Vol.38 決戦‐6
「痛ッ!」
僕が掃除機目がけて投げた小石は少しそれて西崎の左肩に当たった。西崎は反射的にその肩を右手で覆う。その瞬間,西崎の手から掃除機の持ち手が離れた。
「今だ!!」
「何ッ?!」
僕は西崎の一瞬の隙を逃さず,掃除機の操作権を一気に奪い取った。
「よ〜っし!形勢逆転だぁ!」
僕はそう言うと,掃除機の中からピンポン球と化した西原の魂を取り出し,吸引口を西崎の方へと方向転換した。
「うわぁ〜!やめろぉ〜!!」
西崎が絶叫する。しかし掃除機の吸引力は衰える所を知らない。依然として西崎を吸い込もうとする掃除機に,西崎は腹ばいで対抗した。腹ばいをする事によって,掃除機の吸引に対する的は西崎から見て前方に位置する掃除機の吸引口にとってかなり小さいものとなる。だが,この作戦には大いなる欠点が存在していた。
「甘いッ!!」
僕は西崎目がけて突進し,彼の目前で止まった。そして吸引口を西崎の背中へ向けると,西崎はじたばたとふためき始めた。
「そっちが90度傾けるんなら,こっちも同じように90度傾かせればいいんだよ!」
「……詰んだな」
この“決戦”の模様を後方でじっくりと観ていた滝谷がやって来てそう言った。この先西崎がどうあがこうと,この吸引口からは逃げられない。立ち上がった瞬間にその口を西崎の背中へと向ければそれで良いのだから。
「観念したか,西崎!?」
西原が言う。
「ま,参りました……」
西崎は腹ばいのまま降参した。辺りから一斉に歓声が揚がった。僕は掃除機のスイッチを切り,もう二度と使えないように吸引口を道端の泥でパンパンとなるまで詰め込んだ。
「よしッ,これでもう掃除機は使えないだろう。さぁ,問題はこの人だ」
僕は西崎をチラッと見た。西崎は堂々としているフリをしている。
「さあ,早く皆を元に戻しやがれ!」
西原は喧嘩腰の強い口調で言った。西崎はその口調に完全に怯えている。皆が西崎の回りをぐるっと囲んだ。
「……それは,できません……」
「なぜ?」
西原。
「だって本体が無ければ元に戻すも何も全然できないじゃないですか!」
西崎が震える声でまくし立てる。
「うん。確かにそれは一理あるな」
織部がうなった。