Vol.35 決戦‐3
西崎はその後も魂達に道端の小石をぶつけられたりしていた。
「……畜生……!……まだまだだ……!」
西崎は残りわずかとなった体力を懸命になって振り絞り,言った。そして拡声器を震えた手でつかみ取ると,それを杖代わりにしてよろよろと立ち上がった。西崎の頭に引っこ抜かれた雑草が飛んで来る。
「まだやるか?」
西原は高らかに言った。
「……くッ……おのれ,たかが魂の分際で……!」
西崎は汗と泥に塗れた顔を右腕で拭った。しかし西原達魂はそれを完全に無視。西崎の怒りのボルテージは徐々に上がって行く。
「……こうなったら……仕方ねぇな……」
西崎はそう呟くと,後方数m先に停められているバイクの許へと向かって行った。西崎がやって来た時に乗っていたバイクだ。青が重く輝き,そして大きい。西崎はバイクの所で何やらごそごそとやっている。そしてそれが終わると,西崎は何とあのラバーカップ(いわゆるトイレのキュッポン)を出して来た。西崎の移動手段と思われるあの大きなバイクとは対照的に,ラバーカップの方は何といってもシンプル。白い柄に黒いゴム。定番だ。これが強力な武器となるとは見た目上とても思えない。一体西崎は何をやらかすつもりなのかと僕が首を軽く右へ傾けた瞬間,長田と春川がほぼ同時に叫んだ。
「ポン!!あれには気を付けて!」
「……へ?」
2人の突然の絶叫に,僕は後頭部に小石がこつんと当たったかのような軽い衝撃を受けた。
「ふぬけてる場合じゃないよ!あれが私達の体と魂を分離した道具なんだから!」
「……あれが?」
「……もういいよ!あいつに魂でも抜かれちゃえ!」
「あ〜あ〜解ったよ」
畑部に忠告されたものの,どうしてもあの道具の力が信じられなかった僕。実際現場を見ていないのだから仕方が無いといえば仕方が無いのだが。畑部達魂はその西崎の道具の怖さが理解できるのかもしれないが,僕や高野,そして滝谷のような被害を被っていない人間とすれば,あの道具はただのトイレ用品とでしか捉えようが無いのだ。
……しかしその気持ちはその後一瞬にして変わって行くのだった。
「……根岸……。どうやらこれが信じられないようだな……。解った……。じゃぁこの道具の威力,……発揮させてもらおうじゃねぇか……!」
西崎はそう言うと,ラバーカップのカップの方を天の方角へ向けて持ち,そしてさらにそれを薙刀の構えの如く持ち替えた。カップの口は明らかに僕の心臓を狙っている。僕の胸の鼓動は今まで生きて来た中でも類を見ない程の物凄い勢いで滅茶苦茶に高鳴っている。