Vol.20 魂‐3
「……ねぎポン!ねぎポン!!」
「……んん?……あ,ヤベッ。寝ちゃったよ〜」
皆に呼び起こされて初めて自分が寝てしまっていた事に気付いた僕。暑さの為か,制服の背中が少し濡れている。時刻は10時23分だった。
「何もたもたしてんの?置いてくよ?」
「お,おいちょっと待ってくれよ」
畑部に言われて僕は急かされた。僕達は南側のゴールの裏からバレーボールコートへ向かって歩いて行った。北側のゴールはハンドボールコートの西隣にある為後回しにした。
バレーボールコート周辺には何も変化が見られなかった。僕達は次に弓道場へ向かった。弓道場は一面芝生でできていて,広くも無く狭くも無い広場のような所だ。僕達は場内を散り散りになって捜索を始めた。すると長田が,
「あっ,織部先生!!」
と言ってどこかへ走って行ってしまった。
「どうしたの?!」
畑部がそう言って長田の許へと駆け寄る。辺りの空気が緊張した。
2人の後を追った先には生物の教師として僕達H組や他のクラスの生物を教え,僕達の所属している南高放送部の顧問をも務めている織部徹の姿が長田が人質となっていた時とほとんど同じ状態で放置されていた。
「あ〜助かった。皆ありがとうな」
女子の2人に助けられた織部は僕達に向かってお辞儀をした。
「お前ら大丈夫だったか?」
「大丈夫ですよ」
畑部と長田が口々に言った。僕はこれまでの経緯を織部に話した。
「1限の授業で教室に入ったらさ,いきなり後ろからこの袋をかぶされたんだよ」
「そうだったんですか……」
僕は重要な情報が得られる事を心の中で願ったのだが,それは実らなかった。僕は落胆した。
「あれっ?これ何ですか?」
滝谷が織部のかぶっていた袋の中に1枚の便箋が入っているのを発見し,言った。
「何だろう?」
織部が便箋の中身を読む。そこにはワープロ文字でこう書かれていた。
『脅迫状
南高は俺が乗っ取った。取り返したくば河川敷まで来い。 羽生田TRYアングル(はにゅうだとらいあんぐる)』
「何それ?そのふざけた名前。これが犯人の名前なの?」
畑部が呆れ笑っている。
――『羽生田TRYアングル』?どっかで聞いた事あるなぁ――
僕は思った。