Vol.37 決戦‐5
「おらおら〜!一気に吸い込め〜!」
掃除機の吸引力は予想以上に強かった。
「山椒は粒でもぴりりと辛い」
とはよく言ったものだ。目の前の舗装路面がもこっと隆起し出す。すると路面はみるみるうちに凸凹となって行く。それだけではない。それまで西崎の回りを常時取り巻いていた魂達も,その威力には勝てず,掃除機の餌食となってしまった。そのすさまじい光景に,僕は戦慄した。
――強ぇ。こいつとてつもなく強ぇよ。これじゃぁ西原君なんか一溜りも無ぇじゃん――
魂が簡単に吸い込まれてしまうという事は,西原や畑部達といった“魂軍団”にとって,あの掃除機はかなりの脅威となるはずだ。
――くッ,一体どうすりゃいいんだよ!――
僕は頭を抱え,悩んだ。打開策が見つからない。先頭に立っている西原。明らかに危険だ。そう思っていた矢先,今まで踏み止まっていた西原の両足がじりっじりっと動いて行った。
――ヤバい!――
そう思った僕は,まず西原達を抑え付けようと努めた。しかしそんな努力も虚しく,西原は吸引口へと吸い込まれて行ってしまった。
「西原君!!」
皆が叫ぶ。しかし西原が戻って来る事は無かった。
――このままじゃ皆がやられちゃう。何とかしなくちゃ――
僕は後ろを向いた。そこには織部,高野,滝谷,そして長田がいる。しかし畑部達魂の姿は見えない。
「先生,畑部さん達はどうしたんですか?」
僕は訊ねる。
「あぁ,ここにいるよ」
織部はどこで拾って来たのか,中身の沢山詰まったスーパーのビニール袋を指差した。そこに丸め込まれた魂が入っているのだろう。長田が大事そうに抱えている。
「よしッ,これで魂の危険性は無くなった。あとは何とかしてあの掃除機を撃破するかだ」
僕はそう自分に言い聞かせた。息がいつの間にか切れ切れとなっている。確実に体力が吸い取られている証拠だ。あの掃除機にはそんな力も持ち合わせていたのだ。
――畜生!どうすれば……――
僕は目の前で岩肌となった路面を見た。
――無駄な事かもしんないけど……――
僕は岩肌から小石を取り出し,掃除機へ向かって投げてみた。