Vol.10 「変な奴」‐5
「ここも同じだね」
高野が教室内を見回して言った。このクラスの雰囲気もどこか暗い。僕も教壇に上がって室内を見回す。
「あれ?あそこに空席があるよ?」
僕は40ある座席の中に1つだけ空いている座席があるのを発見した。
「どうせ公欠か何かじゃないの?」
高野が言う。
「うん……」
僕は空席のある方に向かって歩き出した。それに滝谷と高野が続く。
「……何だろう?」
僕はその席の前で立ち止まり,言った。椅子の上に女子がよく使うような可愛らしい柄付きのメモが1枚きちんと折り畳まれている。僕はそれを拾い,2人に同意を求めた。
「これ……,読んでもいいのかなぁ……?」
「いいんじゃない?」
高野はヤケクソになっている。もう何でも来いといった感じだ。僕はゆっくりとうなずき,メモを広げた。
「……じゃあ,……読むよ?」
「……うん……」
僕は唾を飲んだ。滝谷も固唾を飲んで見守っている。
「『だれか助けてください!!』」
女子特有の細く角張った文字で走り書きされている。
「これ,この席の人の?」
滝谷が訊ねた。高野は隣の机に座ってぼーっとしている。
「あぁ,多分ね。続けるよ?」
「いいよ,続けて」
「分かった。『今このクラスは大変なことになっています。なんか変な人がここの生徒から何か光るものを引っこ抜いているのです。そしてそれを抜かれた人は、ぬけがらとなってその場に放置されています。私は今からそいつの目をぬすんで教室から逃げようと思っていますが、もしかしたらつかまってしまうかもしれません。この手紙がだれにどんな形で読まれるかどうかは分かりませんが、どうか少しでも早くそいつを見つけてみんなを元にもどしてやってください。おねがいします!!』」
しばらくの間,教室内に沈黙が走った。それまでヤケクソになっていた高野もしっかりと机の上で固まっている。
「……これ,……マジかな?」
僕は思い切ってその沈黙を打ち破った。
「……そう思うしかないだろ」
滝谷の言う通りだと僕は思った。
「……この人,今どこにいるんかなぁ?」
「……さぁ?」
「……でもここにいないってことはどこかにいるって事なんじゃないの?」
「……それかそいつに連れ去られたとか」
「高野君,そんな事言うなよ」
僕が慌ててその言葉を打ち消そうとしたが遅かった。滝谷の余計な一言により,教室内に再び重い空気が漂ってしまった。しかしその中で僕はある矛盾点に気付いた。