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Vol.46 終局‐8

「あれッ?そういえば紘美はどうなったの?」

 春川がふと思い出して言った。

「ああ!!」

 僕ははっとした。僕は早速春川に頼んで織部へ連絡,沢辺の体の居場所を訊ねてもらった。

「『職員室にいるから来て』だって」

 春川が通話を切って言った。

「OK。じゃぁ行って来る」

 そう言って僕が教室を出ようとした途端,クラスの女子生徒全員が

「私達が行く」

等と言い出し事態は混乱。結局僕は半強制的に押し退けられてしまった。

 女子達が職員室へ行っている間,残りの男子生徒達は教室内で遊んでいた。お喋りをする生徒,カードゲームをする生徒,漫画を読む生徒……。ここにいつもの1年H組が再び戻って来つつあった。今日一日,僕達が汗し戦って来た事がまるで夢・幻のように……。

 数分後,河西が女子達を連れて教室へ戻って来た。集団の中には沢辺の実体としての姿もあった。生徒は全員席に着き,河西の話を素直に聴く姿勢となった。その瞬間,教室内のスピーカーから読経が流れ始めた。西崎の声だ。

 ――なるほど。今回の事が事だから,やっぱりお(はら)いか何かした方がいいんだろうな――

 僕はこの読経をそう軽く受け止めていた。しかし,それは甘い考えでしか無かった。実はこの経文,耳にした者を即刻眠りに落としてしまうという恐るべき“御利益”を持っていたのだ。僕は両耳を両手で覆い,嵐の過ぎ去るのをただ一心に待ち続けた。

 何分待っただろうか?教室内に充満していた読経が突然途切れた。僕は両手を離し,恐る恐る周囲を見回す。再び訪れた静寂。音はといえばただ耳に入って来るばかりの寝息だけだ。僕は立ち上がり,放送の発信源を探しに走った。

 職員室。生徒同様職員も皆熟睡していた。

 ――西崎は?――

 僕は室内東側を注視した。

「あッ,いた!」

 東側にある大きな黒板の下,少し南寄りの所に西崎はいた。経文を右手に持ち,黒板下の書類棚を背もたれにしてLの字になって寝ている。僕は西崎の手から経文を取り出し,経文を一から眺め回した。

「あったぁ!!」

 経文の最終ページに経文の効能が明朝体で記されていた。

「『この経文をほんの少し聞くだけで,不眠症なあなたもぐっすり快眠!!一度眠りに落ちたらば最後,約15分間は起きられません!!(個人差があります)』……何だこれ?」

 どうやらこのようなものが通信販売か何かで売られているようだ。僕は耳栓をしなかった西崎を愚かに思いつつ,教室へと引き返した。

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