Vol.30 午後‐1
「バスに乗って行けば善くね?」
「そうか!その手があったか。バスの中なら冷房が効いてて涼しいしね」
西原の画期的な提案に,僕は西原に尊敬の念を抱いた。
「誠,この辺で一番近いバス停ってどこだ?」
織部が訊ねた。
「この辺でしたら市の循環バスの『北河原小学校前』が一番近いと思います」
僕が答えた。
「よし,解った。じゃあそこへ行ってみよう。誠,案内してくれ」
「はい」
そのバス停まではそう遠くはなかった。僕はバス停に到着すると,そこにあるバスの時刻表に注目した。
「うわッ,やべッ。このバス次停まるの14時33分だよ」
僕は失望した。このバス停から目的地の横塚バス停へ行くには市内循環の北循環左回りのバス
「ふれあい号」
に乗らなければならない。しかしそのバスは14時半を回らないとそこへはやって来ない。僕達はバス停の歩道へへたり込んだ。
「どうするの?」
畑部が言った。
「さあ?」
僕はもうどうでも良くなっていた。
「先生,車乗って来て下さいよ」
畑部は織部に言う。
「……そうだな。じゃぁ誠,一緒に来てくれ」
「……え?いや他の皆も連れてかないと……」
「あ,そうだったな」
織部はそう言って皆を取りまとめた。皆汗に塗れてかったるそうに歩き出した。
こうして僕達は再び落合橋に到着した。そして再び織部の車に乗る。車は県道59号を東へと進んで行った。
横塚バス停へは10分程で到着した。
横塚バス停。
その周辺はいかにも昭和な,田舎情緒溢れる独特の雰囲気が漂っている。中学時代の写生会で校外の風景を描く課題が出た時,僕はその横塚に住む石野友紀と一緒に石野の裏の道でラジオを聴きながらのんびりと絵を描いていた事があった。絵を描く事をサボって石野の家でテレビを視ていた事もあった。回りの先生が回って来て,その先生がそんな2人の様子を見て呆れていた事も……。それ以来僕と石野とは友情の糸でつながっている。僕はその事を思い出し,中学時代の郷愁に浸っていた。
「で,奴はどこにいるんだ?」
西原が元気良く言った。車内の冷房で皆の体調は完全に回復している。