Vol.44 終局‐6
『おぉ,春川どうした?』
受話口からはいつも通りの織部の声が聞こえる。
「先生,今どこにいるんですか?」
『あぁ,今視聴覚室にいるよ。西崎も一緒だ』
「視聴覚室ですかぁ?!」
春川はかったるそうな声を出した。
――視聴覚室?――
しかし,僕の耳は春川のその言葉に機敏に反応した。
『そうだ。そっちは今どこにいる?』
「職員室です。皆椅子に座って涼んでますよ」
『そうか。じゃぁそんな所でくつろいでないで,早く皆をこっちへ連れて来るように言っておいてくれ。やる事が一杯あるからな』
「はいは〜い!ではこれからそちらへ向かいま〜す!」
そう言って春川は電話を切った。春川が織部の指令を皆に伝える。さらなる移動に不平の声も揚がるかと思ったが,もはやそれを口にする者は1人もいなくなっていた。僕達は尚も歩き出す。
職員室から視聴覚室まではかなりの距離があった。僕達のいた職員室は2階廊下の西側突き当たりに位置し,織部達のいる視聴覚室は最上階である5階の東端に位置している。ちなみに2階東端には玄関と事務室,5階西端には音楽室がある。
視聴覚室の扉は重く閉ざされていた。西原がその扉を開ける。
「………?!」
そこには何と職員室にいるはずの先生方や事務室にいるはずの事務員の方々,そして数十個はあると思われる沢山の黒いゴミ袋が。
「織部先生,これは一体……?!」
僕や畑部は真っ先に織部の許へ駆け寄った。
「後で説明するから」
投げ遣りに答えた織部の手から,僕に大人の胴体程はある,大き目のゴミ袋が乱暴に手渡された。重量は外観程無い。
「……で,これをどうすれば……?」
「とりあえず外へ出しといて」
「解りました……」
僕は渋々ゴミ袋を室外へと運び出した。皆にも袋は手渡された。
「……何でこんな事しなくちゃなんねぇんだよ……」
ぶつぶつと愚痴をこぼしながら僕は吹き出す汗をひたすら拭い取る。15時11分,全ての袋を運び出し,僕達は再び織部に訊ね直した。織部は皆にお詫びをし,織部達がこれまでしていた事についてゆっくりと話をし始めた。