Vol. 3 異変‐3
「……ねぎポンが…来る…少し…前に……」
「うん。それで?」
「……何か…変な奴が…変な奴が……」
「おい,そいつがどうしたんだ?」
「………」
沢辺は力尽きてしまった。その瞬間僕の胸は孤独感で押し潰された。時計の針は8時40分を指している。
それから5分が過ぎた。他クラスでは朝のSHRが始まっている。しかしH組は担任である河西が気絶している為いつまで経っても始まらない。河西はその場に放置されたままだ。
――これからどうすればいいんだ?――
僕は途方に暮れながら他クラスのSHR終了時刻を待つ。他クラスの生徒には害は及んでいないはずだ。もしかしたら沢辺の言っていた
「変な奴」
の情報を得る事ができるかもしれない。しかし他クラスで僕の知っている生徒はほんのわずかしかいない。小・中と同じ学校を共にしてきたA組の今津葉子とD組の滝谷悦志,同じ部活に所属しているA組の長田希代実とE組の高野康平の4人。僕はそれまでの間,この硬直した雰囲気の中で考えた。
――とりあえず河西先生をどうにかしなくっちゃ。んでもこの事はあんまり大事にはしたくないし――
僕は揉め事があまり好きという訳ではないのでできれば少人数で解決したい。しかしそれで上手くいくだろうか?SHR終了時刻まであと3分。時の流れの遅さをまざまざと実感させてくる。僕は自分のタオルを流しの水に浸し,それを河西の額に乗っけた。そしてひたすら終了時刻を待っていた。
終了時刻まであと1分。他クラスのSHRが予定よりも早く終わった。他クラスの生徒が続々と廊下になだれ込む。その波はこのH組にもわずかながら押し寄せてきた。……しかし,その生徒達の様子もおかしかった。終始ぼーっとしていて何にも喋らないのだ。まるで魂を抜かれたかのように……。
――どうなってるんだ?さっきまであんなに騒いでいたのに――