき込んだ。まあ、可愛いんだけど、私は笑った穂波ちゃんのほうがいいなあ。


「ふむ、今回は仕方ない。最初から無理な依頼ではあったんだ。この件はこっちで処理しよう」


 ……それをやらせたのは会長だけどね。でも、私ならできるって信じてくれたんだよなあ。

 だから、まあ、うん。


「ううん、やらせて。私が受けたんだから、どんなトラブルがあってもそれを解決するのだって私の仕事だよ」


 ここまできたら投げ出したりできない。しない。私はモニュメントと向き合った。

 うん、大丈夫、これなら。

 私が描いていたのは右を向いた女の子の絵だ。その絵の左下から右上に向かってびちゃってなってる。


「僕も何か手伝えるかい?」


「私も手伝えないかな?」


 会長と穂波ちゃんがブレザーを脱いで腕を捲ってるけど……、貴方達、仕事は……、いや、野暮なことは止そうかな。


「うん、ありがとう」



そんなこんなで、あっはっはっ、終わったぜー!

あたりは真っ暗、補導されそうだ!


「な、何とかなるものだね……!」


 穂波ちゃんが疲れたような、興奮したような複雑な、だけど、満ち足りた表情をしていた。

 うん、知ってるよ。それをね、達成感って言うんだよ。


「つっかれたぁ! でもよかった、ちゃんと完成して!」


 べちゃった部分はどうにか改造して、舞い踊る花びらの中に女の子がいるような構図になった。

 うん、きれいだな。なんて自分の絵を眺めていたら、会長が神妙な顔で私に質問してきた。


「君はなぜ絵を描くんだい?」


 ……急にそんなこと言われてもなぁ。そうだなぁ。


「私が私だっていう、証明だからかなぁ。なんて言えばいいかわからないけど、私は絵を描くことで自分を証明してるんだよ、たぶん」


 なんて言ってみたらカッコ良く聞こえるけどさ、ようは、私は私を残したいんだろうなぁ。


「ゆーきちゃん、かっこいー」


 ……そう穂波ちゃんに言われたけど、なんか恥ずかしくなってきた。

 質問してきた会長はなんか黙り込んでるし。


「うん、そしたらこのモニュメントのタイトルは『桜川優希のささやかな証明』にしよう」


「やめて、恥ずかしいから」


 会長がトチ狂ったことを言い出したので止める。コイツならやりかねない。てゆーか、個人名を付けていいの?


「まあ、名前は付けてあげなきゃねぇ。こうして皆で作り上げて生み出したわけだしね」


 私がそう言うと、穂波ちゃんが目を輝かせて私に顔を寄せてくる。可愛いお顔が近いよ。


「私も『桜川優希のささやかな証明』がいいと思う! ぴったりだよ!」


 いやいやいやいやいやいや、だめだよ! てゆーか、やめてよ!

 とまあ、そのあと、数十分の協議と妥協の結果、『ささやかな証明』になりました。



と思ってたのに、後日モニュメントの下に書かれていたのは、『桜川優希のささやかな証明』だった。


「あんの、くそ会長がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


私の憤怒の絶叫が校内に木霊した。

なんてまとまりのない話になったんだろう。

終始グダグダだなぁ。

とはいえ、おもにこんな話を書いていきますよ。

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