Vol. 5 異変‐5
――薗田先生か?――
僕は耳を澄ませながら廊下の方向に目を遣る。
――薗田先生だ!!――
間違いない。白髪混じりの灰色頭にしわの刻まれた日焼け顔。薗田先生だ。僕は胸を撫で下ろすと同時に嫌な予感がしてきた。
「始めます」
シ〜ン。
号令が掛からない。
「始めます!」
シ〜ン。
口を利こうともしない。
「号令は?休み?」
薗田は学級名簿を見て言った。しかし皆の反応は無い。
「しかも皆,机に何にも出てないじゃない」
薗田の頭に怒りが込み上げてきた。
「自分はあまり怒る方ではない」
と薗田はかつて言っていたが,今日は言葉の節々に怒りが組み込まれている。しかしそれでも皆の反応は全く無い。
「………」
教室内が重苦しい雰囲気に包まれた。その雰囲気に僕は何も言えなくなってしまった。
「唯一道具が出ている根岸!このクラスは一体どうなってるんだ!?」
僕は緊張して言葉が出てこない。
「根岸,お前もか〜」
――この場合,何て答えたらいいんだろう?――
「………」
「………」
……会話にならない。
――どうしよう。このまんまじゃ何にも進まないよ――
気持ちばかりが焦ってくる。
「山田,お前もいつもの元気が無いぞ」
薗田は照準を山田正司に合わせた。もちろん反応は無いのだが。
「皆一体どうしたんだ?だらしない。2学期になったんだからそろそろ夏休みモードから抜け出しなさい。……」
説教が始まってしまった。生徒に悪気は全く無いのに。
――お〜い〜。何でこうなっちゃうんだよ?早く気付いてくれよ〜,河西先生の時みたいに――
「……今日の授業は自習!!予習をちゃんとやっておくように!」
薗田は怒って教室を出て行ってしまった。歩きながら一人でブツブツ言っている。
今度の授業に備えて予習でもやろうかと思ったが,それは一気に消し飛んでしまった。
――皆の救出が先だ!!――
予習などやっている暇は無い。僕は廊下に飛び出し,高野のいるE組へと向かった。