Vol.27 河川敷‐4
「ウコ〜ン!!行かないでぇ〜!」
春川達女子が呼び止めたが,ウコンが戻って来る事は二度と無かった。
「どうしよう……」
春川が言った。時刻は11時半を回っていた。僕達は落合橋の手前で車を下り,織部の愛車は付近の空き地に駐められた。皆福川の堤防斜面でぐったりとしている。
「あれっ?あいつはどうした?」
織部が訊ねた。実は織部が来たのはウコンがいなくなった後の為,織部はこの事を全く知らないのだ。
「行っちゃいました……」
春川が答えた。その後をつなげるようにして畑部が経緯を説明,織部は落胆した。
「……あれッ?誰か来るよ?」
僕は堤防の上の砂利道を遥か水門方面から走って来る1人の人の姿を発見して言った。
「ええっ?ただのジョギング中のおっさんなんじゃないの?」
畑部がかったるそうに言った。
「そうは見えないみたいだけど」
柿沼が言った。
「誰だろう……?」
僕は目を凝らした。僕達へ向かって何か叫んでいる。聴き覚えのある声。しかし何と叫んでいるのか判らない。その姿が段々と大きくなっていく。
「あッ!あれ西原君じゃない?!」
僕は言った。高校野球部ならではの丸坊主頭,人懐っこい雰囲気,速い足。間違い無い。1年H組の西原雄大だ。しかし沢辺のように
「ウコン」
のパターンで来る場合もある。僕はそう心に言い聞かせ,西原に臨んだ。
「西原君,どうしたの?よくここが解ったじゃん」
見ると,西原の姿は半透明だった。僕はとりあえず安心した。西原の息は荒く,汗が滴り落ちている。
「ねぎまこ,……今逃げて来たんだ」
西原の言った
「ねぎまこ」
というニックネームはH組のほとんどの男子が僕に対して使っている。しかしその一方で畑部達の言う
「ねぎポン」
や
「ポン」
といったニックネームを使うのは小・中学校時代の友達や南高放送部等一部の生徒のみ。中学校を卒業するまでの間あんなにメジャーだったニックネームが高校に入って一気にマイナーに……。僕は最初
「ねぎまこ」
というニックネームに対し強烈な嫌悪感を抱いていたのだが,今ではもうすっかり馴染んでいる。
「……ちょっと……休ましてくんない?」
西原は堤防の芝生に倒れ込んだ。僕がこれまでの経緯を説明する。
「えッ?……俺『ウコン』に会ったよ?……何か……悲しそうな顔してたな……」